『蛇鶴八拳』

蛇鶴八拳 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“蛇鶴八歩” / 英題:“Snake & Crane Arts of Shaolin” / 監督:チェン・チー・ホワ / 脚本&編集:張信義 / 製作:ロー・ウェイ / 撮影監督:チェン・チョンユァン / スタント・コーディネーター:陣元龍、杜偉和 / 出演:ジャッキー・チェン、ノラ・ミヤオ、キム・ティン・ラン、カム・コン / 配給:東映 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1977年香港作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:宍戸正

1983年2月19日日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/05/15)



[粗筋]

 少林寺の師範8名が研鑽を積み重ね、最強の拳法・蛇鶴八拳を完成させた。しかしその直後、師範たちは忽然と行方をくらまし、蛇鶴八拳の秘伝書もまた消えてしまう。

 それから幾星霜。各門派が血眼になって捜し求めるなか、突如として、その秘伝書を携える男が現れた、という噂が街に広まった。

 その男、シー・インファン(ジャッキー・チェン)は、門弟たちに狙われることを承知しながら、意図的に秘伝書を持っていることを仄めかす。当然のようにそれぞれの門派は群がってくるが、その都度、異様に熟達したカンフーで撃退するのだった。

 躍起になってシーの命を狙う者もあとを絶たない一方で、彼の強さと信念、それに人を食った振る舞いに、四川唐門のタン(ノラ・ミヤオ)や、物乞いのふりをして近づいた飛虎党首領の娘ファン・ズーらがその真意を探るべく、一歩距離を置くようになる。だが、姑息な策を用いてシーを狙う黒龍門の面々が絡んでくると、事態は少しずつ混沌としていく……

[感想]

 ジャッキー・チェンといえば、その流麗なアクションにコミカルな動作を加えた、コメディ・タッチが持ち味だが、その個性が確立されるまでは苦労が多かったという。もともとはブルース・リーの後継者を捜していたロー・ウェイ監督によって見出されたのが本格デビューのきっかけであったが、本人は必ずしもブルース・リーと同じ路線を望んでおらず、またロー・ウェイ監督の撮影スタイルとも相容れない部分が多々あったらしい。そんななかで、どうにか自分の納得のいく作品を生み出すべく、スタッフと納得のいくまで話し合い作りあげたのが本篇だという。

 そう聞かされると、頷けるものが多々ある作品である。初期作品と明確な違いを感じさせ、そしてのちのジャッキー・スタイルに繋がる気配がはっきりと窺えるのだ。

 ストーリーの骨格は依然としてシリアス寄りだが、描写もアクションも、かなりコメディ・タッチが強まっている。凶器を持った相手に素手で挑んだ際の身振りや、様々なところからジャッキー演じるシーの隙をついて現れる人々の奇矯な振る舞い。特に“物乞い派”と呼ばれる達人の神出鬼没ぶり、あとに及ぼす影響などはまるっきりコントだ。

 だが、安易にコメディ風味にしているわけではなく、物語のコントロールもしっかりしている。何故かこれ見よがしに秘伝書を持ち歩く謎の男の周囲で、各流派が蠢き、男に接触しては争い、男の様子に態度を保留する者がある一方で、敵意を剥き出しにする者も現れる。泰然とする男の周囲で登場人物たちが入り乱れる様が観る者を牽引する一方で、そこに不自然さはあまりない――多少の強引さは感じるが、ロー・ウェイ監督がブルース・リージャッキー・チェンを起用して撮った作品に比べればよほどまとまっている。

 最大の敵は最初から観客には見え見えではあるのだが、そこまでの導き方が堂に入っているうえ、クライマックスではそれまでの出来事やモチーフがきちんと活きてくる。同じチェン・チー・ホワ監督が手懸けた『少林寺木人拳』のクライマックスでは、折角の伏線が不適切な描写のために充分な効果を上げずに終わってしまった節があるが、本篇では見事なカタルシスに結実している。

 それにしても本篇は、ジャッキー・チェン主演作を順に追って辿り着くと、なかなか苦笑を禁じ得ない作り方をしている。ロケ地やセットのほとんどが使い回しなのである。シーが滞在する食堂は明らかに『少林寺木人拳』で主人公が寺を出たあとに世話になる店と同じだし、黒流門の人間がシーを招く館は『成龍拳』冒頭で登場する館だ。『成龍拳』クライマックスの舞台となる居城は行方をくらました8人の師範たちが拠点としていた場所として使われているし、本篇のクライマックスに至っては『少林寺木人拳』とまったく同じ場所を使っている。私はまだ鑑賞していない『飛龍神拳』のなかにも、もしかしたら本篇で再利用されたセットなどがあるかも知れない。

 これは憶測だが、既にジャッキーと溝を深めつつあったロー・ウェイ監督は、製作総指揮として携わりながら、最小限の予算と時間しか提供しなかったのではなかろうか。そうして極めて制限された制作環境のなかで、どうにか知恵を絞り出し作りあげたのが本篇だったのではなかろうか。出演俳優まで一部重なっていることから想像すると或いは、撮影自体も一部、前述した2作と同時に行っていたのかも知れない。

 だが、そこまで制約されていたことが、ロー・ウェイ監督のもとで溜めこんでいた不満をいい具合に解消する形で本篇の思わぬクオリティに繋がり、ジャッキー・チェンがのちに自らのスタイルを確立するきっかけとなったことを思うと、ロー・ウェイ監督のもとで苦しんだことは決して無駄ではなかった。そしてそれ故に、本篇はジャッキー・チェンの作品を語るうえで、極めて重要な作品ではないか、と思う。

 しかし、そうしたジャッキー・スタイルの歴史を踏まえずとも、本篇は香港流アクション映画特有のアクの強さが作品の内容とうまく馴染み、身構えずに愉しめるバランスを保った仕上がりとなっている。若き日のジャッキーの活躍を、あまりストーリーの不自然さなどに気を取られずに愉しみたい、という方にお薦めしたい。

関連作品:

少林寺木人拳

成龍拳

コメント

  1. […] 怒りの鉄拳』やジャッキー・チェンの『蛇鶴八拳』にも菅を見せており、カンフー映画愛好家には見慣れた女優である。 […]

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