『愛のそよ風』

愛のそよ風 [DVD]

原題:“Breezy” / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ジョー・ヘイムズ / 製作:ロバート・デイリー / 製作総指揮:ジェニングス・ラング / 撮影監督:フランク・スタンリー / 美術:アレクサンダー・ゴリツェン / 舞台装置:ジェームズ・ペイン / 編集:フェリス・ウェブスター / 音楽:ミシェル・ルグラン / 出演:ウィリアム・ホールデン、ケイ・レンツ、ロジャー・C・カーメル、シェリー・モリソン、ジョーン・ホッチキス、マージ・デュセイ、ジェイミー・スミス・ジャクソン、ノーマン・バートールド、リン・ボーデン、デニス・オリヴェリ / マルパソ・カンパニー製作 / 映像ソフト発売元:KING RECORDS

1973年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2009年7月8日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(201/02/22)



[粗筋]

 ハリウッドで不動産会社に勤めるフランク・ハーマン(ウィリアム・ホールデン)が自宅から出勤しようとした矢先、近くで所在なく佇んでいたヒッピーの少女が突如すり寄ってきた。家もなく自堕落に過ごし、とにかく食事にありつきたいだけだ、と判断したフランクは、車に乗せつつも適当にあしらう。

 そのあとすぐに少女は車を降りていったが、後日、少女はふたたびフランクの家に現れた。ブリージー(ケイ・レンツ)と名乗る少女は、車に忘れていったギターを取りに来たのだが、自分の家で気ままに振る舞う彼女に、フランクは辛辣なことを言い放ち、ブルージーは雨が降っているのにも構わず出て行ってしまう。

 だがブリージーはみたび、フランクの前に現れた。警察で保護された彼女は、近くに頼れる者を知らず、フランクを伯父と偽って、彼のもとに送らせたのだ。あまりに人懐っこい振る舞いを迷惑に思いながらも、フランクは彼女を拒むことが出来ず、ブルージーと話を合わせてしまう。折角カリフォルニアに来たのに、まだ海を見ていない――そんな彼女の我が儘に付き合って、早朝に車を走らせさえした。

 朝焼けに包まれた海辺で、愉しげにはしゃぐブリージーは、思いあまったかのようにフランクにキスをする――孤独な暮らしを楽しんでいたはずのフランクの生活に、このときからブリージーは、深く入り込むようになっていった……

[感想]

 クリント・イーストウッドの監督第3作にして、初めて自身が出演しない――実はちらっと映っているが、ヒッチコック監督風のお遊びの一環だろう――作品である。だが、日本では劇場公開されず、テレビで放映されたきり長年幻となっていた1本でもある。今となっては意外に思えるが、しかしまだ西部劇の俳優、そしてこの直前に初の続篇『ダーティハリー2』をヒットさせ、アンチヒーローとしての存在感を如実にしていた頃だけに、まったくイメージの合わない本作を公開するのに二の足を踏んだのでは、と察せられる。

 そう、本篇は当時のイーストウッドのイメージとはまるで別物だ。先行する監督作『恐怖のメロディ』のようなスリラー色もなければ、『荒野のストレンジャー』のような、不条理とはいえベースを西部劇に置いた作品ですらない。驚くほどストレートなロマンスなのだ。

 今となってはさほど驚くに値しないが、一流のビジネスマンと、宿無しのヒッピー少女との恋愛、という主題は当時としては異色だったことは察せられる。しかし、これといって派手な事件が起きるわけではなく、知的だが淡々としたやり取りの積み重ねで築かれる本篇の印象は非常に地味だ。最後までこの淡々とした調子が続くので、間延びした感も否めない。アクション映画主体でパワフルな作品に繰り返し出演し、監督作でもスリリングな娯楽を撮ってきたイーストウッド、というイメージで臨むと間違いなく期待と違う出来だろう。

 ただ、3作目にして既に監督としての手腕はかなり洗練されているのが窺える。あとのシーンを考慮した広がりのあるカメラワークに、ターニング・ポイントとなる海のシーンの美しさと、終盤との対比の巧みさには唸らされる。

 そして、オーソドックスながら話運び、人物配置に無駄がないのも見事だ。当初は軽薄な娘と捉えていたブリージーをフランク少しずつ、どこかおずおずと深く愛するようになっていく過程には説得力があるし、そんな彼が改めてブリージーと自分との関係に臆病になる動機の設定も見事だ。終盤でフランクが見せる心の動揺と最後の決断を、巧みに配置した人物と出来事とが絶妙に牽引している。

 過程が地味なら締め括りも非常に地味、だが画面作りの美しさと余韻に富んだ演出は清冽で、観終わっての印象は快い。クリント・イーストウッドらしさは微塵もない、と言ってよく、当時としては「なぜ彼が?」という不可解さは否めなかっただろうが、今に繋がる職人的な巧さを証明した、監督クリント・イーストウッドのファンならば観逃すべきでない作品だろう。

関連作品:

恐怖のメロディ

荒野のストレンジャー

真昼の死闘

白い肌の異常な夜

人生万歳!

コメント

  1. […]  これに先んじる『パーフェクト ワールド』の感想でも似たようなことを書いたが、この時点でイーストウッドは監督として充分な経験と技倆とを獲得していた。 […]

  2. […] 『タワーリング・インフェルノ』/『麗しのサブリナ』/『愛のそよ風』 […]

  3. […] 『愛のそよ風』 […]

  4. […]  俳優としてのクリント・イーストウッドは自らの出演作のイメージを微妙にコントロールしていた節があるが、監督としては更に徹底していたように感じられる。デビュー作の『恐怖のメロディ』はサスペンス、2作目『荒野のストレンジャー』は異色の西部劇、3作目にして自身が出演しないロマンス『愛のそよ風』を手懸け、続く第4作となる本篇ではまたしても趣を違え、山岳を舞台にしたスパイ・アクションに挑んだ、という格好だ。 […]

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