『いつも2人で』

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『いつも2人で』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『いつも2人で』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。

原題:“Two for the Road” / 原作&脚本:フレデリック・ラファエル / 監督&製作:スタンリー・ドーネン / 撮影監督:クリストファー・チャリス / 編集:マドレーヌ・ギユ、リチャード・マーデン / 衣装(オードリー・ヘプバーン担当):ケン・スコット、ミシェル・ロジェ、パコ・ラバンス、マリー・クヮント、ホール&ダフィン / 衣装(アルバート・フィニー担当):ハーディ・アミエス / タイトルデザイン:モーリス・ビンダー / 音楽:ヘンリー・マンシーニ / 出演:オードリー・ヘプバーン、アルバート・フィニー、ウィリアム・ダニエルズ、エレノア・ブロン、クロード・ドーファン、ナディア・グレイ、ジャクリーン・ビセット、ガブリエル・ミドルトン、キャシー・チェリムスキー、ドミニク・ジュース、ジュディ・コーンウェル、ヘレン・トシー、イヴ・バルサック / 初公開時配給&映像ソフト最新盤発売元:20世紀フォックス
1967年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:太田直子
1967年7月15日日本公開
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
2016年10月5日映像ソフト日本最新盤発売
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/5/10)


[粗筋]
 1954年、ジョアンナ(オードリー・ヘプバーン)は旅の空で、のちの夫となるマーク・ウォレス(アルバート・フィニー)と出会う。意気投合し、連れ立ってヒッチハイクをするうちに、ふたりは惹かれあっていった。
 やがてふたりは結婚し、キャサリンという名前の娘を授かる。かつてはヒッチハイクの貧乏旅をしていたが、マークが建築家として成功したことで、同じ道程を旅するときの交通手段は、友人一家との相乗りから中古車、そして高級車へ、宿泊先も高級ホテルに変わっていく。
 だがその一方で、強く愛し合っていたはずのふたりの関係は、年を追うごとにぎこちなさを増していく。出会いから12年、ジョアンナとマークは、幾度めかの夫婦の危機を迎えていた――


[感想]
 さほど予備知識を詰めこまず鑑賞したので、凝った構成と深みのある作りに、度胆を抜かれてしまった。
 粗筋がいつになく簡潔になったのは、丁寧に抽出しようとすると、複雑な書き方をせざるを得なかったからだ。出だしがいちばん最近の出来事となっているが、すぐに描写は何の断りもなく過去に遡る。ジョアンナとマークが出会った最初の旅から、結婚後に友人一家と赴いた旅、ジョアンナの懐妊が判明する旅、そして後年、関係がぎこちなくなってからの幾つかの旅、それらを時系列を掻き混ぜて並べている。こういう形式に親しんでいないひとは序盤、困惑するかも知れない――或いは最後までピンと来ず、“合わなかった”という印象だけ抱いて終わる可能性もある。
 しかし、現代では決して珍しくないこの手法だが、1967年時点で試行しているのはなかなか先進的だったのではなかろうか。現代では、すぐにモチーフや描写をリンクさせず、曖昧にすることで、のちのち驚きやカタルシスを演出することが多いのに対し、本篇は時間を超えて同じようなシチュエーション、言葉のやり取りを反復することで、逃れ得ない時の経過、関係性の変化を象徴的に際立たせる。若い日の、愛し合う喜び、命の輝きに満ちたふたりのやり取りが、仕事に成功して身なりが小綺麗になり、旅の様子が贅沢になっても、むしろ色褪せて映るのが切ない。
 ここで注目すべきは、年齢ごとの変化を表情や挙措で演じ分けた主演ふたりの巧さだ。若い日の溌剌とした様子から、後年の苦難を経たあとの穏やかな緊張感を孕むやり取りまで、雰囲気を巧みに変化させメリハリを付けている。とりわけオードリー・ヘプバーンは、ファッションの助けも借りつつ、20代の若々しさから中年に入った女性の倦怠感まで見事なグラデーションを作り出している。彼女と言えばどうしても『ローマの休日』の瑞々しさがまず思い浮かび、初期の優れた存在感、唯一無二のオーラが鮮烈な印象を残すが、14年を経た本篇には俳優としての巧さも光っている。その生涯に対して、俳優としてのキャリアは意外なほど短いオードリーだが、もともと持ち合わせた素質を短期間に育み、昇華させたことが本篇からは窺える。
 惜しいのは、構成のユニークさが際立つ一方で、その描き方を完成させられなかった点だ。ファッションやその行動で時間的経過、社会的地位やふたりの関係性の変化を表現してはいるが、咄嗟に把握しにくいので、不慣れなひとには敬遠されかねない。同じ趣向を後年のクレバーな作り手が手懸ければ、カメラのレンズを変えたり、年代ごとに色調に一貫性を持たせたり、と更にメリハリをつけていたはずだ。或いは、早すぎた作品、と言えるかも知れない。
 しかし、ユニークな発想を洒落た手管で構成しながら、映画としての滋味も演出し、かつ俳優として円熟期にあったオードリーの輝きを焼き付けた、という点で極めて貴重な作品と言える。オードリー作品としてはメジャーではないが、一部で熱心に支持されている、というのも頷ける。


関連作品:
パリの恋人』/『シャレード
恋愛準決勝戦』/『雨に唄えば
ローマの休日』/『麗しのサブリナ』/『昼下りの情事』/『ティファニーで朝食を』/『マイ・フェア・レディ』/『オリエント急行殺人事件(1974)』/『卒業(1967)』/『アイリス』/『ブリット
ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』/『バッド・エデュケーション』/『パルプ・フィクション』/『レザボア・ドッグス』/『呪怨』/『(500)日のサマー

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