一夜限りの『鬼談百景』オールナイトatテアトル新宿。

左から内藤瑛亮、大畑創、安里麻里、岩澤宏樹、白石晃士、中村義洋。 来週1月30日、いよいよ小野不由美原作のホラー映画『残穢 −住んではいけない部屋−』が公開されます。それに合わせて、原作の姉妹編である『鬼談百景』のなかから選ばれた10本のエピソードを、『残穢』の中村義洋監督をはじめ、白石晃士、岩澤宏樹、安里麻里、大畑創、内藤瑛亮という6人の監督が映像化したものがネット配信にて先行公開されています。劇場公開自体はされないのですが、『残穢』公開1週間前の23日深夜、ネット配信された10本をはじめ、参加監督の中短篇を併せて上映する特別企画が催されました。東京国際映画祭で鑑賞した『残穢』がこれまでに観たホラー映画のなかでも5本の指に入るくらい好きなので、公開後に再鑑賞する気満々でしたが、こちらの企画も押さえないわけにはいかない。22日の『キャロル』同様、発売時間である深夜に他の用事を入れないよう配慮して、しっかりとチケットを押さえておきました――よもやこの冬最大の寒波とかち合うとは思ってませんでしたが。

 本篇上映前に、さっそくトークイベントです。登壇者も自ら仰言っていたとおり、この6人がイベントで一堂に会する機会は恐らくそうそうない。しかも、カメラがあるというのにけっこー無遠慮なことも喋っちゃってます――あんまり無遠慮すぎるので、聞かなかったことにしてあげたい。

 和気藹々としたトークから窺えるのは、全員が今回のオムニバスに手応えを感じている、ということ。原作が体験談の体裁を取っているため、“視点人物が死んではいけない”というルールがやや窮屈だった、という方もいましたが、全員がこうした短篇を経験しているせいもあってか、いずれも低予算ながら、その幅で各々の個性を発揮している。観る前から否応なしに期待が高まります――既にネット配信は始まってますが、これで楽しみたかったので、1本も観てなかったのだ。

 40分ほどのトークとプレゼント抽選会のあとはフォトセッション。もちろん普通はマスコミのみ撮影可能、なんですが、主催者の計らいでほんのちょっとだけ観客にも撮影のお許しが出ました。携帯端末の電源は律儀に切ってあったので少々慌てましたが、何とか無事に撮れました。

 イベント後にいよいよ本篇鬼談百景 劇場版』(日本出版販売配給)スタートです。

 監督陣が自信を持っていた通り、かなりクオリティの高いオムニバス。それぞれの個性がしっかり窺えて、しかし内容的にはしっかり正統派の怪談になっている。直前に仕入れた情報から、ひとつやふたつ、フェイク・ドキュメンタリースタイルを取っているものと思い込んでいたので、その意味ではちょっと残念でしたが、満喫致しました。

 先に帰られた中村・安里両監督以外の面々が雑談で時間を潰す休憩を挟んで、各監督の中短篇の上映です。こちらは“怪談”の縛りから解き放たれて実に多彩。観た覚えがあるのは大畑監督の『ハカイジュウ』だけ、あとはすべて初見でしたが、どれもかなり面白かった。

 一番手の安里監督『ゴメンナサイ』は3部構成のうち、時間の制約から1部だけの上映でしたが、これでもちゃんと成立している。“創作”の理想を描いているような内容ともいえ、なかなに魅力的。アイドルのナレーションが拙いのがちょっと気になりましたが、残りのエピソードも観てみたい、と思うくらいの仕上がり。

 2番手は岩澤監督、こちらは撮り下ろし新作『すばらしい日々』。岩澤監督は『鬼談百景』の自身のエピソードにもちょこっと登場させている両角奈緒役の女優演じる女子高生が海で自殺を試みようとした矢先に死体を発見する、というシチュエーションですが、展開はほとんどコメディ。岩澤監督のちょっと違う顔のようでいて、個性ははっきりと感じられて興味深い。

 3番手は――この辺がちと順番曖昧で間違ってるかも知れませんが、ここで確か大畑監督の『Trick or Treat』だったはず。だいぶ前から観たかった作品でした。憲法改正を公言する総理大臣候補を亡き者にしようとする女子高生の暗躍を追った物語、ですが30分のあいだにサスペンスと逆転がしっかり入っていて充実感がある。個人的には『へんげ』よりもこっちのほうが好きかも知れない。

ハカイジュウ』を挟んで、確か次が内藤監督の『牛乳王子』だったはず。牛乳王子と呼ばれていじめられた男子学生の復讐、と見せかけて次第に奇妙な世界が展開する物語。監督の映画学校卒業制作だったようで、荒削りにもほどがありますけど、変なパワーはあります。少し『すばらしい日々』と通じるものがあるのが面白い。

 中篇パートのトリは白石監督の最新作『白石晃士の世界征服宣言』です。これは先日発売された監督の著書『フェイクドキュメンタリーの教科書』に同梱されたDVDに収録された、iPhoneで撮影した短篇なのですが、もーどこまでも白石印。普通のドキュメンタリーにするのか、と思いきや、白石作品お馴染みの俳優相手に始まる珍妙なやり取りから、突然やたらと規模の小さいスペクタクルが展開する。この尺で自分の個性を注ぎ込み、笑いを取ってしまうのが素晴らしい。とりあえず『コワすぎ!』シリーズのファンは観ておくべきだと思う。

 ふたたびの休憩を挟んで、最後に上映されたのは中村監督2005年の作品『ブース』(日本出版販売×スローラーナー初公開時配給)。この企画の中心人物ということもあってか、こちらだけ長篇です。

 しかしこの作品、名前だけ知っていて観たことはなかったのですが、思いのほか面白かった。ラジオ局のスタジオを中心に繰り広げられる定番のホラー、かと思いきや見せ方にひねりがあって飽きさせない。恐怖以上に毒とユーモアが際立っている感もありますが、しかしそこもまたホラーの楽しさ。これは正直、掘り出し物でした。他の中短篇はいちいち別項目に分けていると煩雑すぎるために、この記事だけで済ませるつもりですが、『ブース』だけはちゃんとした感想を仕上げようと思います。

 全篇の上映終了後、本篇の撮影にも使われていた厭なスタンドにサインを入れたものをプレゼントするジャンケン大会がありましたが――私は参加しませんでした。貰っても置く場所が思いつかないから。受け取った人、あれをどうやって持って帰ったのでしょう。

 寒波の襲来で、都内でも多少は降雪の可能性を指摘されていたはずが、いざ劇場を出てみたらまったくその気配はなく、路面は問題なく乾いている。万一を考え、折りたたみではなく普通の傘を持っていったのですが、荷物がかさばっただけでした……。

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