『アイガー・サンクション』

アイガー・サンクション 【ベスト・ライブラリー 1500円:アクション映画特集】 [DVD]

原題:“The Eiger Sanction” / 原作:トレヴェニアン / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ハル・ドレスナー、ウォーレン・B・マーフィ、ロッド・ウィテカー / 製作:ロバート・デイリー / 製作総指揮:リチャード・D・ザナック、デヴィッド・ブラウン / 撮影監督:フランク・スタンリー / 編集:フェリス・ウェブスター / 音楽:ジョン・ウィリアムス / 出演:クリント・イーストウッドジョージ・ケネディ、ヴォネッタ・マギー、ジャック・キャシディ、ハイディ・ブリュール、セイヤー・デヴィッド、ライナー・ショーン、ジャン=ピエール・ベルナール、ブレンダ・ヴィーナス、グレゴリー・ウォルコット、エレイン・ショア / 配給:ユニヴァーサル映画×CIC / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

1975年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:?

1975年11月1日日本公開

2011年4月27日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/03/22)



[粗筋]

 大学で美術の教鞭を執るジョナサン・ヘムロック(クリント・イーストウッド)はかつて、諜報組織で暗殺の仕事を請け負っていた。命のやり取りに疲れ既に現役を退いていたが、そんな彼のもとにかつての同僚ポープ(グレゴリー・ウォルコット)が現れる。彼はヘムロックのかつての上司ドラゴン(セイヤー・デヴィッド)の依頼を携えていた。

 部下を殺した連中を仕留めるために手を貸して欲しい、というドラゴンの要請にいちど限りの約束で応えたヘムロックだったが、ドラゴンはヘムロックの美術収集趣味を楯に、もういちど暗殺を命じる。

 ターゲットの正体は組織でさえ未だ掴んでいないが、間もなくスイスにある難易度の高い岸壁・アイガー北壁を登攀するメンバーに連なっている、という。登山家というもうひとつの顔を持ち、失敗に終わったものの二度にわたってアイガー北壁に挑んだ過去のあるヘムロックを除いて、この仕事を成し遂げられる者はいなかった。

 敵によって殺されたドラゴンの部下がかつての仲間であることを知ったヘムロックは、難事業であることを知りながらも、今度こそ最後、という約束でふたたび仕事を請け負う。――

[感想]

 俳優としてのクリント・イーストウッドは自らの出演作のイメージを微妙にコントロールしていた節があるが、監督としては更に徹底していたように感じられる。デビュー作の『恐怖のメロディ』はサスペンス、2作目『荒野のストレンジャー』は異色の西部劇、3作目にして自身が出演しないロマンス『愛のそよ風』を手懸け、続く第4作となる本篇ではまたしても趣を違え、山岳を舞台にしたスパイ・アクションに挑んだ、という格好だ。

 ジャンル分けするとごくごく単純な代物になっても、そうシンプルな趣向に収まらないのもまたイーストウッドらしい。序盤、暗殺者という過去を持つ美術教授の振る舞いに、ドラゴンと呼ばれる黒幕の佇まいあたりは少々戯画的に過ぎる印象だが、ふたたび暗殺計画に臨むにあたって、まず主人公が登山のための身体作りをするあたりからしてユニークだし、ほぼすべてアイガー登攀に費やされた見せ場は、スパイものということを忘れてしまうほどだ。

 スパイ映画として眺めた場合、決して上等とは感じない。ドラゴンという黒幕のいささかチープな人物造型もそうだが、話が進めば進むほど、組織の情報収集能力があまりに御都合主義的で苦笑を禁じ得なくなる。どこに出没するのか解っているのに、それが誰なのか解らない、という状態が延々続くのは、いくらサスペンスを盛り上げるためとは言っても安易の誹りを免れないだろう。せめて、どうして判然としないのか、の裏付けぐらいは欲しかったところだ。

 しかしその分、クライマックスは圧巻の一言に尽きる。合成に頼ることなく、極力現地での撮影に徹した映像は、高所恐怖症の人なら身が竦むほどのインパクトがある。殴り合いがあるわけでもないのに、アイガー登攀の厳しさに“誰が犯人か解らない”というシチュエーションが相俟って、緊迫感は充分だ。

 いささか意表を衝いた締め括りも、本篇の場合はこの圧倒的な山岳描写が裏打ちとなって納得させられる――翻って、山岳での緊迫感とドラマを受け入れられなかった人は不満を覚える可能性が高いが、少なくともそこまできちんと計算されたドラマ作りが為されていることは疑いない。

 そして、どちらかと言えば観客の求めるものとは逆の目を張り続けてきたクリント・イーストウッド監督が、同じ俳優、スタッフの継続的起用にひと癖あるストーリーという作家性を保ちつつも、それまでよりも正統的な娯楽作を手懸たという意味で、ひとつのターニング・ポイントに位置づけられる作品と言えるだろう。

関連作品:

恐怖のメロディ

荒野のストレンジャー

愛のそよ風

荒鷲の要塞

コメント

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