『決闘の大地で』

『決闘の大地で』

原題:“The Warrior’s Way” / 監督&脚本:イ・スンム / 製作:バリー・M・オズボーン、リー・ジョーイック、マイケル・ペイサー / 製作総指揮:ティム・ホワイト / 撮影監督:キム・ウヒョン / プロダクション・デザイナー:ダン・ヘナ / 編集:ジョナサン・ウッドフォード=ロビンソン / 衣装:ジェームズ・アシェソン / VFXスーパーヴァイザー:ジェイソン・ピッチォーニ / スタント・コーディネーター:オージー・デイヴィス / アクション監督:下村勇二 / 音楽:ハビエル・ナバレテ / 出演:チャン・ドンゴンケイト・ボスワースダニー・ヒューストンジェフリー・ラッシュティ・ロン / 配給:日活

2012年アメリカ、韓国、ニュージーランド合作 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:加藤真由美 / PG12

2012年4月14日日本公開

公式サイト : http://kettou-daichi.com/

シネマート六本木にて初見(2012/04/25)



[粗筋]

 東洋のある国で、“悲しき口笛”という一族きっての戦士として鍛え上げられた男(チャン・ドンゴン)。遂に最強の戦士を倒し、その地位に取って代わったが、いずれ敵対するであろう一族を抹殺するべきときに、唯一生き残った赤ん坊を手にかけることが出来なかった。一転、“悲しき口笛”から追われる身となった男は、安寧の地を求め、海を渡る。

 男が辿り着いたのは、砂漠の町・ロード。男の縁のあるスマイリーという人物を頼ってきたのだが、彼は既に亡くなっていた。以前、スマイリーを手伝っていたというリン(ケイト・ボスワース)に薦められ、男はスマイリーが持っていたランドリーを彼女と共に経営し始める。

 ロードの町はすっかり寂れ、長年建築の続いている観覧車が完成して人を呼び寄せることに望みをかけるような有様だったが、それでも人々は男を暖かく受け入れた。ずっと人を殺すことで生き延びてきた男は、初めて生かす喜びを知り、町に溶け込み始める。

 しかし、この朽ちかけた町にも、ハイエナは訪れる。かつて町を蹂躙し、リンの家族を惨殺したコロネル(ダニー・ヒューストン)率いる強盗団が、ふたたび襲来したのだ。いっとき耐えれば、町に平和は戻る――住人たちはそう信じて、リンを敢えて監禁し、コロネルたちの横暴に耐え忍ぼうとするが、復讐心に燃えていたリンは拘束を解き、コロネルのもとに忍んでいった。

 ひとたび刀を抜けば、“悲しき口笛”の一族はたちまち嗅ぎつけ、この地に殺到する。そうと知りつつも、男は刀の封印を解いた。新天地の人々を、何よりも愛する女たちを守るために――

[感想]

 かつて隆盛を誇った西部劇も、いまではハリウッドの主流ではなくなっている。年に1本か2本、志のあるスタッフによって秀作が撮られ高い評価を受けているが、量産はされていないし、娯楽映画というよりは文芸映画のヴァリエーションとして捉えられている感が強い。

 本篇は、そんな西部劇の持つ様式美を、一種のファンタジーとして考え、拡大解釈したような世界観を持った作品である。中心となるモチーフの多くは西部劇から頂いているが、そこに東洋武術を敷衍したアクションを採り入れ、『マトリックス』以降に成長したVFXの技術でアクションや背景そのものを描いている。

 それ故に、無国籍なムードの色濃い作品なのだが、しかしトータルで眺めると、珍しくない内容に感じられてしまう。

 事実、彩るモチーフは特徴的でも、既視感のあるものばかりであるし、そうした虚飾を取り払って顕わになる作品の骨格は、非常にオーソドックスな、流れ者を軸とした人情劇なのである。もともと手練れの暗殺者であったが、ひょんなことから組織を離脱、追われる立場となって、寂れた町へと身を寄せる。そこで平穏な生き方を初めて経験し、住人たちと親しみ、この地に根を下ろすことを考えはじめた矢先に、町が危機に見舞われる――こう言っては何だが、ありがちなストーリーと言っていい。東洋武術やVFXで構築された背景など、特異なヴィジュアルを持ち込んでいると言っても、それに基づくプロットのひねりはないので、結果として凡庸に映ってしまう。

 展開が有り体なものでも、細部が巧みに掘り下げられているなら、また別の魅力を醸すことも出来ただろうが、生憎その意味ではかなり物足りない。さすらう主人公に、彼と心を通わせるリン、謎めいた酔っ払いのロン(ジェフリー・ラッシュ)と、過去を背負うキャラクターはあるが、その大枠はみな定番と言えるものだ。会話や表情、展開との絡め方で深める工夫がないので、充分に魅力を発揮しているとはとうてい思えないのだ。

 ただ、基本はすべて定番であるからこその安心感、味わいがあることも事実だ。月並みではあるが、一見単なる酔っ払いに過ぎないロンが本当の姿を見せるくだりや、復讐心に燃えるリンのために男がお膳立てをした上で訪れるクライマックスにはニヤリとさせられる。

 そして、有り体ではあるものの、きっちりとツボを押さえた映像表現は、映画的な愉悦に満ちている。冒頭の、本邦における忍者ものの映画を思わせる空想的な戦闘に、天幕越しにシルエットだけで描かれる立ち回り、暗い廊下において銃撃の閃光のなかコマ送りのように繰り広げられる殺戮などは、こういうスタイルだからこそ正当化出来る魅力が横溢していて快い。仮にすべてがリアルに描き出された世界観のなかでこんなヴィジュアルが展開していたなら、ほとんど受け入れられなかっただろう。

 ストーリーは凡庸でも世界観は荒唐無稽、見ようによってはひどく稚拙な出来映えだ。しかし、こういう世界観でなければ成り立たない魅力というものを、本篇は自覚的に描き出そうとしている。そこに貫かれた意志に揺らぎはなく、だからこそ奇妙な力強さを感じさせるのだろう。傑作とは呼びがたいが、容易には切って捨てることの出来ない色気のある作品である。

関連作品:

グッド・バッド・ウィアード

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ

カウボーイ&エイリアン

ランゴ

シェーン

シン・シティ

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