原題:“X-MEN : First Class” / 監督:マシュー・ヴォーン / 原案:ブライアン・シンガー / 脚本:マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン / 製作:ローレン・シュラー・ドナー、サイモン・キンバーグ、グレゴリー・グッドマン、ブライアン・シンガー / 製作総指揮:スタン・リー、タルキン・パック / 撮影監督:ジョン・マシソン / 視覚効果監修:ジョン・ダイクストラ / プロダクション・デザイナー:クリス・シーガーズ / 編集:リー・スミス,A.C.E.、エディ・ハミルトン / 衣装:サミー・シェルドン / 音楽:ヘンリー・ジャックマン / 出演:ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ケヴィン・ベーコン、ローズ・バーン、ジャニュアリー・ジョーンズ、オリヴァー・プラット、ジェニファー・ローレンス、ニコラス・ホルト、ゾーイ・クラヴィッツ、ルーカス・ティル、ジェイソン・フレミング、キャレブ・ランドリー・ジョーンズ、エディ・ガテギ、アレックス・ゴンサレス / バッド・ハット・ハリー/ドナーズ・カンパニー製作 / 配給:20世紀フォックス
2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:松崎広幸
2011年6月11日日本公開
公式サイト : http://www.xmen-fg.jp/
TOHOシネマズスカラ座にて初見(2011/06/24)
[粗筋]
始まりは1960年代、世界がまだミュータントの登場に気づかない頃。
チャールズ・エグゼビア(ジェームズ・マカヴォイ)は幼い頃から優れたテレパシストであり、彼の家に盗みに入った変身能力を持つ少女レイヴン(ジェニファー・ローレンス)との出逢いを契機に遺伝学を研究、その分野での権威にまで登りつめた。
そんな彼のもとを、FBI捜査官モイラ(ローズ・バーン)が訪ねてくる。捜査の過程で彼女は異様な出来事を目撃していた。掌から竜巻を起こす男と、全身をクリスタルに変貌させる女が現れ、真っ赤な悪魔に似た容姿をした男が、モイラの追っていたヘンドリー大佐をあっという間に何処かへと連れ去ったのである。彼女の話を上層部は真に受けなかったが、チャールズは即座に事情を察し、モイラの協力要請に応じる。
チャールズは、自分と同種のミュータントの所在を探り当てる特殊能力を駆使して、大佐と接触した一団の潜む船を探り当てると、米軍とともに急襲した。だが、相手方にも存在するテレパスによってチャールズが偵察を阻まれ、手をつかねているあいだに、別の何者かが敵の船を襲う。奇策を用いて逃走を図る一団に決死の覚悟で追いすがろうとする襲撃者を、チャールズは引き留め、どうにかその命を救った。
船を襲った男の名は、エリック(マイケル・ファスベンダー)。彼はかつて、ナチス・ドイツに所属していた男ショウ(ケヴィン・ベーコン)によって母を殺され、超能力実験の素材に用いられた経歴があり、復讐のためにショウを追っていたのだ。だが、研究の成果として自らも強大な能力を身に付け、優れた仲間も集めていたショウに肉迫するのは非常に難しい。
復讐を目的とするエリックの様子を危ぶみながらも、チャールズは圧倒的な力を持つショウに対抗するために、共同戦線を張ることを提案する。いちどは拒絶したが、悩んだ末にエリックはその申し出を受け入れた。
チャールズもエリックも、このときはまだ知らない。自分たちが、ミュータントの世界を二分してしまうことを――
[感想]
アメコミを原作としたヒーロー・アクション映画に、子供騙しに等しい単純な作り方ばかりでなく、多彩な切り口があることを世界に知らしめ、活気づかせたのは『スパイダーマン』の大ヒットが寄与していることは疑いないが、それ以前に幅広い可能性が存在することを示したのは、『X-MEN』だった。『ユージュアル・サスペクツ』という企みに満ちたスリラー映画が高く評価されたブライアン・シンガーが監督したこの作品は、ヒーローというより虐げられた者として異能者、ミュータントを捉え、その苦しみや葛藤を描くことで、大人の鑑賞にも耐えうるジャンルとしてアメコミ原作映画を位置づけることに成功した。当のブライアン・シンガー自身も『スーパーマン・リターンズ』を撮り、コミック出版社のマーヴェルが独自のスタジオを立ち上げ、ヒーローが一堂に会する大作『The Avengers』の制作に踏み切ったのも、『X-MEN』の作品としての成功が発端にあった、と見てもいいのではなかろうか。
それほど重要なシリーズであり、また設定の必然から、異能のヒーローを多数抱えた『X-MEN』が、3作目で一区切りを迎えたあともスピンオフ作品が立て続けに計画されるのも当然と言える。既に、シリーズの重要人物であるウルヴァリンの過去を描いた『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』が発表済で、こちらの続篇も計画されているそうだが、それに先んじる形で発表されたのが、ミュータントたちを束ねるふたつの組織のリーダー、プロフェッサーXとマグニートーの出逢いと別れを描いた本篇である。
