原作:西岸良平(小学館・刊) / 監督&VFX:山崎貴 / 脚本:山崎貴、古沢良太 / 撮影:柴崎幸三,J.S.C. / 照明:水野研一 / 録音:鶴巻仁 / 美術:上條安里 / 装飾:龍田哲児 / 編集:宮島竜治 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:佐藤直紀 / 主題歌:BUMP OF CHICKEN『グッドラック』(TOY’S FACTORY) / 出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、薬師丸ひろ子、堀北真希、三浦友和、須賀健太、小清水一揮、もたいまさこ、染谷将太、マギー、温水洋一、神戸浩、飯田基祐、ピエール瀧、蛭子能収、正司照枝、森山未來、大森南朋、高畑淳子、米倉斉加年 / 企画・制作プロダクション:ROBOT / 配給:東宝
2011年日本作品 / 上映時間:2時間22分
2012年1月21日日本公開
公式サイト : http://www.always3.jp/
TOHOシネマズスカラ座にて初見(2012/03/01)
[粗筋]
1964年、東京オリンピック開催に備えて、夕日町も活気づいていた。売れない小説家の茶川(吉岡秀隆)でさえ観戦のためにとうとうテレビを導入すれば、新しいもの好きの鈴木オート社長(堤真一)は当然のようにカラーテレビ購入に踏み切る。
だが、町の変化はそればかりではない。いまや後輩も出来て、だらしないところのある社長が辟易するほどにしっかりとした従業員に成長した六子(堀北真希)に、春が訪れようとしていた。仕事の際に負った火傷を看てもらった菊池(森山未來)という若い医師に、恋心を抱いたのである。通勤途中に近くを通りかかることを知った彼女は、朝になるとおめかしをして、自分も出勤する途中を装って毎朝、彼と挨拶を交わしている。
その様子を見たタバコ屋のおばちゃん(もたいまさこ)は、持ち前の好奇心でお節介をしようと試みた。社長や奥さん(薬師丸ひろ子)には黙っていてくれ、と六子には頼まれるが、菊池の評判を探るために、患者を装って菊池の勤務先に赴く。だが、そこで同僚たちが話したのは、決して芳しい内容ではなかった……
他方、茶川家にも波乱が起きつつあった。茶川が長年、子供向けの小説を連載している『冒険少年ブック』は昨今、漫画中心に紙面内容を刷新しており、それでも茶川の作品を掲載し続けていたが、最近はもうひとつの連載小説『ヴィールス』の前に人気は翳りを見せている。担当編集・冨岡(大森南朋)の助言で新味を出そうと努力するが、人気は回復しなかった。糟糠の妻・ヒロミ(小雪)が第一子を身籠もっており、引き取って面倒を見ている淳之介(須賀健太)もつつがなく勉学に精を出せるように、と茶川はもがき続けるのだが……
[感想]
1960年代の日本を舞台に、高度経済成長へ向けて邁進する人々と、それを支える家族の姿を優しく、情緒豊かに描き出した人気漫画『三丁目の夕日』を、セットと膨大なCGとを駆使して再現したシリーズの3作目である。
発達したCG技術の正しい応用として登場した作品、と私は認識しているが、そういう使命に相応しく、この数年ほどで急激に数を増やした3D上映対応作品として製作されている。第1作から追ってきた者としては観ないわけにはいかない、と当然のように3Dで鑑賞したのだが――率直に言えば、3Dにする必然性があった、とはあまり感じなかった。
インパクトが強かったのはプロローグの、紙飛行機を飛ばすところや、真上から東京タワーを見おろす場面、そして鈴木オート社長が怒髪天を衝くさまをコミカルに表現したくだりぐらいのもので、全体としては立体感を印象づける部分は少なかった。
だが、それでも無意味であった、とは思わない。もともと近年の3Dは、“飛び出す”という趣向よりも“奥行きの再現”が重視され、結果として生じる臨場感にこそ意味がある、と考えられる。そういう意味では、昭和30年代の日本を先進技術で再現しようと試みてきたこのシリーズが、更に観客を独自の世界観へと誘う方法論として3Dを導入するのは間違いではない。実際、鈴木オートのお茶の間に近所の人々が集ってオリンピックの応援をする場面や、そんななかでのヒロミの出産シーンなどは、その場に居合わせているような感覚を齎す仕上がりだった。あまり過剰に意識させることなく、観る者を物語、作品世界のなかに居させるような作りは、むしろこの手法をよく消化している証と言えよう。
物語の構造も、いい意味でのマンネリ感があり、安定している。すっかり定着した茶川家、鈴木家双方の出来事を交互に描き、共鳴させながら、“家族”というテーマを掘り下げていく。わざと観客をミスリードしてハラハラさせる技まで仕掛けてあり、大作ながら往年のホームドラマの趣があるのも好感の持てるところだ。
ただ、このシリーズは極めて特異な人間関係を、短期間で膨らませてしまったせいで、本来こういうテーマを描くのならば別のもっと真っ当な切り口を用意するべきところを、似たような歪な角度からの切り口で描いてしまったために、ごく普遍的な主題を扱っているにも拘わらず、奇妙な違和感を生じてしまっている。もともと原作であるシリーズは、特定の家族や人間関係を集中的に追うのではなく、オムニバス的に様々な人々を採り上げることで成立していたのだから、それに倣って新たな家庭、人間関係を登場させて、そちらと対比させたほうが本篇の主題はより生きたのではないか。
CGで過去の世界を再現し、そのなかで懐かしさと現代的な感覚を馴染ませたドラマを構築する、という手法を本篇でしっかりと確立したことは高く評価したいが、しかしもしこの作品世界を更に広げたいと考えているなら、そろそろ茶川家や鈴木家とは距離を置くべきときが来たのかも知れない。主要登場人物にはほぼ悪人がおらず、安心して観られる作品世界は今後もシリーズとして継続させる意味はあるだろうが、この世界観だからこその主題を追求するためには、ふたつの“家族”だけに拘るべきではない。
とはいえ、その辺はけっきょく、作り手がどういう物語を求め、描き出そうと考えていくか、によるので、観る側が気にするところではあるまい。前2作に対して強い違和感を抱かず、その心地好さに身を浸すことが出来た人ならば、今回も安心して愉しめる出来映えである。
関連作品:
『リターナー』
『
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