『ウエスト・サイド物語』

『ウエスト・サイド物語』 ウエスト・サイド物語 [DVD]

原題:“West Side Story” / 原作:ジェローム・ロビンス、アーサー・ローレンツ / 監督:ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス / 脚本:アーネスト・レーマン / 製作:ロバート・ワイズ、ソウル・チャップリン / 撮影監督:ダニエル・L・ファップ / プロダクション・デザイナー:ボリス・リーヴェン / タイトル・デザイン:ソウル・バス / 編集:トーマス・スタンフォード / 作曲:レナード・バーンスタイン / 音楽:アーウィン・コスタル、シド・ラミン / 音楽監督ジョニー・グリーン / 振付:ジェローム・ロビンス / 出演:ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノ、ラス・タンブリン、タッカー・スミス、デヴィッド・ウィンターズ、トニー・モルデンテ、サイモン・オークランド、ジョン・アスティン、ネッド・グラス / 配給:日本ユナイテッド・アーティスツ / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

1961年アメリカ作品 / 上映時間:2時間32分 / 日本語字幕:菊地浩司

1961年12月23日日本公開

2010年8月4日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品

TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/08/09)



[粗筋]

 ニューヨーク、労働者や貧困層が暮らすウエストサイドでは、ふた組の不良グループがことあるごとに火花を散らしていた。一方は、白人少年たちが結成し、現在はリフ(ラス・タンブリン)がリーダーを務めるジェット団。もう一方はプエルトリコ人の若者で組織され、ベルナルド(ジョージ・チャキリス)が率いているシャーク団。あたりを仕切る刑事はどうにか和解させて騒ぎを緩和しようと努めているが、争いはヒートアップするばかりだった。

 そんな矢先、ダンス・ホールで“事件”が起きる。刑事の呼びかけで対立するグループの若者たちも集まり、小競り合いこそ起きないものの、躍りで火花を散らしあうなか、トニー(リチャード・ベイマー)とマリア(ナタリー・ウッド)は出逢い、一目で恋に落ちてしまった。

 問題は、トニーがジェット団のOBにあたる人物であり、マリアがシャーク団のリーダー・ベルナルドの妹だったことだ。にわかに沸き立った恋にふたりは浮き足立つが、折しもふたつのグループの緊張はピークに達しつつある。遂にはリフの提案により、両グループのあいだで果たし合いを行うことになってしまった。

 トニーは好きなようにさせればいい、という立場だったが、マリアは無益な争いはもうやめにしなければ、と彼に制止して欲しいと懇願する。マリアの胸中を察して、トニーは果たし合いの現場へと赴くが、それが悲劇の始まりだと、この時点でふたりは予感もしていなかった……

[感想]

 今にしてみるとありきたりなロマンス、という批判はまったく無意味だ。そもそも本篇は、上のリストには記していないし、作中のテロップにも表示されていないが、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の翻案であることは明白である。古典的なロマンスを、20世紀中頃のアメリカを舞台に再構築した話なのだから、ありきたりでない方がおかしい。

 だいたい、この作品の出来映えをストーリーで判断する必要はないのは、冒頭10分程度でほとんどの人が痛感するはずだ。ミュージカルとしての完成度が、震えが来るほどに高い。

 冒頭では、歌うどころか、ろくに口を利くシーンもない。音楽に合わせて青年たちが指を弾きはじめ、バスケット・コートを横切るようにゆっくりと歩きだす。一見何気ない動きだが、既に隊列は整っていて、突如として華麗なステップ、ターンを繰り出して来る。物語の舞台となるウエスト・サイドのほぼ全体の姿を観客に示しつつ、道や壁に残った落書き、ふたつのグループが絡む様子から、彼らの対立関係をそっと織りこんでくる。漫然と眺めていれば、何となく浮ついたひと幕にしか見えないが、人物とカメラの動きが完璧なほどに計算されており、吟味するほどに凄い。このひと幕だけでも名作と認定してしまっていい、と感じるほどの迫力だ。

 ただ、あまりに冒頭に凄味がありすぎるために、最後まであのインパクトを超えられない嫌味はあるが、それでもダンスシーン、歌唱のクオリティはすべて水準を遥かに上回っている。単体でも人気のある“America”や“Tonight”のような名曲が組み込まれ、トニーとマリアの出逢ったダンスホールのひと幕では、とても素人が混ざれそうもない高度なステップを堪能できる。近年のミュージカル映画と異なり、歌唱はほとんど吹替であるということだが、その程度のことは問題にもならない。この見事な構築美のためには、嘘もまた方便というものだろう。

 もうひとつの欠点――というより、ミュージカルとしてクオリティが高いからこその難点なのだが、あまりにダンスが華麗、かつ盛り沢山であるために、中盤はやや平板に感じられる。いっそ画面に向かって「お前ら踊りすぎだ話を早く進めろー!」と叫びたくなるほどだ。クオリティが高いが故の悩みであり、ここに突っこむのはさすがに酷、という気もする。

 ストーリーは『ロミオとジュリエット』をなぞっていると言いながらも、ミュージカル部分以外の台詞回し、それを見せるカメラワークが優れていることも、本篇の美点だ。こと秀逸なのが、ベルナルドの恋人アニタ(リタ・モレノ)の立ち位置と、彼女の言動である。いちばん早い時期に、トニーとマリアが恋に落ちたことを知る人物だが、当初は苦い顔をしながらも決して否定的ではない。だが、状況が一変すると、目まぐるしくその言動が変化し、終始事態を揺さぶり続ける。

 アニタに限らず、本篇は『ロミオとジュリエット』の人物配置を整頓し、微妙に流れを変えることで、原典にあった“幼稚な激情”という部分をなるべく排し、より“抗いようのなかった悲劇”という側面を強めているように感じられる。オリジナルにあった、やや自己陶酔的とも取れる結末を、敢えてああいう形に変更したことで、却って哀しみの純度を高めているように思うのだ。

 率直に言えば、その完成度の高さ、表現の質の高さを充分に感じることは出来たが、私自身は熱狂的に支持したい、という気にはならなかった。あまりに高度に突き詰められた表現が、いささか観る側を突き放しているように感じられるせいかも知れない――とは言い条、惹かれる人が多く、未だに様々な場面で採り上げられるのも頷ける傑作であり、今後もミュージカル映画の金字塔のひとつとして歴史に残るのは間違いない、と思う。相性があまり良くなかった、と感じつつもそう言わせるだけの圧倒的な存在感が、本篇には備わっているのだ。

関連作品:

たたり

サウンド・オブ・ミュージック

北北西に進路を取れ

ロミオとジュリエット

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