原題:“威龍猛探” / 英題:“The Protector” / 監督&脚本:ジェームズ・グリッケンハウス / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:マーク・アーウィン / 編集:コーラリー・オハラ / VFX:ジーン・グリッグ / スタント・コーディネーター:ジャッキー・チェン / 音楽:ケン・ソーン / 出演:ジャッキー・チェン、ダニー・アイエロ、ソーン・エリス、ロイ・チャオ、サリー・イップ、ムーン・リー、パトリック・ジェームズ・クラーク / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1985年香港作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:大條成昭 / PG12
1985年6月15日日本公開
2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
大成龍祭2011上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/08/21)
[粗筋]
香港出身のビリー・ウォン(ジャッキー・チェン)はニューヨーク市警で刑事を務めている。正義感に溢れる男だが血気盛んで、しばしばトラブルを巻き起こす悪癖があった。夜勤明け、相棒のマイケル(パトリック・ジェームズ・クラーク)とともに入った食堂が強盗に襲われ、マイケルが凶弾に倒れると、ビリーは徹底的にあとを追い報復を果たすが、その代わり警察に多大な損害を齎し、交通課に転属を命じられてしまう。
そんな矢先、デザイナーのローラ・シャピロ(ソーン・エリス)がファッション・ショーの最中、武装集団によって誘拐される、という事件が起きる。ローラはニューヨークに拠点を置く麻薬シンジケート一家の娘で、どうやら香港のシンジケート、コー一家との交渉が決裂したために誘拐されたようだった。既に香港まで連れ去られた可能性があるため、土地鑑のあるビリーと、彼の旧友ダニー・ガローニ(ダニー・アイエロ)が派遣されることとなる。
ビリーたちは現地に着くとまず、ローラの用心棒が事件直前、頻繁に長距離通話をしていたマッサージ店を訪れる。内偵がてら、少しくつろぐつもりだったビリーたちだが、マッサージの女たちが刃を向けてきて、一転修羅場となった。
どうにかその場は切り抜けたビリーたちだったが、香港警察の署長に睨まれ、コー一家の差し金と思われる刺客に狙われ、事態は容易ではない。そこでビリーは、ある人物の力を借りるべく、商船の密集する港へと赴いた……
[感想]
まず断っておかないといけないが、この作品には二つのヴァージョンが存在する。監督ジェームズ・グリッケンハウスが手懸けたオリジナルと、その出来映えに納得のいかなかったジャッキーが追加のカットを撮影、差し替えを施した別ヴァージョンである。どうやら日本ではジャッキー編集版が公開されたようだが、DVDはユニヴァーサルで発売されて以降、オリジナル版が採用されており、DVDを上映素材に用いていた大成龍祭で鑑賞したため、ここで触れているのはオリジナル版、ということになる――生憎と両方のヴァージョンを揃えて比較することが出来ないので、心許ない表現になるのが我ながら歯痒いが。
ただ、正直なところ、明確な資料がなくとも本篇はグリッケンハウス監督によるオリジナル版であろう、と推測することは出来る。娯楽映画らしいサービス精神に溢れた映画ではあるが、そのサービス精神の方向性が、明らかにジャッキー・チェンのこれまでの作品と趣を異にしているのだ。
最も如実なのは、意味のないお色気の過剰さであろう。最初はニューヨークを舞台に激しい捕物を繰り広げるが、必要に駆られて香港に渡ると、捜査の名目で過激なサービスを嬉々として受ける。終盤に登場する麻薬密造工場では、女の作業員たちが何故か全裸だ――着服を防止する、といった目的が想像できるので決してまるっきり不自然ではないが、撮り方といい扱いといい、お色気の方を選んだ表現だというのは明白だろう。
アクションにしても、ジャッキー・チェンの身体能力を活かした見せ場は鏤められているが、どうも添え物っぽく感じられる。いつもより口調、行動共に荒っぽいジャッキー像はやや新鮮だが、アクションのコクが乏しくなっているために、果たしてジャッキーである必然性はあったのか、と感じられてしまうのだ。さんざん追いつ追われつを繰り返した挙句の締め括りも、派手ではあるが無理矢理すぎる。
とはいえ、港に密集する船の上を伝って犯人を追うくだりや、電動ノコギリを振り回して詰め寄ってくる相手との格闘など、この時期のジャッキーならではのデンジャラスなアクションは詰めこまれており、ジャッキーの個性をまるっきり無視した内容というわけではない。そして、ジャッキーらしさという点を差し引けば、B級(というよりC級に近いが)娯楽映画に徹したサービス精神は感じられる。話運びに筋が通っていないが、それとてこの時期のジャッキー映画も本質的に変わりないわけで、気構えを変えればある程度は愉しめる。
……まあそれでもやっぱり決して出来がいいわけではないし、ジャッキーの個性よりも娯楽としての面白さを追求するというならもっと踏み込まなければいけなかったはずで、ジャッキー作品のコンプリートを志すような人にしかお薦めできない――翻って、現在日本では正式にリリースはされていないジャッキー自身による別ヴァージョンも、初期作から辿って鑑賞している者としては観てみたいところだが……
関連作品:
『ダーティハリー』
『ダークナイト』
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