『ミッション:8ミニッツ』

『ミッション:8ミニッツ』

原題:“Source Code” / 監督:ダンカン・ジョーンズ / 脚本:ベン・リプリー / 製作:マーク・ゴードン、フィリップ・ルスレ / 製作総指揮:ホーク・コッチ、ジェブ・ブロディ、ファブリス・ジャンフェルミ / 共同製作:スチュアート・フェネガン、トレイシー・アンダーウッド / 撮影監督:ドン・バージェス,ASC / プロダクション・デザイナー:バリー・チューシッド / 編集:ポール・ハーシュ,A.C.E. / 衣装:レネー・エイプリル / キャスティング:ジョン・パプシデラ,CSA / 音楽:クリス・ベーコン / 出演:ジェイク・ギレンホールミシェル・モナハンヴェラ・ファーミガジェフリー・ライト、マイケル・アーデン、キャス・アンヴァー、ラッセル・ピーターズ、スーザン・ペイン / 配給:Walt Disney Studios Japan

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:林完治

2011年10月28日日本公開

公式サイト : http://www.mission8.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/10/30)



[粗筋]

 目覚めたとき、コルター・スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)は何故か電車に乗っていた。目の前には、彼の助言に感謝を口にする、見知らぬ女性。どうやらそれがシカゴ行きの通勤電車のなかで、彼がショーンという男の心に潜り込んでいるらしい、と気付いた次の瞬間、電車は爆発した。

 再び目覚めたとき、スティーヴンスは狭いカプセルの中にいた。正面には小さなモニターがあり、そこから回線越しに彼に呼びかける女性の姿がある。

 要領を得ないやり取りのあと、どうにかスティーヴンスは己の置かれた状況を解釈した。彼は現在、何かの仮想空間に閉じ込められているらしい。目的は、電車を破壊し乗客を全滅させた爆発物を取り除き、犯人を見つけること。与えられた猶予は、爆破直前の8分間のみ。

 問答無用で投げ込まれた2度目のシミュレーションで、スティーヴンスはどうにか爆発物を探り当てたが、犯人に辿り着くゆとりもなくふたたびカプセルの中に連れ戻される。だが、スティーヴンスはこの2度目の“8分間”で、己の誤解に気づいた。仮想現実にしては克明で、行動に幅がありすぎる。いったい自分は、何をさせられているのか?

 モニター越しにスティーヴンスに指示を送る女性、グッドウィル(ヴェラ・ファーミガ)はこの計画の責任者であるというラトリッジ博士(ジェフリー・ライト)に許可を求めたのち、このシミュレーションの背景を教えた。

 あの爆破事件は今朝、実際に起きたものだった。乗客全員が死亡する凄惨な事件を引き起こした犯人は、シカゴに対して爆破予告を行っている。そこでラトリッジ博士は、自らが開発したプログラムにより、死者のひとりであるショーンの最後の記憶とスティーヴンスの意識をリンクし、再生可能な“8分間”の仮想空間のなかで、彼に犯人を捜させようと試みていたのである――

[感想]

 ジェイク・ギレンホールは本作のオファーを受けるに当たって、かねてから感銘を受けていた『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズを監督に推薦したのだという。それが事実なら、ギレンホールの炯眼に唸るほかない。観終わったあとで私が感じたのは、「非常に『月に〜』の監督らしい作品」というものだったのだから。

 特殊な条件を積み重ねたうえで穏やかなサスペンスを構築していた『月に〜』と比較すると、本篇は実に動きが激しくスピード感に富んでいる。だが、それでもこの凝りようは確かに『月に〜』の監督らしい。いきなり奇妙なシチュエーションに放り込まれた男の動揺、混乱を描きつつも、同じ8分間に複雑な変化を組み込み、実に個性的なドラマを構築していく。

 本篇の面白いところは、繰り返される8分間に加え、主人公であるスティーヴンス大尉の状況にも謎を仕込んでいることである。最初に目醒めたとき、己の素性や直前までの状況は記憶しているが、現在何処にいるのか、何故こんな立場に置かれているのか、ということはまったく把握していない。急かされるように何度も“仮想空間”に送りこまれ、要求を満たそうとするが、他方で自分自身がどういう状態にあるのか、ということへの疑念も彼を襲い続ける。2層仕立ての謎解きが生み出す牽引力はただ事ではない。

 ただ、物語が進み、少しずつ明かされる真相は、正直なところ、あらゆる観客の期待に応える、という性質のものではないように思う。ストーリーの構造からして、犯行の性質も物語との匙加減も絶妙であるのは間違いないが、恐らく事件の犯人像、物語の最後に描かれる展開にしても、もっと衝撃的で壮絶なものを期待していた、という人は多いだろう。出だしの設定、語り口が魅惑的であるだけに、そこを残念に思う人も、肩透かしだと苛立つ人もいるのではなかろうか。

 しかし、そういう不満を抱いたとしても、過程における牽引力、面白さについて否定する人はいないだろう。どの段階で決着するのかがいつまで経っても判断がつかず、ギリギリまで振り回される。終盤、ある事実が明らかとなり、闘うべき方向性が変わっているのだが、それでも先が見えないがゆえの緊迫感が最後まで持続する。すべてがすっきりと腑に落ちないからこその利点だが、それを限界まで活かしているのは賞賛していい。

 そして、不合理に見えるかも知れないあの結末にしても、実のところ、観終わってから検証すると、物語の細部に思い当たる部分があるのだ。あの仕掛けに必ずしも直結するとは言えない、だが確かに奇妙な部分があるように感じられる。何処まで意図しているのか解らない、実際にはこちらが勘繰りすぎている可能性も充分にあり得るが、そう感じさせる表現の厚みを備えていることは確かだ。

 観終わって検討を重ねてみると、本篇の題材、その切り口はまさに『月に囚われた男』の変奏曲の趣がある。出だしのイメージ、語り口は動きの激しいサスペンス・タッチだが、その実、根っこには『月に囚われた男』と繋がるセンス・オブ・ワンダーがある。シンブルで明瞭な驚きを味わいたい人にはどうも納得がいかないだろうが、更なる奥行きを求める人には、名状しがたい魅力を発揮する秀作である。『月に〜』を鑑賞したときにも唸らされたが、この監督、やはり注目すべき人材だと思う。

関連作品:

月に囚われた男

ジャケット

シャッフル

ドニー・ダーコ

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