監督:本広克行 / 脚本:君塚良一 / 製作:亀山千広、永田芳男 / プロデューサー:立松嗣章、上原寿一、安藤親広、村上公一 / ラインプロデューサー:巣立恭平 / 協力プロデューサー:高井一郎 / 撮影監督:川越一成 / 照明:加瀬弘行 / 美術監督:梅田正則 / デザイン:あべ木陽次 / VFXスーパーヴァイザー:石井教雄 / 編集:田口拓也 / 録音:加来昭彦 / 音楽:菅野祐悟 / シリーズ音楽:松本晃彦 / 主題歌:織田裕二『Love Somebody CINEMA Version IV』 / 出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、ユースケ・サンタマリア、伊藤淳史、内田有紀、甲本雅裕、遠山俊也、川野直輝、滝藤賢一、小泉孝太郎、北村総一朗、小野武彦、斉藤暁、佐戸井けん太、小林すすむ、津嘉山正種、大和田伸也、大杉漣、真矢みき、筧利夫、水野美紀、小栗旬、香取慎吾 / 制作:ROBOT / 配給:東宝
2012年日本作品 / 上映時間:2時間6分
2012年9月7日日本公開
公式サイト : http://www.odoru.com/
TOHOシネマズスカラ座にて初見(2012/09/07)
[粗筋]
潜入捜査を終えたばかりの青島俊作巡査部長(織田裕二)たち湾岸署刑事課強行犯係は、すぐさま拉致事件の捜査に駆り出された。折しもイベントが開催されている科学未来館で、衆人環視のなか、男性が攫われたのだという。間もなく事件は誘拐から殺人に変わった――目撃証言と一致する男性の射殺体が発見されたのだ。
捜査本部が設けられると、相変わらず所轄は事務処理にこき使われるだけだが、もはや慣れたものだった。就任以来初となる捜査本部の設立に意気込む真下正義署長(ユースケ・サンタマリア)以下、多忙を極める湾岸署だが、ここで予想外のトラブルが発生する。中国から研修で赴任し、強行犯係に落ち着いた王明才刑事(滝藤賢一)が、未だ日本語をよく理解していないために、お茶と間違ってビールを発注してしまったのだ。青島以下強行犯係は、捜査や事務仕事に忙殺されながら、この失態をどう補うかに頭を悩ませることとなる。
同じ頃、警視庁の上層部にも不穏な空気が流れていた。被害者の身体から摘出された弾丸が、6年前に発生した誘拐殺人事件で使用され、警察内の保管庫に収納されていたはずの銃から発砲されたことが判明する。それはつまり、警察官による犯行であることを示唆していた。
警視庁に築かれた対策本部は室井慎次長官官房審議官(柳葉敏郎)に委ねられ、現場の指揮は引き続き鳥飼誠一捜査一課管理官(小栗旬)が行うことになった。間もなく現れた、隠蔽工作のスペシャリストと謳われる横山邦一執行官(大杉漣)は、犯人が捜査本部にいる久瀬智則警部(香取慎吾)であることを指摘、公安に監視を指示する。
そして、上層部の暗躍が本格的に始まった。その謀略に巻き込まれつつあることを、青島達はまだ知らない……
[感想]
人気を博したシリーズものも、続けていくにつれて色々なものを背負い込んで歪になる。この『踊る大捜査線』シリーズなど典型的な例だろう。
発端となるテレビシリーズは、その後の刑事ドラマの様式を一変させるエポック・メイキングとなり、ファンの期待を一身に背負って製作された劇場版は立て続けに大ヒットを飛ばす。細部にまでネタを仕込んだ作りがリピーターを生み出し、長い支持に繋がった。
だがその一方で、続けるにつれて、シリーズ独自の世界観や、あまりに膨れあがった人物像に振り回されて、物語としては一種、現実の警察という土台に築いたファンタジーのような様相を呈するようになってしまった。組織の昇進制度の奇妙さや硬直ぶりは、現実をモデルにしているとしても過剰すぎるし、事件の対応も、どんどん誇張が激しくなっていった。もともと、推理小説的な謎解きの興趣に主眼を置いていないのだから仕方のないことだが、事件の背景に説得力がない点も、作品を追うごとに著しくなっていった感がある。脚本家が異なる『交渉人真下正義』がその意味ではいちばん完成度が高く、ほかはあまりにシリーズものとしての面白さを追い求めるあまり、謎解き、ひいてはストーリー面では現実離れした歪さを強めてしまった感がある。2010年、スピンオフを除けば7年ぶりに製作された第3作など、そうしたシリーズ独自の魅力と同時に、孕んでいた欠点を露呈していた。
前作から2年、“完結”と銘打って発表された本篇もまた、そういう意味ではこのシリーズならではの欠点を払拭出来ていない。だが、恐らく前作までに、そうした理由で不満を抱いていた人でも、本篇には唸らされるはずだ。
