『最強のふたり』

新宿武蔵野館、。

原題:“Intouchables” / 監督&脚本:エリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ / 製作:ニコラ・デュヴァル=アダソフスキ、ヤン・ゼヌー、ローラン・ゼトゥンヌ / 撮影監督:マチュー・ヴァドピエ / 編集:ドリアン・リガール=アンスー / 音楽:ルドヴィコ・エイナウディ / 出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、アンヌ・ル・ニ、オドレイ・フルーロ、クロティルド・モレ、アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ、トマ・ソリヴェレ、シリル・マンディ、ドロテ・ブリエール・メリット / 配給:GAGA

2011年フランス作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:加藤リツ子

2012年9月1日日本公開

公式サイト : http://saikyo-2.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2012/09/03)



[粗筋]

 スラム化した公団住宅に実家のあるドリス(オマール・シー)がその面接を受けたのは、失業保険を受給するためだった。就職活動をした、という経歴があれば、申請は受理される。

 仕事の内容は、パリに暮らす大富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)の介護だった。事故で首から下が麻痺し、日常生活にも誰かしらの介護が必要な彼に付き添うのが仕事であったが、貧困層のドリスにそんな技能があるはずもなく、合格する可能性などはなから考慮に入れていなかった。

 だが、驚いたことに、フィリップはドリスを仮採用した。働けるか試してみたあとでも、失業保険の申請は出来るだろう、というフィリップの言葉にくわえ、強盗事件を起こして半年収監され、実家から追い出されたばかりのドリスには、住まいが提供される条件は魅力的だった。

 こうして、ドリスの介護人としての生活が始まった。当然のように、最初は戸惑うことが多いドリスだったが、乱暴な言葉を用いながらも意外な気遣いを見せ、それでいてフィリップの障害をさほど気に留めない振るまいが、フィリップのみならず、イヴォンヌ(アンヌ・ル・ニ)たち使用人達にも好感を与えていく。

 それまでの介護人はみな、フィリップの狷介さに耐えられず、1週間程度で逃げ出してしまうのがオチだったが、ドリスの適応力の高さに、意外なほどフィリップと馬が合ったことが奏功して、ドリスは晴れて正式採用となった……

[感想]

 この物語は実話に基づいている――というが、正直なところ、それはあまり問題ではない、と感じた。

 幾つも美点があるが、何よりも注目すべきは、障害者に対してネガティヴな視線を向けていないことだろう。そもそも大富豪である、という時点でフィリップはかなり恵まれた立場だが、しかしそれ故に却ってあからさまな妬み、嫉みの対象になりやすい。皮肉屋の性格は生来のものと想像出来るが、それが余計に、介護人が居つかない、という困難に繋がっていたと思われる。恵まれている、とは言い条、彼の姿は障害を持つ人々の難しい立ち位置を象徴している。

 そういう彼のもとに、ドリスという人物が引き合わされたのが、この物語の唯一にして最大の奇跡と言える。接してきた文化はまるで違えど、フィリップに似た皮肉屋である。それでいて悩みを背負い込まない陽気な振る舞いは、フィリップの狷介さとうまく噛み合い、この孤独な大富豪の持つ陽性の部分を引き出したわけだが、それもこれも、ドリスが障害というものに、ほとんど平常心で接しているからこそだ。

 作中で、友人から「何故スラム街出身の怪しい男を雇う?」と問われたフィリップ自身が口にしているが、ドリスは序盤、うっかりフィリップが身動き出来ないということを忘れ、呼び出し音の鳴る携帯電話をそのままフィリップに突き出す、という場面がある。一見、無神経な振る舞いのようにも思えるが、実はこれがいちばん象徴的だ。ドリスは相手がどんな状態であるのかを忘れるほど、自然に接することが出来る。そして他方では、相手の人柄を理解すれば、それに応じて自然に振る舞うことも出来る。

 モデルとなったドリスがどんな人柄であるのか、は関係ない。こういう人物像が、時として大胆にひとの痛いところに土足で踏み込みながら、それが心地好いユーモアとして昇華されている。端緒となる発想に、最高のキャラクターを当て嵌めたからこそ、本篇はこんなにも痛快で、感動さえ誘うのだ。

 物語そのものに大きな波乱はない。終盤手前での変化が納得出来ない、というひともいるかも知れないが、あれはむしろ、フィリップとドリスが互いを深く理解し合ったからこその結論であり、それ故に観ていて、切なくもあるが、しこりを覚えることもない。そこからあの、手捌きが概ね読めても胸に沁みる、優れたラストに繋がっていくのだから、シンプルながらも非常に巧みな構成だ。

 障害者に貧困、というネガティヴで繊細な題材を、大胆だが気配りを損なわずに扱う。ふたりの関係性のみならず、周囲の人々との関わりにもユーモアを盛り込み、手触りは最後まで優しく暖かい。きっとほとんどの人がいい気分で劇場をあとにすることが出来る、こんな映画は滅多にない――実話であるか否か、どの程度事実に添っているか、ということがもう判断基準にならないほど、純粋に“痛快”な作品である。

関連作品:

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