原題:“The Midnight Meat Train” / 原作:クライヴ・バーカー(集英社刊) / 監督:北村龍平 / 脚本:ジェフ・ブーラー / 製作:クライヴ・バーカー、ホルヘ・サラレギ、エリック・リード、リチャード・ライト、トム・ローゼンバーグ、ゲイリー・ルチェッシ / 製作総指揮:ジョー・デイリー、アンソニー・ディブラシ、デヴィッド・スコット・ルーディン、ロバート・マクミン、フィッシャー・スティーヴンス、ジョン・ペノッティ、ピーター・ブロック、ジェイソン・コンスタンティン / 撮影監督:ジョナサン・セラ / プロダクション・デザイナー:クラーク・ハンター / 編集:トビー・イェーツ / 衣装:クリストファー・ローレンス / 音楽:ヨハネス・コビルケ、ロバート・ウィリアムソン / 出演:ブラッドリー・クーパー、レスリー・ビブ、トニー・カラン、ブルック・シールズ、ロジャー・バート、バーバラ・イヴ・ハリス、ピーター・ジェイコブソン、テッド・ライミ、ステファニー・メイス、クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン、ノラ、ヴィニー・ジョーンズ / レイクショア・エンタテインメント/ライオンズゲート製作 / 映像ソフト発売元:Asmik
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2011年3月18日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/04/23)
[粗筋]
レオン(ブラッドリー・クーパー)は芸術写真家を志しているが、なかなか芽が出ず、事故現場の写真を撮影し、タブロイド紙に売り捌いてどうにか糊口をしのいでいる。そのために、以前から同棲しているマヤ(レスリー・ビブ)との結婚に踏み切れずにいた。
ようやく、有能な画商スーザン・ホフ(ブルック・シールズ)と面会する機会を得たが、彼女はレオンの写真が物足りない、と指摘する。悩みながら街でつれづれにシャッターを切っていたレオンは、地下鉄のホームに降りる階段で、恐喝されていた女性(ノラ)と遭遇、写真を撮ったあとで彼女を助け出した。その一部始終を追った写真はスーザンのお気に召し、あと2枚ばかりいい写真を撮ることが出来れば、彼女の主催するグループ展に推薦する、という約束を交わすことに成功する。
だが、喜んだ直後に、レオンはある新聞記事に衝撃を受けた。彼が窮地を救った女性が、それ以降行方をくらましている、というのである。
レオンはすぐさま写真と共に警察を訪れるが、担当のハドリー刑事(バーバラ・イヴ・ハリス)は取り合おうとしない。動揺しながらも街中での撮影を続けていたレオンは、深夜の地下鉄構内から現れる不気味な男(ヴィニー・ジョーンズ)に目を惹かれた。何気なく追いかけているうちに、あることに気がついた。特徴的な指輪を嵌めた男のその手が、あの晩、レオンが助けた女性が乗る地下鉄の扉に写っていたものと同じだったのだ――
[感想]
日本の映画監督・北村龍平がハリウッド資本で撮影した初めての長篇作品である。
率直に言えば、北村監督の撮る映画は全般に大味な印象がある。海外で映画製作を学んだ彼の作品は、ほかの日本人監督と比べてエンタテインメント志向が強く、大胆かつ派手な見せ場をうまく織りこむ一方で、ストーリー全体としてのまとまりを欠いていたり、言い方は悪いが“ゲテモノ”めいた印象を残す仕上がりになる傾向があるようだ。作を重ねることにそうした印象が鮮明になった結果、2011年5月現在はやや一線から退いたようなイメージがある――実際には未だ公表されていない大きなプロジェクトに関わっている可能性もあると思うが、一般的な映画ファンからすると、やや忘れられた存在になっているのは否めないところだと思う。
本篇も当初は劇場公開の予定が配給会社のホームページに掲載されていたが、いつの間にか一覧から消え、気づけば公開なしでDVDリリースされていた。アメリカでの評判も成績もあまり芳しくなかったようで、致し方ないところかも知れないが、実際に観てみた私の印象は――実のところ、そんなに悪いものではなかった。
むしろ、私がこれまでに鑑賞した北村龍平作品のなかではいちばんバランスがよかった、とさえ感じている。
ほかの作品にあった、いささか強すぎる“美意識”は本篇では幾分抑え加減になっており、ストーリーの流れもかなり明白だ。もう少し主人公レオンの胸中の変化をうまく辿っていれば、結末の衝撃に確かな裏打ちが出来たのでは、と惜しまれるが、しかし唐突さはないし、観ていて納得のいくような話運びをしている。場面の見せ方が先行していた感のある『あずみ』あたりと比較すると洗練された印象だ。
色調のバランスに考慮した映像も、物語の持つ血腥さをほどよく抑えている。日本人監督が絡むと――というより最近のハリウッド映画にはありがちなことなのだが、海外から監督を招くとき、舞台をその監督の出身国に設定して、自らの領分で撮らせることが多い。たとえば清水崇監督は自身の監督作をリメイクした『THE JUON―呪怨―』で華々しくデビューを飾ったが、作品の舞台は日本のままだったし、タイ産のホラー『心霊写真』をリメイクした落合正幸監督の『シャッター』などはあえて日本に舞台を変えている。他の国でも、パン兄弟は自らの『RAIN』リメイクを、『バンコック・デンジャラス』としてやはり同じタイを舞台にして撮影している。そんななかで、アメリカを舞台に、ほとんど日本の匂いを感じさせず、ネイティヴのような質感で本篇を仕上げた職人的な手管は賞賛されていいだろう。
他方で北村作品なりのアクの強さもきちんと盛り込まれている。クライマックス、レオンと男との格闘を、地下鉄の中と外とを自在に出入りするカメラで追いかけるシークエンスや、結末の意外な趣向などは、『あずみ』『ALIVE』あたりを観ているとニヤリとさせられるはずだ。
暴力描写もかなりの濃度になっている――が、率直に言えば、本篇の主題を考慮すればもっとハードでもよかったように思われる。テッド・ライミが悲惨な目に遭うパートや、クイントン・“ランペイジ”・ジャクソンが意外な逆襲に及ぶくだりなど、慣れていない人は正視に耐えないだろうが、なまじ映像がスタイリッシュであるだけに、ヴァイオレンスものやスプラッタ映画に慣れていると、どうも生温く感じられてしまうのは否めない。
全体に、職人的にきっちりと仕上げられてしまったせいで、却って突き抜けたインパクトがなくなってしまった印象があるのが惜しまれるが、アクション、ホラー、ヴァイオレンスなど、流血を伴う作品で一定の質を求める人であれば、ある程度の満足は得られるはずだ。
関連作品:
『あずみ』
『ALIVE』
『ヘルライド』
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