『フォロー・ミー』

『フォロー・ミー』

原題:“Follow Me!” / 監督:キャロル・リード / 原作&脚本:ピーター・シェイファー / 製作:ハル・B・ウォリス / 撮影監督:クリストファー・チャリス / 美術:テレンス・マーシュ / 衣裳:ジュリー・ハリス / 編集:アン・V・コーツ / キャスティング:サリー・ニコール / 音楽:ジョン・バリー / 出演:ミア・ファロー、トポル、マイケル・ジェイストン、マーガレット・ローリングス、アネット・クロスビー、ダドリー・フォスター、マイケル・アルドリッジ / 配給:Uni=CIC / 映像ソフト発売元:KING RECORDS

1972年イギリス作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:林完治

1973年1月13日日本公開

2010年11月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2010/12/28)



[粗筋]

 公認会計士のチャールズ・ダドリー(マイケル・ジョンストン)は悩んでいた。結婚してまだ日の浅い妻ベリンダ(ミア・ファロー)が最近、一日中出歩いているのだ。

 とある料理店でウェイトレスとして働いていた彼女の、世間知らずだが快活な振る舞いに惹かれて交際から結婚へとトントン拍子に話を運んだチャールズだったが、結婚後、ベリンダの行動は胡乱になった。知人を家に招こうとしても自宅を離れていることが多く、その理由を訪ねても、あちこちの観光地を歩き回っていた話しかしない。当然のように浮気を怪しんだチャールズは、探偵に調査を依頼した。

 2週間後、チャールズのもとに、奇矯な振る舞いをする男が現れる。ジュリアン・クリストフォルー(トポル)と名乗るその男は、当初、チャールズの依頼に従って調査を行う予定だった探偵が仕事で重傷を負ったため、代役を担ったのだ語った。クリストフォルーは散々もったいぶった挙句に、「ベリンダには親しくしている男がいる」と告げる。

 その事実を叩きつけられたベリンダは、詫びながらチャールズに事情を語る。だが、彼女の奇行には、思いがけない背景があった……

[感想]

 いちおう、ラヴ・ロマンスとかロマンティック・コメディと呼ぶべき作品なのだろう。ただ、序盤はコミカルで舞台的な表現が印象に残るものの、人によってはコージィ・ミステリのように映るはずだ。

 やや突き放したような、事態を客観視するようなナレーションに、“事件”を前に悩みつつもどこか滑稽な振る舞いの目立つ関係者。そして、肝心の探偵の実にユニークなこと。そういった彩りのひとつひとつもさることながら、浮気を疑われる妻の行動のみならず、観る者によっては別のところにも疑問を覚えるはずだ。果たして、ここで語られていることはほんとうに事実なのか? といった種類の、根深い疑問である。

 脚本を担当したピーター・シェイファーは、『探偵<スルース>』や『ナイル殺人事件』などミステリ映画の脚本を手懸けたアントニイ・シェイファーと双子の兄弟であり、共著である小説『衣裳戸棚の女』は好事家からも高い評価を得ていることから考えても、意識してそうした不自然さを仕込んでいる、と思われる。

 しかし、そうして鵜の目鷹の目で眺めていると、次第に奇妙な感覚に陥ってくるはずだ。顕著なのは粗筋で記したあと、ベリンダの語る“真相”である。ここで物語は急激にコメディとしての色合いを濃くする。納得すると同時に、謎解きとは種類の異なる“意外性”に、奇妙な昂揚感を覚える。

 本篇の真骨頂はここからなのだ。その時点まで鏤められていた描写を踏まえた奇妙で快いエピソード、そのあとは当然のように修羅場に突入するのだが、そのくだりでさえ不思議に愉しげだ。だがその一方で、それまでのさり気ない表現を汲み取って紡がれる心理が実に繊細なのである。チャールズ、ベリンダ、更には探偵の、それぞれの心情が、序盤の描写に自然と隠されていたことが解り、このくだりで時折こぼれる本心が抵抗なく沁みてくる。

 そして、これらを踏まえたうえでの結末の爽快さは筆舌に尽くしがたい。かなり端折った描き方でもあるのだが、観る者の脳裏にはそれまでの多くの場面が蘇るように仕向けられており、実際の尺以上の膨らみがある。そうして喚起されるイメージと、実際に撮られた映像は、観る者の胸を確実に暖かくするはずだ。

 悪人が全く登場せず、物語には巧妙なひねりが施されている。イギリスの観光名所を押さえた映像の完成度も高く、職人芸を感じさせる。これでなおかつ余韻が爽やかで、長く胸に響き続けるのだから、感服するほかない。ラヴ・ロマンスとかロマンティック・コメディとか、そういった分類に躊躇を感じるような人でも、是非ともいちどは試しに観ていただきたい。きっと観終わったあと、不思議に優しい気持ちになれるはずだ。

関連作品:

僕らのミライへ逆回転

クレイマー、クレイマー

追憶

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