『ピラニア リターンズ(3D・字幕)』

試写会場入口に貼られていたポスター、ついでに漫☆画太郎のイラストも撮った。

原題:“Piranha 3DD” / 監督:ジョン・ギャラガー / 脚本:パトリック・メルトン、マーカス・ダンスタン、ジョエル・ソワソン / キャラクター創造:ピーター・ゴールドフィンガー、ジョシュ・ストールバーグ / 製作:マーク・カントン、ジョエル・ソイソン、マーク・トベロフ / 製作総指揮:ボブ・ワインスタインハーヴェイ・ワインスタインチャコ・ヴァン・リューウェン、ベン・オーマンド、マシュー・スタイン / 共同製作:ピート・ゴールデンフィンガー、ジョシュ・ストルバーグ / 撮影監督:アレクサンドル・レーマン / プロダクション・デザイナー:エルマンノ・ディ・フェボ=オルシーニ / 編集:マーティン・ベンフェルド、デヴィン・C・ルシエ / 音楽:エリア・クミラル / 出演:ダニエル・パナベイカー、マット・ブッシュ、デヴィッド・ケックナー、クリス・ジルカ、カトリーナ・ボウデン、ミーガン・タンディ、ポール・ジェームス・ジョーダン、ゲイリー・ビューシイクリストファー・ロイド、デヴィッド・ハッセルホフ、ヴィング・レイムス / 配給:Broadmedia Studios

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間23分 / 日本語字幕:岡田壯平 / R18+

2012年7月14日日本公開

公式サイト : http://www.piranha-3d.jp/

ブロードメディア・スタジオ試写室にて初見(2012/07/06) ※試写会



[粗筋]

 大学院を卒業して郷里に戻ったマディ(ダニエル・パナベイカー)を待ち受けていたのは、変わり果てた光景だった。母が再婚した相手チェット(デヴィッド・ケックナー)は母の死後、自身が権利を持っているのをいいことに、プールを成人向けに改装してしまったのである。ストリッパー監視員に、ハシゴに取り付けられたカメラで女性のあられもない姿を鑑賞する趣向……大金を稼ぎ出すことに目の色を変えたチェットを、僅かだが株式の取得率で引けを取っているマディが制御する方法はなかった。

 その晩、ひとつの事件が起きる。マディの旧友アシュリー(ミーガン・タンディ)と、彼女が遊びを愉しもうとしていた男が行方をくらましたのだ。翌る朝、彼女の車が湖に沈んでいるのが発見されるが、ふたりの姿はない。マディの元カレであり、警官となったカイル(クリス・ジルカ)は、事故を起こしたことを恥じて姿を隠しているだけだ、と言うが、友人のシェルビー(カトリーナ・ボウデン)は心配で涙に暮れる。

 湖畔で泣きじゃくるシェルビーを慰めに行ったマディは、そこで異様な事態に遭遇した。水中から凶暴な魚たちがふたりに殺到し、船着き場を壊しながら襲いかかってきたのである。

 マディが思い出したのは、1年前にヴィクトリア湖に出没、一帯を文字通り血の海に変え、毎年夏には栄えていた周囲を廃墟に変えてしまった事件――遥か古代から地底湖に潜み、地上に戻る機会を窺っていた、殺人ピラニアの存在である。マディは、ヴィクトリア湖の悲劇の再来を恐れ、チェットにプールの改装オープンを取りやめるよう懇願するが、「妄想だ」とチェットは耳を貸さない。

 マディはカイルと、やはり昔からの友人であるビリー(マット・ブッシュ)とともに、死の町となったヴィクトリア湖へと赴き、ある人物と会見する……

[感想]

 アレクサンドル・アジャ監督による前作『ピラニア3D』は、久々に登場した、優れた“俗悪”ホラー映画であった。過剰な色気に度を超えたゴア描写、登場人物をとことん愚か者に描くことで、残酷描写に後ろめたさを凌駕するカタルシスを添えることに成功した。3D映画の第一人者ジェームズ・キャメロンには酷評されたというが(個人的には一種のエールだったのでは、と解釈しているが)、日本では一部のマニアに熱狂的に受け入れられた――かくいう私も、映像ソフトで入手してしまったくらいお気に入りの作品である。

