『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔後編〕 永遠の物語』

TOHOシネマズ渋谷、スクリーン6内の案内板に掲示されたチラシ。

原作:Magica Quartet / 総監督:新房昭之 / 監督:宮本幸裕 / 脚本:虚淵玄ニトロプラス) / 劇場版構成:新房昭之、東富耶子 / 構成協力&編集:松原理恵 / キャラクター原案:蒼樹うめ / キャラクターデザイン:岸田隆宏 / キャラクターデザイン&総作画監督谷口淳一郎 / 総作画監督:山村洋貴 / 異空間設計:劇団イヌカレー / 副監督:寺尾洋之 / 演出:宮本幸裕、八瀬裕樹 / 音楽:梶浦由記 / 声の出演:悠木碧斎藤千和喜多村英梨水橋かおり野中藍加藤英美里新谷良子後藤邑子岩永哲哉岩男潤子吉田聖子 / 配給:Aniplex

2012年日本作品 / 上映時間:1時間49分

2012年10月13日日本公開

公式サイト : http://www.madoka-magica.com/

TOHOシネマズ渋谷にて初見(2012/10/18)



[粗筋]

 魔法少女の因果が、鹿目まどか(悠木碧)から美樹さやか(喜多村英梨)を奪った。キュゥべえ(加藤英美里)が語る真実の重さをまどかは受け止めきれず、懊悩する。

 そんな彼女に手を差し伸べたのは、意外にも、さやかと命のやり取りまでしたはずの、もうひとりの魔法少女佐倉杏子(野中藍)だった。まだ、さやかを救う手だてはあるかも知れない。そのためには、きっとまどかが必要だ、と。

 曙光、と呼ぶにもおこがましい儚い光だったが、まどかは縋りついた。どこかに残っているはずのさやかの心に呼びかけるため、いつしか見慣れてしまった戦いの舞台へ、杏子とともに赴く。

 だが、暁美ほむら(斎藤千和)は、その努力が無駄になることを誰よりもよく知っていた。キュゥべえの認識をも超えた領域で戦い続けていたほむらだけは、よく解っていたのである……

[感想]

 2011年の本邦アニメ界の話題を攫ったテレビシリーズを再編集、随所に修正を施して前後編の劇場版としたものだが、内容的にはシリーズと変化はないようだ。私はこの劇場版で初めてストーリー全体に触れた形だが、熱狂的に受け入れられたのも納得がいく、力強さのある作品である。

 放送時にはサプライズ演出が話題となっていたし、その締め括りの壮大さも魅力だが、実のところこうしたモチーフ自体にはそれほど目新しさは感じない。各所のサプライズは、単純明快に受け止められていた“魔法少女”というものの背景を掘り下げていけば自然と辿り着くものだし、シリーズの根幹を為す暁美ほむらの辿ってきた時間、それを受けたまどかの結論にしても、その大枠はファンタジー、SF作品で幾度も繰り返されてきたもので、趣向としては枯れている。

 ただ、それをこうしてアニメーションとして、かなりまとまった形で提示した前例というのは恐らくあまりない。その意味で間違いなく着眼であるし、放送時に話題を攫ったことも含め、手際は見事だった。シリーズという形を離れ、まとまった形で鑑賞出来る劇場版の体裁に落とし込んでも、その巧さは光っている。

 また、SF的な発想の大きさ以上に、その根底にはきちんと思春期の少女たちを中心としているからこその題材が織りこまれていることも、本篇の魅力に繋がっている。端緒であるまどかとほむらの関係もそうだが、劇場版の前編において重要な役割を果たしたさやかの恋愛模様、先輩格である巴マミ(水橋かおり)の“挫折”、ライヴァル的な位置づけで登場した杏子の背景と心情の変化、いずれも青春ものの定番の要素を巧みにひねりつつも、堅実に盛り込んでいることが、作品の強度、広がりを保証した。とりわけ、ほむらの“過去”の描写は、本篇に描かれない無数の出来事を観客にイメージさせ、物語の枠の外側を想像させる面白さをうまく取り込んでいる。

 前編同様に、唐突な場面移動、異空間のモチーフとは関係のないイメージの推移、また少々台詞に少し溺れすぎているような印象を受けることが気になるのだが、そういうところまで含め、本篇はライトノベルや、脚本家である虚淵玄がもともと活躍していたノベルゲームで好まれていたモチーフ、表現を総括したような作りとなっているのが興味深い。パンフレットなどで制作者が語るところによると、この作品は私のように“劇場版ならでは”というものを求める人間よりは、テレビシリーズから愉しんでいたファンを対象に考え、ひとまとまりの作品として体裁を整えながらも、ファンが喜ぶことを優先して構成、ブラッシュアップを行っていたようだが、だからこそ場面転換などの大仰さが際立つ一方で、モチーフ選びの本質が鮮明になっている、とも考えられる。

 あくまで制作者の目がファンに向いているのは確かだろうが、これほど話題になったあとで、その理由を探るために鑑賞するなら、テレビシリーズよりもこの劇場版のほうが最適だ、と後編まで鑑賞して、改めて確信する。更に掘り下げていくなら、そのうえで表現の比較のためにテレビシリーズを観るのもいいだろうが、このシリーズの発想と表現は、実は劇場版としてまとめられたほうが明確になっているように思うのだ。

 本篇のラストには、2013年に公開予定の、劇場版完全オリジナルとなる『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』の予告が添えられている。大きな終焉を迎えたかに見える物語の、更にその先を描くものとなっているようだ――なまじ、イメージの総括がうまくいっているだけに、蛇足にならないか、がいささか不安なところでもあるが、物語の熱気を膨らませる手腕は確かに感じられるので、自分なりの解釈に囚われてしまうような人でもない限り、恐らく裏切られる結果にはならないだろう、と信じたい。

 何にせよ、テレビシリーズには乗り遅れたが、興味は持っていた、という人は、この劇場版前後編に接しておくことをお薦めする。実物を見るまでは断言しきれないが、〔新編〕に触れる前に、作品世界をよく消化しておいたほうがいいように思えるので。

関連作品:

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔前編〕 始まりの物語

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