原案:坂口安吾『明治開化 安吾捕物帖』、『復員殺人事件』 / 監督:水島精二 / 脚本:會川昇 / キャラクターデザイン:pako、高河ゆん / アニメーションキャラクターデザイン&総作画監督:稲留和美、矢崎優子、やぐちひろこ / プロダクション・デザイナー:宮本崇、石垣純哉、柳瀬敬之 / 美術監督:脇威志 / 色彩設計:中山しほ子 / 撮影監督:佐々木康太 / 音響監督:三間雅文 / 音楽:NARASAKI / 主題歌:School Food Punishment『How to go』(EPIC Records Japan)、LAMA『Fantasy』(Ki/oon Records) / 出演:勝地涼、豊崎愛生、三木眞一郎、山本希望、入野自由、川島得愛、戸松遥、諏訪部順一、内山昂輝、嶋村侑 / アニメーション制作:ボンズ / 配給:東宝映像事業部
2011年日本作品 / 上映時間:49分
2011年11月19日日本公開
公式サイト : http://www.un-go.com/
TOHOシネマズ渋谷にて初見(2011/11/19)
[粗筋]
数々の難事件に挑むものの、常に海勝麟六(三木眞一郎)の後塵を拝していることで、“敗戦探偵”の異名をとる結城新十郎(勝地涼)。彼のそばには、普段は無邪気な少年の姿でいるが、時として妖艶な美女の姿となる奇妙な人物・因果(豊崎愛生)が常に寄り添っている。彼らの関係のはじまりは、ちょうど戦争が始まる直前の出来事にあった。
日本が戦争に突入したのは、戦地に赴いたNPO“戦場で歌う会”の面々が、現地のゲリラに襲撃され、処刑された映像が公開されたことがきっかけであった。その映像を持ち込んだのは、“戦場で歌う会”の一員であった大野妙心(諏訪部順一)という人物であり、その後彼は“別天王会”という新興宗教を開き、終戦後急速に信者を増やしている。
だが、その“別天王会”の内部で、奇妙な試写が相次いでいた。検察庁は独自にスパイを潜入させ、不可解な死の一部始終を録画したが、そこには証拠となるものは何も映っておらず、スパイもその現実を超越した出来事を前に、本物の信者に転向してしまう。
検察庁の特別顧問を務めている海勝麟六は、この事態を前に、奇策を提案した。担当検事の虎山泉(本田貴子)は半信半疑ながらも、ある人物のもとを訪ねる。
そしてそれが、敗戦探偵・結城新十郎最初の事件になるのだった……
[感想]
本篇は、フジテレビ系列の深夜アニメ枠『ノイタミナ』にて、2011年10月より放映された作品『UN-GO』の前日譚である。テレビ放映版では語られていない、結城新十郎と“因果”という謎の人物との関係がどのように始まったか、を描いている。
前日譚なので、必ずしもテレビシリーズを観ている必要はない……とは言えない内容だ。どこがどのように、ということを語ると仕掛けに抵触してしまうので避けるが、テレビシリーズを数話鑑賞して、結城新十郎と因果、そして彼らを取り巻く人物や、背後に横たわる世界観を知っておいたほうが、製作者の意図通り、同時により深く愉しむことが出来るはずだ。
そもそも、テレビシリーズを支える背景、発想からしてユニークで魅力に富んだ作品である。坂口安吾による『安吾捕物帖』の作品世界を、大規模な戦争にふたたび参加したあとの日本、という設定の近未来に置き換え、そこへ“因果”のようなオカルト的人物像や、電子化が進んだ社会ならではのモチーフを加え、ミステリ、オカルト、SFを横断した空間を構築している。新十郎という人物の特徴的な立ち位置もあって、独特の広がりを感じさせ、放送中の11月現在、一部で話題となっている。
新たに盛り込んだ要素が膨れあがっているせいか、テレビシリーズでも全般に謎解きとしての醍醐味はやや薄れ気味だが、本篇もミステリとして眺めるとちょっと食い足りない。そもそも新十郎自身がまだ“探偵”という自覚を持って行動していないので、次第に秘密が明らかになったり、謎が解き明かされていく、という類の興奮がなく、テレビシリーズを観て「ミステリとしてはどうだろう」と首を傾げていた人は恐らく本篇でも乗れない。
ただ、全篇が謎解きの興趣に横溢している、とは言えずとも、謎が解かれるときの興奮や、そこに凝らされた趣向には、ちゃんと“ミステリ”に通じる面白さが潜んでいる。テレビシリーズにおいては、家の奥に閉じこもった当主、いささか簡単すぎる暗号、といったモチーフの切り口などがあるが、本篇のなかにも“顔の傷を隠すために包帯を巻いている男”を筆頭に、ミステリ好きの心を擽るモチーフが随所に盛り込まれている。
根底にオカルト的、擬似科学的な仕掛けがあるために、そうしたものを絡めた解決がどうしても許せない、という人には(テレビシリーズ同様に)本篇の真相は少々受け入れがたいものだろう。だが、テレビシリーズの世界観にも直結する重要な部分に絡んだ真相、そしてその幕引きの仕方は、優秀なミステリがときおり引き起こす、世界が覆されるような感覚を齎す。夾雑物が多いために、真面目な人は早い段階で拒絶反応を起こすかも知れないが、このクライマックスには間違いなく、“探偵小説”の趣がある。
明らかにテレビシリーズと同じラインで製作しているからだろう、率直に言えば、わざわざ大スクリーンで鑑賞する類の魅力は感じない。尺が短いために、本当はもっと掘り下げるべきであった戦地での交流の様子が通り一遍にしか綴られなかったことにも不満を覚える。しかし、テレビシリーズで惹かれた人は、是が非にでも鑑賞しておく価値はあるだろう。また、変に小綺麗にまとまった作品よりも、尖った趣向、特徴的な世界観のうえに築かれた謎解きをお好みの方は、いちど触れてみるといい――どちらにせよ、やっぱりテレビシリーズを最低1話か2話は観たうえで本篇に臨む方がいいとは思うが。
関連作品:
『犬神家の一族』
『姑獲鳥の夏』
『魍魎の匣』
『小川の辺』
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