原題:“Kelly’s Heroes” / 監督:ブライアン・G・ハットン / 脚本:トロイ・ケネディ・マーティン / 製作:ガブリエル・カツカ、シドニー・ベッカーマン、ハロルド・ローブ / 撮影監督:ガブリエル・フィゲロア / プロダクション・デザイナー:ジョナサン・バリー / 編集:ジョン・ジンプソン / 特撮:カーリ・バウムガートナー / 音楽:ラロ・シフリン / 出演:クリント・イーストウッド、テリー・サヴァラス、ドナルド・サザーランド、ドン・リックルズ、キャロル・オコナー、ハリー・ディーン・スタントン、ギャヴィン・マクレオド、ハル・バックリー、スチュアート・マーゴリン、ジェフ・モリス、リチャード・ダヴァロス、ペリー・ロペス、トム・トゥループ / 配給:MGM / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
1970年アメリカ作品 / 上映時間:2時間24分 / 日本語字幕:?
1970年12月26日日本公開
2010年7月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
[粗筋]
第二次世界大戦中のフランス。味方のミスによる砲撃に悩まされる連合軍の拠点に、捕虜となったナチスの将校が運び込まれた。多忙を極めた一等曹長のジョー(テリー・サヴァラス)に請われて、護送を担当したケリー元中尉(クリント・イーストウッド)が訊問をすることになったが、将校が漏らしたのは、フランス内のドイツ軍拠点に14,000個のインゴットが持ち込まれた、という事実だった。
かつてのミスから階級を剥奪されたケリーは、この混乱に乗じて、ごく少数の兵士で敵地に潜入し金塊を奪うことを計画する。最初に話を持ちかけたジョーは、遠からず最前線に送り出される隊員の士気を削ぐ、とケリーに口外を禁じるが、ケリーは無視して布石を打ち始めた。
物資の調達のために頼ったクラップ三等曹長(ドン・リックルズ)のもとで、指揮官を失い手持ち無沙汰となっている戦車隊のリーダー・オッドボール軍曹(ドナルド・サザーランド)も計画に加わり、ケリーの目論見は一気に現実のものとなってくる。
だが、何のかんのと言っても、金塊の在処は敵地のど真ん中にある。金塊の時価が1,600万ドルと莫大なこともあって、ケリーはジョーの部下たちをそそのかし、ジョーもろとも仲間に引き入れてしまう。
折しも上官が基地を空ける3日間を狙って企てられた一攫千金の計画は、だが当然のように、じわじわと狂いを生じていく……
[感想]
最近の感想で何度か記した通り、初期のクリント・イーストウッドは自らの出演作を、のちのちの布石となることを考慮して吟味している節がある。そして、最近刊行された彼の評伝によれば、本篇で彼が意識していたのは、同じ1970年に製作され話題となっていた『M★A★S★H マッシュ』であったそうだ。
こういう予備知識を持ったうえで鑑賞すると、意図と現実と隔たった出来に、同情を禁じ得ない。本篇は『マッシュ』のような、戦争に対する諷刺を効かせたコメディというよりは、第二次大戦を舞台に、これまでクリント・イーストウッドが主演してきた西部劇の流儀を持ち込んだパロディ映画、といった趣のほうが色濃いのだ。
特にそれが象徴的となるのはクライマックスだ。最後の障害となる戦車に向かって歩み寄る主要キャスト3人の振る舞いは、完全に“西部劇”を意識している。前述の評伝では『続・夕陽のガンマン』と比較しているが、成る程と頷ける。
最初の脚本では、戦場においても剥き出しになる人間の欲望と、見た目に振り回される人間の滑稽さを皮肉る意図が強かったのかも知れないが、仕上がった本篇では皮肉や諷刺よりも醜悪な人間の言動を笑う、といった表現のほうがそぐわしい。諷刺としては一貫性や芯に欠いており、機能していないのだ。『マッシュ』のような映画を狙うのであれば、途中で倒れた人々を顧みる部分や、終盤の成り行きにもう少しエッセンスが必要だっただろう。
だが、『マッシュ』を意識せずに鑑賞すれば、戦場を舞台とした西部劇的なコメディ――社会派の映画ではなく娯楽映画として充分に面白い作品に仕上がっている。
そもそも発端からして、味方の誤射で危険に晒される基地、そんな中で徴発したボートを運び出すことに汲々とする責任者の姿がひたすらユーモラスだし、クリント・イーストウッドがまさに西部劇で演じる“名無しの男”然とした振る舞いで周囲を巻き込んでいくと、周りの人々の打算が一気に顕わになっていく様は、妙な言い方だが堂々たるコメディぶりである。
当初イーストウッドが狙っていた『マッシュ』において、マイペースな軍医を飄々と演じていたドナルド・サザーランドが、本篇では戦車隊の隊長として実にいい味を出している。指揮者がいないからと、戦車をテントのようにして景勝地での生活を満喫する姿や、目的地までの経路にある橋を前にした振る舞いなど、彼の言動がコメディとしての本篇の愉しさを際立たせている――うまく調理すれば、諷刺としても機能する描写が多かったのにはやや苦笑を禁じ得ないが。
物語の滑稽さを補強するのが、遥か後方にいる司令官の存在だ。ケリーたちの独断専行を、切れ切れの情報でしか把握出来ない彼が誤解に誤解を積み重ね、ひとりエキサイトしていく。こちらもひと工夫あれば諷刺として機能しそうなモチーフだが、しかしコメディとして充分に活きていることは間違いない。
他方、戦争アクションとしてもなかなか迫力のある仕上がりだ。冒頭の砲撃シーンもそうだが、地雷原を挟んでの銃撃戦、そしてクライマックスの襲撃など、策略は込み入っていないが、非常に見応えがある。前述した西部劇風の振る舞いも、一般の戦争映画とは微妙に異なった風味をもたらしている。
当時のイーストウッドにとってはいささか不本意な出来映えだったかも知れないが、彼のスター性と持ち味を工夫した戦争コメディ、として観れば満足のいく1本である。少なくとも、リアルタイムでイーストウッドの作品を追ってきた人々は充分に堪能できただろうし、いま観ても太鼓判を捺せる面白さだと思う。
関連作品:
『荒野の用心棒』
『夕陽のガンマン』
『マンハッタン無宿』
『荒鷲の要塞』
『真昼の死闘』
『許されざる者』
『父親たちの星条旗』
『硫黄島からの手紙』
『カプリコン・1』
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