原題:“Skyline” / 監督:コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス / 脚本:ジョシュア・コーズ、リアム・オドネル / 製作:コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス、クリスチャン・ジェームズ・アンドリューセン、リアム・オドネル / 製作総指揮:ライアン・カヴァナー、ブレット・ラトナー、タッカー・トゥーリー、ブライアン・タイラー、ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ / 撮影監督:マイケル・ワトソン / クリーチャー・デザイン:アレック・ギリス、トム・ウッドラフJr. / プロダクション・デザイナー:ドリュー・ダルトン / 編集:ニコラス・ウェイマン・ハリス / 衣装:ボビー・マニックス / VFX:Hydraulx / 音楽:マシュー・マージェソン / 出演:エリック・バルフォー、スコッティー・トンプソン、ブリタニー・ダニエル、デヴィッド・ザヤス、ドナルド・フェイソン、クリスタル・リード、ニール・ホプキンス、ロビン・ガンメル、ターニャ・ニューボウルド、J・ポール・ボーマー / 配給:松竹
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:林完治 / PG12
2011年6月18日日本公開
公式サイト : http://skyline-movie.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/20)
[粗筋]
ブルックリンでインテリア・デザイナーとして細々と活動しているジャロッド(エリック・バルフォー)は恋人のエレイン(スコッティー・トンプソン)とともに、かつての友人で、いまや視覚効果の分野で大成したテリー(ドナルド・フェイソン)の誕生日を祝うため、彼の暮らすロサンゼルスへと旅立った。
愉しいはずの旅行は、だがテリーが実はジャロッドを雇うことを画策していたこと、そしてエレインが妊娠していたことが相次いで発覚し、気まずい空気が流れる。それでも、パーティを済ませ、ゆっくりと遊ぶ翌日のために睡眠を取っていたとき――まだ夜も明けぬ午前4時、突如ブラインド越しに注いだまばゆい光と激しい振動に、一同は目醒めた。
部屋で雑魚寝していたひとりが忽然と姿を消し、驚きに窓を開けて外を窺うと、青く強烈な閃光が街のあちこちに迸り、空へ向かって上昇していった。ジャロッドがカメラでその様子を撮影すると、粉塵を巻き上げる光源のなかに、天空に浮かぶ飛行物体に向かって、無数の人影が吸いあげられていく様子が収められていた。
いったいなにが起きているのか。夜が明けたのち、エレインに引き留められながらも、ジャロッドがテリーと共に屋上に赴くと――そこには先刻よりも多くの飛行物体と共に、青い光を放つ触手を躍らせる謎の生物が徘徊しており、屋上に現れた男ふたりに襲いかかってきた――!
[感想]
監督のふたりは、自ら視覚効果のスタジオ、Hydraulxを立ち上げ、3D映画ブームの端緒である『アバター』をはじめ、多くの大作に携わっている。彼らが監督デビューを果たした人気SFホラーシリーズの1篇『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』も、その前作から視覚効果を手懸けていたことがきっかけだったのだろう。それ故に、映像的な完成度はともかく、作品としては味わいに乏しかった感は否めない。
2度目の監督作となった本篇は、だがヒットシリーズを土台にしていた前作とは異なりまったくのオリジナルである。それどころか、一見超大作のようだが、その実非常に限られた舞台と人員で制作された、本質的にはインディペンデント作品と言っていいもののようだ。視覚効果のベースは自身の会社で手懸けていることは当然ながら、物語のほとんどで舞台となるマンションは、監督のひとりが実際に暮らしている場所で、僅か1ヶ月半程度で撮影を行ったという。飛行物体や異様なクリーチャーの数々はCGによって制作されており、確かにある程度予算は費やしているものの、ハリウッドのいわゆる大作映画とは比較にならないくらい安く抑えられているという話だ。そういうスタイルで、超大作と見紛うような作品が生み出せる時代になったこと、それを実現してしまった意欲にはまず敬意を表したい。
肝心の内容のほうだが――いわゆるSFパニックもの、モンスターや宇宙人の類が登場する娯楽映画を多く観ている人は、生真面目な性分だと眉をひそめるかも知れない。この作品で用いられている要素の多くが、比較的最近のヒットした、或いは良質な作品に類例があるのだ。中盤で登場する斥候のような小型の飛行物体は『宇宙戦争』を思わせるし、重要なアイディアのひとつは『第9地区』を彷彿とさせる。そもそも宇宙人の襲来の仕方が『インデペンデンス・デイ』を思わせるし、その描き方には『クローバーフィールド/HAKAISHA』の影響が色濃く窺える。なまじ色々な作品を観ている人ほど、寄せ集めの感を抱くはずだ。一方で、カルト的な作品へのこだわりがあまり窺えない点も、マニアには不満をもたらす可能性がある。
ただ、少なくとも拾い上げている要素は必ずしも取って付けたものではなく、ちゃんと作品世界に噛み合っている。マンションの中にまで入り込む斥候のような器物が触手を持っているのは話の流れから合理的であるし、その細部の描写と結末はきっちり繋がっている。
とりわけ本篇の優秀な点は、主要登場人物に学者であったり、軍の中枢に絡む人物であったり、といった“事情通”が存在せず、あくまでマンション内にいて偶然に生き延びた、ごく普通の人物の視点でのみ綴られていることだ。外部との通信は途絶し、テレビさえまともに映らない中で、登場人物が得られる情報はすべて窓から見える光景とおぞましい経験に限られている。その、皆目先の見えない状況の構築に加え、観客にある程度想像を促し、ラストの展開に繋がる伏線をきちんと組み込む配慮も施していて、忌憚がない。やたらと擬似科学的な解釈を並べ立てて胡散臭くしてしまう作品が多いことを考えると、想像に委ねることで節度を保った作りはクレヴァーだ――説明不足とか、勝手な解釈のもとにいい加減呼ばわりされてしまう危険もあるとは言え、少なくとも観ているあいだの関心、緊張感はきっちりと引っ張っている。
人物のドラマ、という意味では掘り下げがまったく足りないし、妊娠が発覚したり、クライマックスではお馴染みのシチュエーションがあったりとひねりに欠くきらいもあるが、その用い方には工夫が見られる。むしろ工夫をせずにストレートな方が、という意見もあるはずなので善し悪しではあるが、少なくともまったく考えずにこういう展開をさせているわけではないのは、全体像を見るとよく解るはずだ。
何より、さすがに視覚効果を専門とする制作会社、及びスタッフが中心となっているだけあって、未知の飛行物体やクリーチャーの生々しさは出色だ。まさに本当に自宅の窓から世界が狂っていく様を見届けているかのような感覚が味わえる。ごく一部、やや不自然なところも見受けられたが、ほとんどの人はさほど気になるまい。
もう少し独自のアイディアを盛り込んで、終盤のカタルシスを膨らませていれば、より好印象を与えられたように思うが、限られた予算、環境でも充分にオーソドックスな“娯楽大作”が生み出せる、ということを示した点で、記憶される作品になると思う。
関連作品:
『アバター』
『ホースメン』
『アンデッド』
『宇宙戦争』
『第9地区』
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