『アポロ18』

『アポロ18』

原題:“Apollo 18” / 監督:ゴンサーロ・ロペス=ガイェゴ / 脚本:ブライアン・ミラー / 製作:ティムール・ベクマンベトフ、ミシェル・ウォルコフ / 製作総指揮:ロン・シュミット、マシュー・スタイン、ボブ・ワインスタインハーヴェイ・ワインスタイン、ショウン・ウィリアムソン、コディ・ツウェイグ / 撮影監督:ホセ・ダビデ・モンテロ / プロダクション・デザイナー:アンドリュー・ネスコロムニー / 編集:パトリック・ルシエ / 音楽:ハリー・コーエン / 出演:ウォーレン・クリスティー、ロイド・オーウェン、ライアン・ロビンス、マイク・コプサ、アンドリュー・エアリー / 配給:角川映画

2011年アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:1時間27分 / 日本語字幕:林完治

2012年4月14日日本公開

公式サイト : http://apollo18.jp/

渋谷TOEIにて初見(2012/04/14)



[粗筋]

 人類初の月面着陸を成し遂げたアメリカ・NASAアポロ計画は、予算を理由に1972年12月の17号を最後に終了した――と公式には謳われている。

 だが実際には、それから2年後の1974年12月、18号が極秘のうちに打ち上げられていた。搭乗したのはベン・アンダーソン(ウォーレン・クリスティー)、ネイト・ウォーカー(ロイド・オーウェン)、ジョン・グレイ(ライアン・ロビンス)の3名。彼らが帯びていた使命は、従来のようなごく表面的な調査のみではない。国防総省から託された“PSD5”なる機器とともに、動体検知式カメラを月の地表に設置してくることを命じられていた。

 蓄積したノウハウもあって、着陸はスムーズに行われ、機器の設置もさしたるトラブルはなく完了した――かに見えた。着陸船に乗って月面での船外活動を任されたベンとネイトが初日から感じていた奇妙な気配は、2日目から静かに牙を剥き始める。

 発端は、回収した月の石だった。宇宙飛行士や着陸船が持ち込んだ微生物などの影響を受けないよう、回収されたものは小袋に密封して持ち帰るのが規則となっているが、どういうわけかそのうちの1つが、床に落ちていた。何事にも冷静かつ慎重を求められる宇宙飛行士には考えにくいミスである。ふたりは釈然としない想いを抱きながらも、その日の任務を粛々とこなしていく。

 だが、間もなく彼らは、あり得べからざるものを、月の裏側で発見することとなる――

[感想]

 近年、いわゆるフェイク・ドキュメンタリー形式のフィクション映画がかなり頻繁に発表されるようになった。安価な手持ちカメラ、自然光での撮影などを許容する手法ゆえに、低予算でも観客を納得させられるものが作りやすい、ということが認められたからだろう。

 だが、宇宙開発の現場での映像、という想定で製作されたフェイク・ドキュメンタリーというのはあまり類例がない。私自身が思いつくのは『アルマズ・プロジェクト』しかないのだが、着眼点はいいが宇宙ステーションにも拘わらず重力がある、という設定にしているためにリアリティが大幅に減じられていた感は否めず、このスタイルにとってはあまり相性の良くない題材と言えそうだ。

 そういう意味では、先行作『アルマズ・プロジェクト』と比較すると、本篇は遥かに洗練されている。月への航路の途中で無重力状態の描写を軽く挟み、本篇中でも母船では無重力にあることを思わせる表現をして、違和感を与えない。主な舞台が、地球よりも軽いとは言い条、きちんと重力のある月世界であるため、始終ふわふわと浮いていなくても済むことが、最小限のセットと粗い画像で可能なフェイク・ドキュメンタリーというスタイルにも合っているようだ。

 全体に漫然として印象に残る部分の少なかった『アルマズ〜』と比べ、ストーリー的にも完成度は高い。誰もが知っているアポロ計画、それも現実では中止されていた18号が打ち上げられていた、という発想に、月という“人間が到達した最も遠い場所”の神秘を利用した仕掛けは、実に堂に入っている。

 ただ、可能な限りリアリティを保とう、ホラーとして堅実な筆運びを保とう、と誠実な努力をしているあまりに、損をしている部分も多い。導入部分の真に迫った描写は、しかし緻密に組み立てられたがゆえに、退屈になってしまっているきらいがある。また、モチーフが限られているせいもあるが、肝心要の仕掛けを早々と見抜いてしまう人も少なくないはずだ――正直なところ、私は鑑賞前から、ここにポイントがある、と目をつけていたので、驚きはまったくなかった。

 少しずつ奇妙な事実が積み重ねられ、宇宙空間ならではのトラブルを組み込むあたりにも抜かりがない。ただ、それ故に大胆な工夫が制約されてしまって、小さくまとまってしまった感がある。クライマックスでの見せ場の巧さもさることながら、そもそもの大前提に趣向まで凝らしてあるあたり、この手法の利点を充分すぎるほど理解して製作していることが窺える。だが、だからこそ冒険出来なくなり、さほど突出した印象を与えられずに終わってしまったのが勿体ない。

 繰り返すが『アルマズ・プロジェクト』と比較すれば、手法に見合ったリアリティを備えた作品である。だが、どうせやるなら、もうひとつ突き抜けて欲しかった。

関連作品:

アルマズ・プロジェクト

ザ・ムーン

宇宙(そら)へ。

トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン

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