原題:“Sucker Punch” / 監督&原案:ザック・スナイダー / 脚本:ザック・スナイダー、スティーヴ・シブヤ / 製作:ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー / 製作総指揮:トーマス・タル、ウェスリー・カラー、ジョン・ジャシュニ、クリス・デファリア、ジム・ロウ、ウィリアム・フェイ / 撮影監督:ラリー・フォン / プロダクション・デザイナー:リック・カーター / 視覚効果監修:ジョン・“DJ”・デジャルダン / 編集:ウィリアム・ホイ / 衣装:マイケル・ウィルキンソン / デザイン協力:寺田克也 / 音楽:タイラー・ベイツ、マリウス・デヴリーズ / 出演:エミリー・ブラウニング、アビー・コーニッシュ、ジェナ・マローン、ヴァネッサ・ハジェンズ、ジェイミー・チャン、オスカー・アイザック、カーラ・グギーノ、ジョン・ハム、スコット・グレン、リチャード・セトロン、ジェラルド・ブランケット、マルコム・スコット、ロン・セルモア、A・C・ピーターソン / 日本語吹替版声の出演:寿美菜子、甲斐田裕子、戸松遥、豊崎愛生、高垣彩陽、深見梨加、志村和幸、吉開清人、山路和弘 / クルーエル・アンド・アンユージュアル製作 / 配給:Warner Bros.
2011年アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:林完治 / 吹替翻訳:アンゼたかし / PG12
2011年4月15日日本公開
公式サイト : http://www.angelwars.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/04/15)
[粗筋]
少女達を閉じ込め、過激なサービスを施すナイトクラブ。ここに新たに連れこまれた少女ベイビードール(エミリー・ブラウニング/寿美菜子)は、数日後に大富豪によって華を散らされることが既に決められていた。
だが、ベイビードールはまだ己の運命を悲観していなかった。彼女は、観客を虜にするほどの優れたダンスの技倆を備えている。それを武器に脱出を実現させるべく、他の少女達の協力を求めた。
責任感が強く、一緒に閉じ込められた妹ロケット(ジェナ・マローン/戸松遥)の安全を何よりも気遣うスイートピー(アビー・コーニッシュ/甲斐田裕子)はこの申し出を拒絶するが、厨房係に襲われたところをベイビードールに救われたロケットは、積極的に協力を申し出る。このふたりに、ブロンディ(ヴァネッサ・ハジェンズ/豊崎愛生)とアンバー(ジェイミー・チャン/高垣彩陽)を加えた、合計4人の少女達が、ベイビードールの脱出計画に荷担した。
必要なアイテムは、地図と火気、ナイフ、鍵、そして謎の何か――踊るたびにベイビードールの意識は幻想世界へと跳躍し、他の少女達と共に戦士となって、アイテムを奪取するためのミッションに臨む。果たして5人の少女は、無事にこの“牢獄”から脱出できるのか……?
[感想]
『ドーン・オブ・ザ・デッド』での長篇デビュー以来、順調にキャリアを重ねているザック・スナイダー監督だが、実はこれまでに発表した作品はすべて原作が先に存在しており、本篇が初めての完全なオリジナル作品となる。
とはいえ、作品をよく分析すると、映像の構築や主題の配分に確かな作家性が窺える監督であるだけに、オリジナルである本篇もそこには揺るぎないザック・スナイダー監督らしさが感じられる。少なくとも、これまでのザック・スナイダー作品を愉しむことが出来た人であれば、本篇にも満足がいくはずだ。
3DCGを駆使した特徴的なヴィジュアルは健在だが、本篇では特に先鋭的に活かされている感がある。妄想から妄想へ跳躍するユニークな物語を更に印象づけるべく、ファンタジーやアクション・ゲームで頻繁に用いられるモチーフを戯画的に描き出した背景の数々は、現実的な映像を求める向きにはピンと来ないかも知れないが、ゲームやアニメ、その影響下にある作品群に親しんできた人なら興奮するに違いない。
加えて本篇には、単純に3DCGと合成しただけではない、カメラワークの工夫がある。武器のギリギリを激しく移動するカメラ――というだけなら、合成ではさほど意外性はない、と思われるかも知れない。実際にはそれなりの手間もかかるが、特に技術に関心なく鑑賞している人を惹きつけはしないだろう。だが本篇はクライマックスで凄まじいヴィジュアルを用意している。縦横無尽に動き回るカメラ、という意味では同じ趣向だが、凄まじいのは、ほぼワンカットと感じられる構成で、列車への突入から、ロボット兵との戦いを捉えているのだ。体表面が鏡のように磨かれたロボット兵なので、切りこんでいったベイビードールの姿を、ロボット兵の表面に写った様子で捉え、そして大きく移動して、ベイビードールの刀によって両断される様を背景から撮す。何も考えずに鑑賞していてもインパクトの強い場面だが、撮影や加工にあたってどれほど緻密な計算が必要になるのか、考えてみると本当に恐れ入る。見せたいヴィジュアルと、それに必要な技術を的確に把握していなければ難しいシークエンスであり、ここだけを切ってもスタッフの高い能力と連携が窺われる。
カメラワークだけでなく、セーラー服をベースとしたベイビードールのデザインに、キュートと不気味の狭間にあるような模様をあしらったマシンなど、オタク要素満載のモチーフにも気を遣った映像はそれ自体でも充分見応えがあるが、しかし本篇はそういう要素に依存しただけの作品ではない。
趣味的な肉付けを支えているのは、観念的だが芯の通った主題である。幻想世界での派手な戦闘とシンクロする形で進行する“脱出計画”は、その幼稚さに見合った困難に直面し、頓挫の危機を迎える。だが佳境において、ベイビードールがある結論に辿り着くくだりには、きちんと伏線が張られているのだ。決して論理的に筋道の立つものではないが、心情的に納得のいく流れが構築されている。そうして突如、別の次元から物語が改めて描かれたときに、明確なカタルシスが生じる。
感情移入する対象をどこに設定するかによって、非常に納得のいかない想いを抱く可能性は高い。この結末を、ある種の自己満足に過ぎない、と切り捨てる向きもあるだろう。だが、恐らくはそれを割り切った上で、悟りにも似た境地に辿り着く本篇の表現にはブレがない。
そして、この主題を敷衍していくと、実はザック・スナイダー監督の出世作『300<スリー・ハンドレッド>』以降、繰り返し描き続けているものと見事に繋がっていくのだ。初めての完全オリジナル作品であるが、それ故に監督の作家性をはっきりと表明させた、里程標的作品と言えるかも知れない。スナイダー監督がこれまでに発表した作品に少なからず惹かれるところのある人なら、決して観逃すべきでない1本である。
関連作品:
『ウォッチメン』
『ガフールの伝説』
『ゴーストシップ』
『ゲスト』
『キャンディ』
『ロビン・フッド』
『ザ・タウン』
『ブッシュ』
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