 続篇となる本篇では、アジャ監督が離れ、代わりに『ザ・フィースト』シリーズのジョン・ギャラガーが監督に就いた。続篇もので監督がいきなり交代すると、クオリティや雰囲気の変化が心配されるところだが、個人的にはあまり気にしていなかった。何故かというと、『ザ・フィースト』自体がホラー映画やゴア映画のお約束を充分に踏まえつつ、観る側の期待に応えては裏切り、というのを繰り返して翻弄する、という趣向で彩られていたので、本質的に似たような精神を持つ本篇には相応しい人材だ、と感じていたのである。まして、脚本を担当するマーカス・ダンスタンとパトリック・メルトンは、このお約束を踏まえる才能が買われ、メイン・クリエイターが離れた『SAW』シリーズの脚本を完結まで手懸けている。恐らく、1作目で惹かれた観客が何を求めているのか、充分に理解した作品を繰り出して来るだろう、と思っていた。

 ……少なくとも、そういう意味では裏切られていない。むしろ、あまりに正しく期待に応えているからこそ、とんでもない代物になってしまった。

 前作では俗悪な描写を突き詰めながらも、サヴァイヴァル物として必要な描写、展開を巧みに踏まえており、ラストでいきなり卓袱台をひっくり返してくるものの、きちんと物語が決着した、という感覚は与えていた。しかし本篇は、ぶっちゃけストーリーが著しく欠如してしまっている。

 いちおう大まかな流れはあるが、前作のようにカタルシスを演出するために用いている、というよりは、随所に登場するユニークな、あるいは醜悪な趣向を正当化するために用いているに過ぎない。ここでこういうアイテムが出て来たのなら、あとでこんな感じで役立てられるだろう、というホラー映画に限らずフィクションに親しんだ人間ならついしてしまう先読みを巧みにひっくり返してくるが、ストーリーとして面白さ、見せ場を作る、というよりはそのシチュエーションのインパクトにのみ奉仕しているだけで、ストーリーにはほとんど貢献していないのだ。

 しかしその分、シーンそれぞれのインパクトはレベルアップしている。導入部分で犠牲になるのがひとりからふたりになり、事件の主な舞台にヤツらが近づいてきたくだりでは、まず血祭りに上げられる人々に、極端なくらい醜悪なシチュエーションを用意している。この暴走ぶりはプール開園のくだりで頂点に達し、殺戮が繰り広げられる前から“阿鼻叫喚”と呼びたくなるような狂騒ぶりだ。

 本篇の暴走ぶりが特に如実なのは、デヴィッド・ハッセルホフの起用とその使い方だ。かつて似たような題材、舞台の作品で成功した俳優を登場させるのは前作のリチャード・ドレイファスで実践済の趣向だが、本篇はほとんど悪ふざけのレベルまで掘り下げている。はっきり言って一切恐怖をもたらさないネタばかりなので、生真面目なひとは激昂するんじゃなかろうか。

 ……しかし、そもそも生真面目なひとは、前作の時点でアウトだろうし、あのポスターや予告篇を観た段階で観に来ることさえしないだろう。前作の面白さを理解しているひと、はなから突き抜けた“俗悪さ”に期待しているひとが観に来るのだろう。だから本篇は、正しく狙いを押さえている。

 問題は、ここまで求めているか否か、だ。デヴィッド・ハッセルホフを巡るネタもそうだが、最終的に本篇の狂気はピラニア云々とは関係のないところに突っ走ってしまっている。前作にもいたとはいえ、あまりにもピラニアとは関係のない惨劇が多く、笑うにしても失笑する場面がほとんどだ。そして最後に提示される“オチ”と、そのあとのエンドロールとともに披露される一連の映像などは最たるものだろう。

 ピラニアを軸とする猟奇的描写は全般に前作を反復しているだけだし、ストーリーとしての構築は緩い。そういう部分まで含めた前作の完成度を評価していると、本篇はレベルダウンした印象を受けるだろう。しかし同時に、こういう言い方には、誰しも頷いてくれるはずだ。

 アホさは、5割増しである。

 ピラニアが充分に絡んでいるわけではないが、グロテスクな描写はふんだんだし、男なら実在して欲しいと願ってもしょーがないアダルト・プールを筆頭にエロスも充実している。ストーリーの上でのリンクは緩いが、それぞれのインパクトもある。そのすべてが、前作よりも極端になっている。その暴走ぶりが許せる寛容さ、悪趣味さがあるようなひとなら、本篇は滅多に味わえないスイーツになるはずだ――見た目も味も、間違いなくゲテモノではあるが。

関連作品:

ピラニア3D

ザ・フィースト

フィースト2/怪物復活

フィースト3/最終決戦

SAW4

SAW5

SAW6

SAW ザ・ファイナル 3D

バック・トゥ・ザ・フューチャー

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