『ヒーロー・ネバー・ダイ』

ヒーロー・ネバー・ダイ?真心英雄? [DVD]

原題:“眞心英雄 A Hero Never Dies” / 監督:ジョニー・トー / 脚本:セット・カムイェン、ヤウ・ナイホイ / 製作:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ / 製作総指揮:ダネール・ラム、ダニー・ウォン / 撮影監督:チェン・シュウキョン / プロダクション・デザイナー:ブルース・ユー / 美術監督:サイモン・ソー / 編集:チャン・チーワイ / 武術指導:ユエン・ブン / 音楽:レイモンド・ウォン / 出演:レオン・ライラウ・チンワン、フィオナ・リョン、ヨーヨー・モン、フォン・ピン、ヤム・サイクーン、佐藤圭之、マイケル・ラム、ユエン・ブン、チュン・ピン、ラム・シュー、チュウ・チーシン、リュー・チンティン / 配給:Only Hearts / 映像ソフト発売元:Art Port

1998年香港作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:?

1999年8月28日日本公開

2000年7月25日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2010/12/18)



[粗筋]

 ジャック(レオン・ライ)とチュウ(ラウ・チンワン)はそれぞれ敵対し合う組織で、ボスの用心棒として働いている。激化する抗争の中で、互いの仲間や部下を倒しながら、しかし二人の行動は何処か似通っていた。

 遂に事態は最悪の展開を迎え、タイの宿で壮絶な銃撃戦を繰り広げた挙句、ふたりとも瀕死の重傷を負う。しかし、ことここに及んで、ふたりのボスは“将軍”と呼ばれる大物を仲立ちに手打ちをし、組織は合併した。

 チュウは傷がもとで両脚を切断する羽目に陥ったが、合併した組織は彼に対して何ら補償をしなかった。チュウの昔からの恋人(フィオナ・リョン)は激昂し、何度もボスたちのもとに乗り込んだ挙句、とうとう殺されてしまう。

 脚を失い抜け殻となっていたチュウだったが、恋人の死を契機に復讐を決意した。行動しやすいように改造した台車を駆り、体を鍛え、来たる日に向って粘り強く準備を重ねていく。

 同じ頃、どうにか恢復したジャックは、タイに潜伏していた。香港には戻らないつもりでいた彼だったが、やがてある出来事が、チュウ同様にジャックを戦いの世界へと呼び戻す……

[感想]

 まだ満足な数を観たわけではないので断言は出来ないが、ジョニー・トー監督流ノワールの作風が完成したのは『ザ・ミッション/非情の掟』だったのだろう。職人監督的な仕事の多かった初期には出来なかったこういうタイプの映画を、自らの制作会社を立ち上げて以来積極的に作るようになった、という話だが、2000年代に発表された同様の作品群に見られる特徴が、『ザ・ミッション』の前年に製作された本篇には幾つか抜けている。

 ジョニー・トー監督といえばスタッフ、キャストとも同じ人物を集中して起用する傾向にあるが、2000年以降に頻繁に起用されるサイモン・ヤムやニック・チョンの姿は見えず、最も象徴的な俳優であるラム・シューも本篇では端役扱いになっている。ノワールやアクションに限らずジョニー・トー監督のコクとなっている食事のシーンもあまり印象に残らない程度だし、銃撃戦のアイディアも、『エグザイル/絆』などと比較すると、無理なシチュエーションを充分に補強出来ていなかったりと、未完成の趣だ。

 だが、ジョニー・トー監督流ノワールならではの熱をクライマックスに向けて着実に高めていく語り口はほぼ完成されている、と言っていい。最初の抗争シーンでの人を食った、しかし凛々しい振る舞いのあと、クラブの前と中とで繰り広げられる激しいがある意味でキュートな駆け引きで、男ふたりの特異な関係性を描く流れの巧みさ。中盤で早くも物語の締め括りを思わせるような展開を描いておいて、それからの雌伏の時に幾つもの屈辱と悲劇を盛り込む。緊迫感と興奮がピークに達したとき、辿り着くクライマックスのカタルシスは、後年の傑作に決して劣る物ではない。

 一方で、女たちの強さ、哀しさを、かなり力を描いている点が、後年の作品と比較すると意外で面白い。男のドラマ、という趣向を突き詰めていったせいなのか、『ザ・ミッション』では女性はほぼお飾りであるし、『エグザイル』や『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』ではもう少し露出はあるが、彩りのような印象は禁じ得ない。本篇のように、女性である、ということを誇張して悲劇性を際立て、男たちが終盤に示す苛烈な行いの原動力として用いるのは、2000年以降のジョニー・トー監督作品から先に触れてきた目からするとちょっとした驚きだ。特にチュウの恋人の献身ぶりはあまりに破滅的で切ないものがある。

 そうして、築きあげた要素が一気に炸裂するクライマックスは、だが少々強引さを禁じ得ないせいで、いささかファンタジーめいたものになっている。だが、よくよく振り返ってみると、それもある程度は狙って作りあげた印象とも解釈出来そうだ。問題は、ジャックとチュウが共闘するこのくだりで、チュウがどんな状態であったのか、明言していないことである――敢えて伏せることで曖昧になった部分が、もしかしたらある人物の自己満足に過ぎなかったかも知れない最後の戦いを、ギリギリでふたりと、彼らの恋人のものにすると共に、神話めいた気高さを添える要因ともなっているようだ。

 全体を眺めてみると、やはりもう少し補強が必要だったように思われ、後年の作品群よりも完成度はやや劣る。しかしほぼ完成直前まで磨き上げられたジョニー・トー監督の作風が、そういう段階であるからこそ色濃く匂いたち、近年の作品には見られない要素や未完成な部分と相俟ってユニークな魅力に繋がっている。

 ジョニー・トー監督作品に親しんでいないと、ラストの推移があまりに乱暴に映り納得しがたいかも知れないが、見せ場での荒唐無稽さをむしろ好むという人であれば、確実に心地好い痺れを味わえるだろう。『ザ・ミッション』を皮切りとする3部作をはじめ、最近のジョニー・トー監督が描く男の世界に惚れ込んでいる人ならば、当然のように観逃すべきでない1本である。

関連作品:

ザ・ミッション/非情の掟

エグザイル/絆

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

天使の眼、野獣の街

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