新たに起用されたマシュー・ヴォーン監督は、まったく能力はないが正義感だけはある“ヒーロー”の挫折と成長をリアルに描いた『キック・アス』で注目を集めた人物である。いわばニセモノのヒーローを描いた監督が今度は本物のヒーローを扱う、というといささかジョークめいているが、しかし『キック・アス』には極めて上質の青春映画という側面もあり、本篇ではその手腕が活かされた格好だ。
本篇はプロフェッサーX=チャールズとマグニートー=エリックの若き日の関係性を軸に描いているが、それと同時に彼らが捜し出した若きミュータントたちの、若者らしい活発さや、葛藤も織りこんでいる。初めて一堂に会したときの騒ぎっぷりや、閉じ込められているがゆえに蓄積していく鬱憤、その過程で味わった差別的な反応と、意図せざる対立。とりわけ、チャールズたちに見出されながらも、ショウの側に寝返る仲間が現れるくだりはドラマとして印象的だ。理不尽さよりも、その心情に頷けてしまうだけに切ない。この過程はそのまま、終盤でふたたび描かれる別離にも繋がって、重みを増している。
若きヒーローたちの成長を抽出した作品としても、本篇は出色だ。最初は単に寄り集まっただけだが、自らの置かれている立場を考慮し、世界の未来を憂えて、ミュータントたちは授かった力を活かす術を模索する。爆発的な力を駆使することしかできなかった者にコントロールする術を与え、別の者には違う形で力を利用する方法をもたらす――そうした姿が、各人の個性をきっちり汲み取ったユーモラスで暖かな筆致で描かれる。その成果が示され、無数のミュータントたちが入り乱れて争うクライマックスは、このシリーズでも屈指の見せ場といっていいだろう。
そして、若者たちが熱いドラマを繰り広げる一方で、静かに葛藤を繰り返すチャールズとエリックの姿もまた印象的だ。出会って間もないながら深く理解し合ったふたりが、しかしその理想像の僅かな食い違いから、大きく溝を生じていく。チャールズは最後までエリックを憂い、エリックもその友情と信頼を理解しているのに、共に歩むことは出来ない――その理由がしっかりと伝わるからこそ、本篇の結末には説得力があり、いいようもない哀しみに満たされている。
この重層的なドラマ性の構築は、まさにマシュー・ヴォーン監督が『キック・アス』で示したものと一致している。あちらは主人公が無力であるだけにコメディ色が強まっているきらいはあるが、その背後に横たわる精神は実は重なるところが多いのだ。彼に着目した製作者は炯眼と言っていいだろう。
物語はいわば悲劇として幕を下ろすが、しかし不思議なことに悲愴感はあまりない。哀しみを覚えながらも、己の歩むべき道をはっきりと見出したふたりの姿に、迷いを感じないからかも知れない。言い換えれば、本篇はそこに至る道程を確固と描いているからこそ、清々しいのだ。
本篇のみ鑑賞しても充分に面白いが、一方でシリーズを知っているからこそニヤリとさせられる描写も多い。例えば、プロローグは敢えてシリーズ正篇第1作のプロローグをふたたび撮り直したものだし、破壊力の高い能力を備えたミュータントのために造り出された、力を制御するためのアイテムは、のちのサイクロップスが装備するゴーグルを彷彿とさせる。チャールズたちがミュータント探しをしている最中に一瞬だけ、馴染み深い人物が登場する趣向も――考えてみれば、あって然るべき描写ではあるのだが――心憎い。どんな順序で観ても楽しめる組み立てをした本篇は、この上なく完璧に近いプリクエルと言っていいだろう。むしろ、この作品を観たあとでシリーズ正篇を鑑賞した人が、「こんなものか」と感じてしまいそうで、いささか恐ろしいくらいだ。
前述の通り、『X-MEN』正篇は既に終了しているが、まだスピンオフの計画は出ているらしい。発表されているのは、ウルヴァリンの昔の姿を描いた『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』ぐらいのものだが、この『ZERO』に登場するデッドプールを主役とした作品も計画されているという。
そればかりか、製作者たちは本篇の続きを作ることにも意欲を示しているようだ。きちんとカタルシスは醸成されているものの、正篇でのキーマンであるジーンやサイクロップスはまだ登場していないし、似たような能力を持つミスティークとエマ・フロストとのあいだに確執が生まれそうな気配があったのも気にかかる。
計画があっても頓挫することは珍しくなく、あまり過度に期待するのは避けたいが――いずれにせよ、このシリーズがまだ当分のあいだ、ファンを楽しませてくれるのは間違いなさそうだ。
関連作品:
『X-MEN2』
『キック・アス』
『ウォンテッド』
『ウォッチメン』
『狼の死刑宣告』
『ノウイング』
『シングルマン』
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