『クライマーズ(2019)』

新宿シネマカリテ、入口階段途中の壁面に掲示された『クライマーズ(2019)』ポスター。
新宿シネマカリテ、入口階段途中の壁面に掲示された『クライマーズ(2019)』ポスター。

原題:“攀登者” / 英題:“The Climbers” / 監督:ダニエル・リー / 脚本:ア・ライ、ダニエル・リー / プロデューサー:ツイ・ハーク、ツァン・ペイシャン / 撮影監督:トニー・チュン / 音楽:ヘンリー・ライ / 出演:ウー・ジン、チャン・ツィイー、チャン・イー、ジン・ボーラン、フー・ゴー、チュイニーツーレン、ジャッキー・チェン / 配給:AMGエンタテインメント
2019年中国作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:?
2020年9月25日日本公開
公式サイト : https://climbers-movie.com/
新宿シネマカリテにて初見(2020/10/1)


[粗筋]
 1960年、中国が派遣した登山隊が、チョモランマ北陵からの登頂に成功した。雪崩に巻き込まれ、隊長を含む多数の犠牲を払い、山頂からの景色を目撃したのは隊長を引き継いだファン・ウージョウ(ウー・ジン)とチュイ・ソンリン(チャン・イー)、チベット族出身のジェブーだけだった。
 しかしこの偉業は、国際的に認められることはなかった。条件のひとつである、山頂から360度を撮影した映像が、道中にカメラを落下させたためにクリアできなかったのである。やがて中国は過酷な時代を迎え、登山隊は解散に追い込まれる。
 捲土重来の機会はそれから15年後にようやく訪れた。中国政府はふたたびチョモランマの登頂と正確な気象データや標高の調査を計画、ボイラー技師として働いていたウージョウも、請われてふたたび登山隊に加わった。
 前回のアタックにより右足の爪先を凍傷で失ったソンリンはコーチとして若い隊員たちの指導に当たり、かつてウージョウの恋人であった気象学者のシェイ・イン(チャン・ツィイー)も観測隊に基づくサポートの一員として参加した。
 様々な思いが交錯するなか、いよいよ山頂へのアタックが始まる。だが、最高峰に潜む魔は、ふたたび登山隊に牙を剥くのだった――


[感想]
 中国におけるチョモランマ(エベレスト)登山の歴史をもとにした作品――ということだが、正直なところ、本篇を観ていると、どこまでが事実に沿っているのか少々疑わしく思える。
 良くも悪くも、あまりにドラマティックなのだ。全篇で登山隊を主導することになるウージョウと気象学者インとの関係に、第二次登山隊に加わる若者たちの恋模様とその顛末が登山の困難と絡めて描かれるが、展開があまりにも“お涙頂戴”を狙いすぎている。
 登山の中でも様々なドラマが発生するが、それがいささかアクション映画めいていて、迫力とスピード感はあるが微妙にリアリティを感じにくいのも難点だ。際立った尾根筋を襲う強風や雪崩、落石や滑落といったトラブルがなかった、とは言わないが、その展開と回避のための試行錯誤、結果としてのドラマがいちいち作り物じみている。
 中国でVFXを駆使した映画は、もはや現実との見分けがつかなくなりつつあるハリウッドの作品と比較すると、全般に書き割りっぽさが色濃い。書き割りが悪い、というわけではなく、それも映画で虚構の世界を形成するために有効な装置であったし、CG全盛となっても書き割りの伝統を受け継ぐような美術的、絵画的な画面を用意して、その映画ならではの空間を演出する、というのも選択としてはあり得る。しかし本篇の場合、“実話を元にした作品”という大前提がある。たとえ登場人物の人間関係や、劇中で発生するトラブルに大幅な脚色が施されていたとしても、そこに真実味を感じさせるために、VFXはより本物らしさを追求すべきではなかったか、と思うのだ。プロでも易々と赴くことの出来ないチョモランマ現地のロケは不可能であるにしても、実際の資料を用意したり、可能な範囲で実景を採り入れて、一貫したリアリティを付与して欲しかった。
 だいぶ辛いことばかり記しているが、ただ「面白くなかった」とは言わない。むしろ、あざといまでに見せ場を鏤めているので、観ていて惹きつけられる。人物を提示するタイミングや伏線の仕掛け方が全般に場当たり的で、わざとらしさが強く印象づけられるのは考えものだが、用意されたドラマやアクションは確実に観る者を惹きつけ、それが途切れなく仕掛けられるサーヴィス精神は評価したい。この辺りは、プロデュースとして携わったツイ・ハークのセンスの表れと言えるかも知れない――複雑で深遠なドラマを構築するよりも、観客を愉しませ、昂揚させることに徹した、ツイ・ハーク自身の監督作にも通じるエンタテインメントの王道を行く作りだ。
 ただ、個人的にいささか引っかかるのは、あまりにも中国を称揚し、登山計画を“国のため”と言って憚らない全体のスタンスだ。実際にそうした位置づけで実施されていたのかも知れないが、そこには第二次世界大戦以前の日本を描いた作品にも通じる薄気味悪さがある。チョモランマ登頂が偉大な事業であることは否定しないが、あくまでも計画に携わるのは訓練を受けた個人であり、劇中でも描かれるとおり、彼ら自身にも“登る理由”がある。一部の主要人物については言及されるものの、多くは触れられもせず、やがて犠牲になっても、その悲劇もまた一部を除いて無視されている。その、無自覚な無神経さが、異国の者には鑑賞後にしこりとして感じられるように思う。
 とは言え、史実を元にしながらも、あくまでエンタテインメントを志向して製作したことは窺え、その意味では充分に完成されている。そこで垣間見える中国政府の姿勢に見える独善ぶりが引っかかるものの、狙いはしっかりと射貫いているのだ――要は、それが(恐らくは、製作者が考えていたよりも)狭かったに過ぎないのだろう。

 ちなみに本篇にはジャッキー・チェンが友情出演している。かく言う私も、それがそもそも本篇を鑑賞する動機だったのだが、実際の出番はごくごく短く、アクション・シーンにもまったく関与していない。ほんのちょっとでもジャッキーのアクションがあることを期待するようなひとは、鑑賞する必要はない。
 だが、さすがにビッグネームだけあって、非常にいいところで、印象的に登場する。アクションに関与せずとも、その佇まいを目の当たりにするだけでも嬉しい、というひとなら足を運ぶ価値はあるだろう。ほんとに、いちばんいいところを攫っていきます。


関連作品:
ブラック・マスク』/『処刑剣 14 BLADES』/『ドラゴン・ブレイド
ドラゴン×マッハ!』/『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』/『1911』/『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳
八甲田山<4Kデジタルリマスター版>』/『アイガー・サンクション』/『劔岳 点の記

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