原題:“Micmacs A Tire-Larigot” / 監督、脚本&製作:ジャン=ピエール・ジュネ / 脚本&台詞:ギヨーム・ローラン / 製作:ジル・ルグラン、フレデリック・ブリヨン / 撮影監督:永田鉄雄,A.F.C. / 美術:アリーヌ・ボネット,A.D.C. / 編集:エルヴェ・シュネイ,A.C.E. / 衣装:マデリーン・フォンテーヌ / 特殊効果:レ・ヴェルサイユ / デジタル特殊効果:アラン・カルソー / 音楽:ラファエル・ボー / 出演:ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ、ニコラ・マリエ、ジャン=ピエール・マリエル、ヨランド・モロー、ジュリー・フェリエ、オマール・シー、ドミニク・ピノン、ミッシェル・クレマド、マリー=ジュリー・ボー、ユルバン・カンスリエ / 配給:角川映画
2009年フランス作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:松浦美奈
2010年9月4日日本公開
公式サイト : http://www.micmacs.jp/
[粗筋]
バジル(ダニー・ブーン)の人生は、武器でめちゃくちゃにされてしまった。
父親はサハラで地雷を撤去中に事故死、バジルはショックで心を病んだ母から引き離され、孤児院で育った。成長し、レンタルビデオ店の店員として何とか暮らしていたが、店の前で起きた発砲事件に巻き込まれて頭に被弾、植物状態になる危険があったため、脳味噌の中に銃弾を残したまま病院から放り出されたときには、家も仕事も失っていた。
天性のイタズラ心を活かしてどうにか日銭を稼いでいたバジルに、ある日、ひとりの老人が声をかける。長年刑務所で暮らし、ギロチンにかけられたところ、歯が引っ掛かったことで命拾いしたというその男プラカール(ジャン=ピエール・マリエル)は、バジルの人柄を気に入り、自分たちの“家族”に招き入れる。
プラカールの“家族”とは、みな身寄りはないが、それぞれに特異な経歴や才能を持つ人々の集まりであった。発明家のプチ・ピエール(ミッシェル・クレマド)らが分担して廃品を回収し、再利用することで収入を得ている。冷蔵庫の野菜室に入ることも出来る軟体女ラ・モーム・カウチュ(ジュリー・フェリエ)とはしばしば衝突するが、どこかしら似たところのある一同とバジルはすぐに馴染み、この暮らしを受け入れていく。
安穏とした時が流れていくかと思われたが、ある日突然、転機が訪れた。廃品を拾って戻る途中、バジルは向かい合って建つ2軒のビルを目にして、息を呑む。ひとつは、バジルから父親を奪った地雷を製造した“ヴィジランテ兵器会社”。もうひとつは、彼の頭に未だ残る銃弾を製造したオーベルヴィリエ軍事会社”――奇しくも、バジルの人生に苦難を齎した“仇”が、揃っていたのだ。
――そして、このときから、バジルのキュートで痛快な“
[感想]
ジャン=ピエール・ジュネ監督は、もしかしたら今最も個性的な映画作家と言えるかも知れない。ある程度映画を愛する人に、予備知識もなくその作品を見せたとしたら、かなり確実に彼の仕事だ、と解るはずだ。奇妙で愛らしい登場人物たち、鮮やかな色彩感覚に、シュールな感性の溢れる言葉遣い。登場人物の回想をフキダシの中で描いてみたり、表現もユニークだ。個性の際立った映画監督は決して少なくないが、最も見分けやすい作り手に違いない。セバスチアン・ジャプリゾの小説に基づく戦争映画『ロング・エンゲージメント』から実に5年振りとなる本篇も、見間違いようのないほど完璧なジャン=ピエール・ジュネの映画に仕上がっている。
前作と比較して際立っていることは、戦争の悲劇を描くことで静かに反戦を訴えていたあちらに対し、本篇は一種、あからさまなまでに反戦の意志を顕している点だ。自らの人生に癒えようのない傷を残した軍事産業に復讐する、という形で、剥き出しの反抗を示している。
だがそこで、暴力的にもならず、深刻にもならないのがジュネ監督たる所以だろう。そもそも悲劇の当事者であるバジルの生き様は、確かに辛そうではあるのだが、悲愴感をほとんど感じさせない。仲間を得て、彼らの協力により壮大かつ痛快なイタズラをしかけていく様子には、“戦争反対”と大上段に構えた印象は皆無だ。単純に、“戦争はイヤだ”“武器なんて使うな”と叫んで、無自覚に人命を弄ぶ人々に痛烈な、だが命を危険に晒さない範囲の報復を施していく姿はむしろ、心底楽しそうである。
面白いのは、レンタルビデオ店で漫然と映画を眺めて時間を過ごしていたころよりも、銃弾を頭に受け路頭に迷っているときの方が、バジルの姿が活き活きしているほどなのだ。それまでは不幸な生い立ち故に、日々をどうにかやり過ごせばいい、と思っていたのが、住居も仕事も失ったことで逆に生命力を取り戻したかに映る。そして、それまで失っていた“仲間”、“家族”まで手に入れたのだから、出だしよりも精気に満ちているのも当然かも知れない。
そうしてバジルを受け入れる世界は、冷静に鑑賞すれば、どちらかというと薄汚れている。生活の拠点はガラクタを寄せ集めた土地で、住居もガラクタの山を掘って造ったような代物。同居人はおじさんおばさん、女性だって贔屓目にも美人はいない。にもかかわらずキュートに映るのは、ジュネ監督独特の映像と表現の魔術によるものだろうが、そう見せてしまうことが、本篇に漲るポジティヴな空気に説得力を齎している。
世に多くの反戦映画はあれど、こんな風に軽やかに爽快に描けるのは、ジャン=ピエール・ジュネ監督ぐらいものだろう。色彩豊かな映像も、極端なまでに特徴の立った人物像も、ジュネ監督が完成させたものであり、そうして築きあげられた彼の世界観の中でなければ、本篇は描きれないし、こうも心地好い後味は残さない。
前述の通り、美人は出て来ないし、いささかマニアックな美の描き方はどうしても性に合わない、という人もあるだろう。その辺の相性を予め見極めておく必要はあるだろうが、『アメリ』や『ロング・エンゲージメント』が好きだったという方、グロテスクなものであっても愛らしく描かれていれば良し、と言い切る自信のある方ならば、幸福な余韻が堪能できる逸品である。
関連作品:
『アメリ』
コメント
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