原題:“風雲 II The Storm Warriors” / 原作:マー・ウィンシン / 監督:オキサイド・パン&ダニー・パン / 脚本:オキサイド・パン&ダニー・パン、パン・パクシン、ティマックス・ウォン / 製作:オキサイド・パン&ダニー・パン、アライン・ラム / 製作総指揮:ダニエル・ラム、チュー・シューイン / 撮影監督:デーチャー・スリマントラ / 美術&衣裳:イー・チュンマン / 編集:カーレン・パン / 視覚効果監督:ン・ユンフェイ / アクション・コレオグラファー:マー・ユクシン / 音楽:ロナルド・ン / 出演:イーキン・チェン、アーロン・クォック、サイモン・ヤム、ニコラス・ツェー、シャーリーン・チョイ、ラム・シュー、パトリック・タム、ケニー・ホー、ティファニー・タン、ケニー・ウォン / 映像ソフト発売元:TWIN
2009年香港作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2010年12月24日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2012/01/15)
[粗筋]
最強の武術家になることを切望する絶無神(サイモン・ヤム)は、能力を奪う薬を用いて、無名(ケニー・ホー)ら名だたる武術家を弱らせ、皇帝(パトリック・タム)もろとも拘束した。自らに屈服すれば富と権力を約束する、という甘言に無名や、同様に捕えられていた風(イーキン・チェン)、雲(アーロン・クォック)らは頷かず、敢然と立ち向かう。だが、圧倒的な力の前に無名は敗北、辛うじて脱出には成功するが、皇帝たちは絶無神のもとに取り残されてしまった。
無名は決戦によって消耗、もはや絶無神と戦うだけの力を残していない。対抗しうるとすれば、力を合わせたときに最強となる風と雲しかいなかった。だがそれでも、いまの絶無神を相手にするにはまだ心許ない。一同は邪皇(ラム・シュー)の提案で、絶無神に匹敵する武術の達人・猪皇の協力を求めに向かった。
猪皇は、だがより優れた技を得るために魔の力を求めたことにより、罪のない人々を殺め、呵責の念から自ら両腕を切り落としており、もはや絶無神に立ち向かうことは出来なかった。短期間で鍛えるためには自分同様魔の力に身を委ねるしかなく、そのためには冷静さが必要とされる。猪皇は荒々しい性格の雲ではなく、心の穏やかな風のほうがこの試練に耐えうる、と見た。
もし自らが魔の力に屈したなら、ためらわずに殺してくれ、と雲に頼んで、風は猪皇とともに修行の舞台へと赴く。残された雲も、無名の指導を受け、技の研鑽に励んだ。
しかし、そうして捲土重来の機を窺う者たちを、絶無神たちが見逃すはずもない。彼らはより強固にこの国を支配するべく、力の源が眠るという龍の墓を探すと共に、雲たちのもとへ刺客を放った――
[感想]
『マトリックス』を筆頭に、ハリウッドにも大きな影響を及ぼした香港映画『風雲 ストームライダーズ』の正式な続篇である。が、前作から10年も経過して製作されたものなので、色々なところで趣を違えている。
前作から続いて出演しているのは、タイトルロールである風と雲を演じたイーキン・チェンとアーロン・クォックのみ、あとは役者が入れ替わっている――というより、ストーリーが前作からかなりあとの出来事と思しく、同一人物がほとんど登場しない。
ストーリーは確かに地続きだが、前作の直後から始まっている、というよりあの事件のずっとあとの様子を描いたようになっている。
そして、スタッフも一新されている。のちに『インファナル・アフェア』を撮った前作のアンドリュー・ラウから、『the EYE』など香港・タイを中心に活躍するオキサイドとダニーのパン兄弟に監督がバトンタッチ、主要スタッフもパン兄弟作品でよく見る名前が連なった。
これだけ条件が重なれば当然だが、仮に前作から立て続けで鑑賞したら、かなり違和感を抱く作りとなっている。
前作はロケも多く行い、荒削りなCGを用いて奇想天外なアクションを描いているが、本篇は恐らく大半がスタジオ撮影の後、背景も込みでCGで製作している。技術が進歩し、手法も洗練されたことで遥かに表現が自然になったが、他方で前作に見られた、後世に影響を齎す斬新さは失われた。むしろ、本篇はいささか劣化した『300』という印象になってしまっている。確かにあれからCGの技術は長足の進歩を遂げ、ハリウッドで製作される作品のレベルが急激に向上したのだが、それにしても手触りが他の傑作に似通ってしまっているのは、先駆者的に捉えられる作品の続篇であるだけに勿体なく思える。可能であれば、前作の“空気”を発展させたようなものにして欲しかったところだ。
だが一番引っかかるのは、前作にあった作品世界の広さも、映像的な壮大さも損なわれてしまったことだろう。視覚効果が前作よりも発展的に用いられていることは確かなのだが、配慮がやや乏しく、画面的な広がりを感じにくい。そのうえ、複数のエピソードが絡みあい膨らんでいく興奮のあった前作に比べ、本篇の構想はかなり単純なのだ。決してドラマ性がないわけではないがごく月並みだし、前作のような厚みはない。前作の、武侠ものの持つコクを最大に引き出した語り口にこそ魅力を感じていたような人は、恐らく本篇にはっきりと失望を抱くはずだ。
前作の魅力を損なった代わりに、対照的に力を注いでいるのがアクション描写だ。前作はまだまだ技術力不足で、コマを落としてスピード感を演出するような誤魔化しがあったが、本篇の描写は格段に洗練され滑らかに、そして迫力を増している。『300<スリー・ハンドレッド>』や『シン・シティ』のような作品が実現した、映画におけるコミック的なアクション表現を踏まえているからこその洗練ではあるものの、そういうスタイルをきっちりと吸収している柔軟さ、適応性は評価出来る。
前作ほどの深みはない、とは言い条、単純化された活劇とは違う、苦しい葛藤を踏まえたアクションやドラマをきちんと組み込んでいるのもいい。展開の意外性を狙うあまりにやや心理的な伏線が乏しくなっているきらいはあるものの、クライマックスの熱さは見応えがある。
全般に新しい視覚効果の鋭さが目立ってしまっていた前作に比べ、統一感が生まれている点もポイントだ。これはもともと作家性の強いパン兄弟が手懸けているからこその変化だろう――前作同様の先鋭さを欲していた人には不満でも、作品としては間違いなく洗練されている。
香港映画を見慣れている人にとっては非常に豪華なキャストだが、多くの日本人にとっては伝わりにくいこと、またアクション主体でストーリーが薄っぺらに感じられることなどが、劇場未公開に終わってしまった原因と思われるが、決して完成度は低くないのである――それが多くの人に実感しにくい方向性だったのが、本篇のいちばんの問題点かも知れない。
関連作品:
『the EYE』
『死の森』
『HERO 英雄』
『シン・シティ』
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