『ダーティハリー3』

ダーティハリー3 [Blu-ray]

原題:“The Enforcer” / 監督:ジェームズ・ファーゴ / 脚本:スティーリング・シリファントディーン・リーズナー / 原案:ゲイル・モーガン・ヒックマン、S・W・シュアー / キャラクター創造:ハリー・ジュリアン・フィンク、R・M・フィンク / 製作:ロバート・デイリー / 撮影監督:チャールズ・W・ショート / 美術:アレン・E・スミス / 編集:フェリス・ウェブスター、ジョエル・コックス / キャスティング:マリー・ゴールドバーグ / 音楽:ジェリー・フィールディング / 出演:クリント・イーストウッド、ティン・デーリー、ハリー・ガーディノブラッドフォード・ディルマン、ジョン・ミッチャム、デヴェレン・ブックウォルター、アルバート・ポップウェル、ジョン・クロフォード、サマンサ・ドーン / マルパソ・カンパニー製作 / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

1976年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1976年12月25日本公開

2010年4月21日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2011/08/19)



[粗筋]

 サンフランシスコ市警のハリー・キャラハン刑事は腕利きだがその仕事ぶりの荒っぽさでも名を轟かせている。先日も押し込み強盗を逮捕するために、被害に遭った店を半壊状態にしてしまい、ハリーは人事課に左遷されてしまう。

 ハリーが捜査課を離れたのち、市内で倉庫が襲撃される事件が発生した。たまたま直後に現場を訪れたハリーの元相棒フランク(ジョン・ミッチャム)は犯人グループの反撃を受け、瀕死の重傷を負う。病床を訪ねたハリーに、フランクは自分を襲った男の顔を見た覚えがある、と告げて、息を引き取った。

 襲撃された倉庫からは兵器が奪われ、直後に過激派からの犯行予告が届いたことから、警察では更に深刻な事件が起きることを考慮し、ハリーを捜査課に戻すことを決める。亡くなったフランクに代わってハリーの相棒となったのは、何と彼がたった一度だけ行った、刑事への昇進試験の面接に参加していた女性警官、ケイト・ムーア(ティン・デーリー)であった。

 気迫はあるがやはり何かと頼りない彼女に不満を抱くハリーだったが、敵はそんなことに構ってはくれない。過激派たちが次に襲ったのは、警察署であった。トイレが爆弾によって吹き飛ばされたのである。

 現場を確認したハリーは、直前に目撃した黒人の男が怪しいと直感、すぐさまその男を捜した。ハリーの様子を見た男は血相を変えて逃走、ハリーも全力でそのあとを追う――

[感想]

 シリーズ3作目にして、ハリー・キャラハン刑事はすっかり貫禄を身につけた感がある。

 1作目時点では腕利きの表情を見せていたが、まだ若さ故の血気盛んさが際立っており、娯楽性を高めた2作目でもアクション俳優としての側面をより色濃く感じさせていた。それがこの3作目で一気に、ベテランとしての風格を滲ませている。

 そう感じるいちばんの理由は、左遷された先が人事課であり、それと前後して見せるハリーの振る舞いにあると言えそうだ。面接で、刑事志望の警官に非常時の反応を見るテストを施し、不慣れな相棒に不快感を示しながらも積極的には遠ざけようとしない。基本的に一匹狼であることを選んでいるのは同じだが、そのために人から積極的に距離を置こうとしている様子が乏しくなったのは、旧作に比べて丸くなった、というよりは、己の信念をより強固なものにしているからではないか。当初のアンチヒーロー的な人物像から、のちのイーストウッドが見せる、“頑固親父”めいた人物像へと、このあたりからシフトしているように感じられる。シリーズとして組み立てる上で、老いることを自覚的に受け入れようとしていたのか、単純に年輪を経た言動にシフトしていったのかは解らないが。

 ストーリー自体も、旧作に添って、当時の現代的要素を組み込みながらも娯楽映画であることを念頭に置いた作りを保っている。社会正義を笠に着ながら、本質的には己の欲望を満たすために行動している過激派という犯人像もそうだが、女性の社会進出の波が生じてきたのに合わせて、初めて女性が相棒となり、それを政治的に利用される、というくだりは、当時としてはなかなかの着眼だったのではなかろうか。

 ただ、ストーリーとしてはこれまで以上に結構が悪くなっている感がある。ハリーと対決する過激派に目的意識がないこと自体はいいのだが、実際の犯行自体が無軌道に映ってしまっているのは問題だ。ハリーが爆弾魔の動向を追っているなかで訪れる、ハリーにとっては予想外の展開は、だが観客の側でもそれを察知する伏線が見つからないので、あの前後で不要な戸惑いを与え、テンポを崩してしまっている。アルカトラズ刑務所跡を舞台としたクライマックスはアクション映画として見応え充分ながらも、なぜあそこを選んだのか、どうして彼らがあっさりとあの島を占拠することが出来たのか、という疑問を残してしまう。そして、クライマックスでの出来事は、もう少し相棒であるムーアの活躍を描いた方が活きたように思える。

 ストーリー上にぎこちなさは生じてしまったが、しかし作品としての面白さは揺るぎない。黒人宗教家との一風変わった駆け引き、目的が定まっていないからこそ読めない犯人側の行動が齎す予測不能の展開、周囲の状況に振り回されつつもハリー・キャラハン刑事というキャラクターの魅力が損なわれていないのも見事だ。女性を相棒にしながら色恋沙汰に発展させず、適度なユーモアを絡めて扱うという、これもハリーのキャラクター性を踏まえたバランス感覚もいい。

 ハリーの振る舞い、雰囲気に老いが滲んだことを差し引いても、旧2作に比べて内容的、表現的にいささか精彩を欠いたことは否めない。ただ、翳りが生じてきたと言われるキャリアの立て直しを図る一方で、それまでの向上心を守り抜いた矜持も窺える、イーストウッドらしさが貫かれた作品でもある。

関連作品:

ダーティハリー

ダーティハリー2

恐怖のメロディ

マンハッタン無宿

ブリット

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