決して精緻な伏線や行き届いた配慮で構築されているわけではないが、本篇の謎解きはなかなかに魅力的だ。事前に様々なメディアで、SMAPの香取慎吾が“犯人役”として起用されたことは公表されており、その意味では意外性がない、とも言えるが、しかし何故、という部分はなかなか明かされない。警察内部の動向にも意味深長な描写が無数にあって、終始牽引力を保っている。勘のいい人なら――というより、ある程度フィクションの見方を心得ている人なら、恐らくかなり早い段階で、背後で蠢く者に気づくはずだが、だからと言って退屈はしないだろう。
しかし、この背景の本当のポイントは、それがすべて、シリーズを見事に総括していることなのだ。当初から描かれた、現場の判断が上層部の意志によって歪められてしまうこと、正義や市民の安全よりもしばしば規律が優先される矛盾、そしてこのシリーズがのちの刑事ドラマに最も大きな影響を齎した、警察もまた一般企業と同じような、しがらみで形作られた組織にすぎない、という表現。こうしたものが醸成するドラマを、本篇の事件、物語はしっかりと決着させている。
実のところ本篇は、冒頭から態度をはっきりさせている。このシリーズでは幾度も描かれた、湾岸署刑事課による、本筋とは直接繋がらない潜入捜査の模様から幕を開けるが、そこでのシチュエーション、会話が既に、完結篇であることを匂わせている。仮に本篇が“THE FINAL”と冠されていることに気づいていなかったとしても、このオープニングだけで直感するだろう。
シリーズを何度も繰り返し鑑賞しているような人には、他にも多くの発見があるはずだ。主要登場人物たちの動向もさることながら、旧作でちらっと登場した人物が思わぬところで再登場しているし、何よりも青島や室井、すみれといった、テレビシリーズの最初から存在した面々の表情、行動がいちいち感慨深い。特に終盤20分ほどの青島の振る舞い、仕草など、ファンにとってはすべてが涙腺を刺激されるに違いない。
欠点は無数にある。こだわりが過剰すぎて、やもするとシリアスな場面をぶち壊しにしかねない趣向もある(クライマックスの舞台などがその最たるものだ)し、あそこでCGを用いてしまったのはかなり勿体ない。様式美とは言い条、相変わらずあまりにも捜査員を自由にしすぎている室井の指揮は、絵空事に思えてしまう。
だが、そういうところも今さら封印することなくさらけ出し、テレビシリーズの当初から引きずってきた主題にケリをつけた本篇は、見事に有終の美を飾った、と言っていい。仮に前言を翻し、何らかの形で復活したとしても、私含め従来からのファンは「しょうがないな」と苦笑いして付き合うだろうが、出来ればこれで決着として欲しい。せっかくの清々しいフィナーレを、妙な欲で掻き乱して欲しくない。
というわけで、私は本篇の出来にほとんど不満を持っていないが、正直、残念なのは、本篇の劇場公開に先駆けてテレビ放映された、最後のスペシャル・ドラマである。
中国からやって来た王刑事の結婚話を軸とした、本篇の前日譚にあたる作品だが、キャラクターを一同に集めた、という以外にあまり魅力はない。王刑事の結婚に関するトラブルや、クライマックスの展開にあまりに無理がありすぎるし、細かなエピソードを繋ぎあわせただけの作りは、あちこち笑えはするが、全体の印象が散漫すぎる。映画公開前の顔見世興行めいた位置づけだったにしても、不満の多い仕上がりだ。
だが、あの作品の最大の問題は、本篇の出来事、主題についての鮮やかな扱いを、壊しかねない展開、描写があることだ。本篇における最大の立役者の振る舞いは、実のところスペシャル・ドラマの時点から布石が用意されていた、と考えられるのだが、しかし物語の内容が、その布石を台無しにしている。
もっとも、これは私の解釈に添った上での話なので、そこまで深く考えなければ、ファンとして楽しめる要素がちりばめられていたことも間違いない。いずれにせよ、もし本篇のあとであのスペシャル・ドラマを鑑賞するつもりなら、あまり堅苦しく考えず、気軽に観ることをお薦めする。翻って、あの出来映えから、本篇に対して不安を抱いたような人は、あちらをいったん忘れて本篇に接したほうがいい。
関連作品:
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』
『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』
『交渉人真下正義』
『容疑者室井慎次』
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