善良と狂気のハシゴ。

 昨年12月からず~っと観たかった映画があります。
 上映館は少なく、上映会も少ない。それでも、コアな層の人気を集めているようで、1日1回で2ヶ月生き延びてきた。週によって時間帯が変わっているので、どこかで私に都合のいい時間に移ってくるかも、と期待しつつ監視していたのですが――とうとう、今日で終映となる。しかも、最終週も20時40分スタート。
 そうでなくても先週末の松江旅行のため、透析のスケジュールがちょっとギリギリになっていたので、ちょっと悩んだのですが、「やっぱり観たい」という気持ちが消せず、3日前から透析のバランスを調整、水曜日でドライウェイトギリギリまで引いた上で出かけることにしました。幸い……と言っていいのか、水曜日に透析の管理をしてもらっているクリニックへの通院があって、診察の結果、少しドライウェイトを上げることになり、昨晩のうちに頑張って引き切ることが出来た。
 せっかくレイトショーも同然の枠で観るのなら、早めに現地入りして、もう1本押さえておきたい。時間的に、この2本のあいだに夕食を摂ることになるので、適切な空き時間を設けられる作品を探し、お目当て共々ネットにてチケットを確保しました。
 というわけで本日は夕方よりお出かけ。松江旅行のときより気温は高い、とは言え、あんまり夜遅くバイクを走らせたくないし、ハシゴすると駐車料金も場所によってだいぶ嵩張ってしまう。故に電車移動です。
 まず向かったのは今年初の新宿ピカデリー。鑑賞したのは、高い評価を得た岩本ナオの少女漫画を原作に、対立する2つの国を揺さぶる、一組の男女の“嘘”を軸としたファンタジー・ロマンス金の国 水の国』(Warner Bros.配給)
 正直、期待していたより遥かに良かった。何せ“ついで”と言ったくらいで、そもそも決して優先順位は高くなかったのですが、観られてラッキーでした。
 まさにロマンスそのものの要素をちりばめながらも、主人公ふたりは決して恵まれた身分ではない。それでも愛すべき互いの人柄が導くように、思いがけずふたつの国家の命運を握らされる。まさしくロマンス。
 いわゆるファンタジーの王道を少し外し、中東をモチーフとしたエキゾチックな背景のなかで繰り広げられる現実世界にも通じる政治、国交の駆け引きは生々しくも、キャラクター、特にメインふたりのユーモラスで愛らしい言動のお陰で最後までトーンは明るくキラキラしている。
 個人的には、一時の少女漫画の煌めきを正しく受け継ぎ、上質にした傑作だと思う。それにしても賀来賢人、声の芝居も上手いな! 一瞬、本職がやってるのかと思ったわ!
 鑑賞後は最近、新宿で食事をするときの第一候補である麺屋海神へ。この時間帯に訪れるのは初めてでしたが、ネットの情報ではわりと入りやすい頃合い……とあったんですが、いちおうすんなり座れたものの、ギリギリでしたし、そのあとも人が途切れなかった。
 食事を済ませると、道を少し戻り、新宿武蔵野館へ。鑑賞した本日のもともとのお目当ては、『スター・ウォーズ』初期三部作など数多くの映画で特殊効果を手がけたフィル・ティペットが長い時間をかけて制作したストップモーション・アニメ、猟奇的ヴィジュアルで彩られた悪夢の空想譚マッドゴッド』(LONGRIDE配給)
 ……なんだこの世界観は。無数にちりばめられたグロテスクなモチーフ、果てしなく繰り返す異形の、そして空虚な食物連鎖。すべてが絶望的な描写なのに、あまりにも滑稽で陶酔すら覚える、不思議な作品空間。
 なにせ台詞は皆無なので、映像から読み解くしかないですから、漫然と観ていると退屈するけれど、深読みするとそこに諷刺や社会批判さえ潜んでいるようにも思える。或いは、現代的な悪夢のかたちで、無慈悲な神話を作り出そうとしたようにも思える。しかし、どう捉えるにせよ、個人の脳内で生み出された幻想をそのまんま突きつけられる衝撃に満ちた異形の作品であることは確か。やっぱり観ておいて良かった。
 解釈や、制作の背景を知るために、出来ればパンフレットは欲しかったのですが、当然のように完売……先月上旬に来たときには辛うじて再版していた覚えがある。あのとき買っておけば良かった……基本的に観た映画、確実に観る作品のパンフレットだけ買う方針だったため、あの時点では躊躇してしまったのです……。

 しかしこの2本立ては、クオリティは満足だったけれど、組み合わせとしてはちょっと間違えてた気がします。1本目の快さを、2本目でぐっちゃぐっちゃにされて、いま感情的に混乱しております。逆にすれば良かった……と言っても、そもそも『マッドゴッド』が20時40分開始の回のみだったからこうなったので、如何ともし難かった……。

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