『シャレード』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン2前に展示された案内ポスター。 シャレード [DVD]

原題:“Charade” / 原作:ピーター・ストーンマルク・ベーム / 監督&製作:スタンリー・ドーネン / 脚本:ピーター・ストーン / 撮影監督:チャールズ・ラングJr. / 衣裳デザイン:ヒューバート・デ・ジヴァンシー / 編集:ジェームズ・クラーク / 作詞:ジョニー・マーサー / 音楽:ヘンリー・マンシーニ / 出演:オードリー・ヘップバーンケイリー・グラントウォルター・マッソージェームズ・コバーンジョージ・ケネディ、ネッド・グラス、ドミニク・ミノット、ジャック・マラン、ポール・ボニファ / 配給:ユニヴァーサル

1963年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:木原たけし

1963年12月21日日本公開

2011年2月15日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/03/08)



[粗筋]

 レジーナ・ランパート(オードリー・ヘップバーン)が旅行からパリの自宅に帰ると――家財道具一切合切が消えていた。そして、折しも訪れたグランピエール警部(ジャック・マラン)によって案内されたのは、屍体安置所。レジーナの夫チャールズは、何者かによって列車から突き落とされ絶命していたのだ。

 ひとり帰宅し、途方に暮れていた彼女に、今度はアメリカ大使館からの名目で呼び出しがかかる。大使館でレジーナの前に現れたバーソロミュー(ウォルター・マッソー)は、驚くべき事実を幾つもレジーナに突きつける。

 チャールズは戦争中、仲間たちと結託してアメリカ軍の金を掠め取っていた。だがチャールズは抜け駆けをし、その金を奪って逃亡を図っていたのである。しかし、どうやらかつての仲間に発見され、慌てて財産を現金化し、ふたたび行方をくらまそうとしたらしい。

 だが、チャールズの遺品には、売り払った家財に相当するものも、隠し場所の手懸かりも見当たらなかった。バーソロミューは、こうなった以上、レジーナが財産を隠し持っていると仲間たちは考えるだろう、と告げる。

 不安に怯える彼女を励ましたのは、直前の旅先で出会ったピーター・ジョシュア(ケイリー・グラント)と名乗る男。もともとチャールズの不誠実な振る舞いに離婚を決意していたレジーナは、ピーターの優しさに一気に惹かれていくのだが……

[感想]

 同じ午前十時の映画祭にて上映された『スティング』もそうだが、サスペンス、ミステリ的趣向のある映画で用いられた優れたアイディアはその後も繰り返し使われる傾向にある。

 本篇の重要な仕掛けのひとつも、ちょっとした読み物やフィクションで応用されすっかり手垢がついてしまったが、やはり名画として残っている作品での扱い方はちょっと違う。ミステリなどに慣れた者でも油断していると見過ごしてしまうし、その事実に気づく瞬間の表現、ドラマの盛り上げ方は実に劇的だ。翻って、これほど効果的に用いられているからこそ、強いインパクトを残し、再利用する者があとを絶たないのだろう。

 しかし本篇は、もっと大事な、事件の真犯人を仕込む手管も絶妙なのだ。なんとなく成り行きから想像することは可能だろうが、本篇はその真実を仄めかす伏線を、独特のユーモアを目くらましにして埋め込んでいる。クライマックス、その正体が明かされる瞬間に素直に驚ける人もそれはそれで幸いだが、細部の辻褄を重視して鑑賞している人であれば、その瞬間に幾つかの描写を思い出して唸らされるはずである。全体に細かなユーモアをちりばめた作品だが、そのユーモアがきちんと真相の隠れ蓑として有効に働いているのだ。

 隠れ蓑としても効果を上げている一方で、その一般のサスペンスから少し外れた、洒脱なやり取りがこの作品の魅力のひとつとなっている。敵味方入り乱れ、この状況でそんな余裕のある応酬を続けていていいのか? と思うような軽口が飛び交う様は、サスペンスとは思えない愉しさに満ちあふれている。緊張感自体はきちんと繋げているが、その中で笑いや陽気さが損なわれていない。

 互いに疑惑を覚えているにも拘わらず、随所で熱いやり取りを交わすオードリーとケイリーは――だが、個人的には少々鬱陶しく感じた。この期に及んで愛を囁くのは不自然だろ、という流れもあるし、あまりのイチャイチャぶりには、そろそろ本筋に戻って下さいお願いします、と頭を下げたくなる。

 ただ、それさえも締め括りの爽快感に繋げる伏線となっているのだから、別の意味で頭が下がる。根本まで考えていくと、少々リスクが大きすぎないか、という言動も見当たるが、決して物語を破綻させるほどではなく、むしろその綱渡りの構成が、作品の緊張感に奉仕していると言えそうだ。発想と描写の噛み合わせが、驚くほどに優れている。

 趣向的にも表現的にももはや古典となっているが、未だにその面白さ、輝きは失われていない。オードリー・ヘップバーンの見せる華麗なファッションや、少々イラッとさせられるほどだがウイットの光るヘップバーンとグラントの駆け引きも魅力的な、“洒落た”という表現の似合う1篇である。

関連作品:

ザッツ・エンタテインメント

ローマの休日

北北西に進路を取れ

サンダーボルト

あなただけ今晩は

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