『バトルクリーク・ブロー』

バトルクリーク・ブロー デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“Battle Creek Brawl” / 監督&脚本:ロバート・クローズ / 原案:ロバート・クローズ、フレッド・ワイントロープ / 製作:フレッド・ワイントロープ、テリー・モースJr. / 製作総指揮:レイモンド・チョウ / 撮影監督:ロバート・ジェサップ / 音楽:ラロ・シフリン / 出演:ジャッキー・チェンホセ・ファーラー、ロン・マックス、クリスティーヌ・デ・ベル、マコ、デヴィッド・S・シェイナー、H・B・ハガティ、ロザリンド・チャオ / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1980年アメリカ、香港合作 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:岡枝慎二

1980年9月6日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/07/03)



[粗筋]

 1930年代のシカゴ、チャイナタウン。

 ジェリー(ジャッキー・チェン)は叔父のハーバート(マコ)のもとで武術を学んでいるせいで、いささか喧嘩っ早いきらいがあり、中華料理店を営む父や医師の兄をたびたび心配させていた。父の店が地元のマフィアから見かじめ料を求められ、荒らされていたときも、自分からは手を出さずに撃退する、という器用なことをやってのけるものの、それでも父は気が気でない。

 そんな折、ジェリーの兄が文通で恋仲となり、間もなく結婚する予定の女性がやって来ることになった。用事のある兄に代わってジェリーが駅まで迎えに行くが、ほんの一瞬目を離した隙に、マフィアによって攫われてしまう。

 花嫁を捕えたマフィアの首領ドミニチ(ホセ・ファーラー)は、花嫁を返して欲しければ、“バトルクリーク”に出場するようジェリーを脅迫した。“バトルクリーク”とは、街全体を用いて行う異種格闘技戦である。ドミニチは当初、別の選手を出場させるはずだったが、直前の試合で競争相手モーガン(デヴィッド・S・シェイナー)子飼いのキッス(H・B・ハガティ)に潰されてしまい、たまたまドミニチの部下を撃退したジェリーに目をつけたのである。

 父から喧嘩をするな、と命じられている手前、ジェリーは渋ったが、兄の大切な花嫁を人質に取られている以上、歯向かうことも出来なかった。ジェリーは試合に備え、ハーバートから特訓を受けることにする……

[感想]

 ジャッキー・チェンのハリウッド進出第1作――と言っても、出資元は香港を拠点とする映画制作会社ゴールデン・ハーヴェストであり、アメリカを舞台にしたアメリカ向けの作品をつくって輸出した、というのが正しい説明の仕方かも知れない。

 だが内容的には、それまでのジャッキー作品からかなり趣を変えている。良くも悪くも、見事にアメリカナイズされた仕上がりだ。

 東洋人ながら金髪の恋人を持ち、あまり悩む様子なくチャイナタウンでの暮らしを満喫しているらしい主人公に、その格闘の才能に目をつけ利用するマフィア。衆人環視のなか、場所を問わずに繰り広げられる格闘大会――微妙にカンフー映画っぽい作りをしているようだが、あちこちのパーツや価値観が見事にアメリカ仕様になっている。これ以前の作品と同じ感覚で観ようとすると、若干戸惑いを覚えるかも知れない。

 ジャッキーも、従来の作品と同じような人物像のようでいて少し違いが感じられる。純朴でシンプルなものの考え方をする青年、という意味では『スネーキーモンキー/蛇拳』以降の作品で築きあげた人物像を踏襲しているが、より現金になっている印象がある。

 だが人物像以上に気になるのは、ロー・ウェイ監督と距離を置くことでようやく完成させてきた、ジャッキーの身体能力を活かした技の見せ方が、少し後退してしまっていることだ。舞台が多民族国家であるだけに、それまでの作品よりも多種多様な格闘技を登場させている――ように見えるが、その個性を充分に汲み取っているとは言い難く、ジャッキーもどのような拳法を学んで得意としているのかがいささか明瞭でない。『燃えよドラゴン』でブルース・リーと組んでいた経験のあるロバート・クローズ監督が担当しているだけに、それでもロー・ウェイ監督の諸作よりも遥かに洗練した仕上がりだが、なまじ上り調子になりつつあった時期だからこそ、やや守りに入った感があるのが惜しまれる。

 とは言うものの、ロー・ウェイ監督のもとで主演した作品群よりも遥かに綺麗にまとまっており、安心して観られる出来映えであるのは確かだ。修行の場面は、既に高く評価されていた日系人俳優マコが師匠役についたことで、やはりアメリカナイズされているものの、ほどよいユーモアが盛り込まれて愉しく、倒した相手の唇を奪う、という奇妙な癖のある敵役もなかなかにインパクトがある。そこへ、マフィアのなかでの揉め事が元となる別種の争いも絡んでくることで、お話にも波が生まれ退屈させることはない。

 ハリウッド進出を志すにあたって、ジャッキーの明るい表情や身体能力を見せつけつつも、意識的に個性を殺してハリウッド風にした、という趣である。どうせ所属会社が手ずから売り込むのなら、香港のアクション・スターである、という部分をもっと自信を持って押し出すべきだったのでは、と思われるし、その妙におもねった作り故にか案の定成績は振るわなかったようだが、そういう予備知識を抜きにして素直に鑑賞すれば、普通に愉しめる、ほどよい匙加減の娯楽作品に仕上がっている。

関連作品:

燃えよドラゴン

スネーキーモンキー/蛇拳

ドランクモンキー/酔拳

クレージーモンキー/笑拳

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