原作:木原浩勝&中山市朗『新耳袋』(角川文庫・刊) / 監督:井口昇 / 脚本:継田淳 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ(BS-TBS)、山口幸彦(KING RECORDS) / 撮影監督:中村夏菜 / 照明:渡辺大介 / 美術:松本良二 / 特殊造形:石野大雅 / 衣裳:沢柳陽子、澤田枝里 / ヘアメイク:いしいのり子 / 編集&CG:新妻宏昭 / 録音:中村雅光 / 音響効果:小山秀雄 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:スマイレージ『君は自転車 私は電車で帰宅』(UP-FRONT WORKS) / 出演:スマイレージ(和田彩花、福田花音、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実、中西香菜)、小山田サユリ、井上翔、戸田昌宏、和泉宗兵、いしのようこ、龍坐、黄田明子、播田美保 / 配給:KING RECORDS / 配給&宣伝:Astaire
2012年日本作品 / 上映時間:1時間32分
2012年8月11日日本公開
2012年12月5日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:赤い人編(amazon)、和人形編(amazon)、BOX SET(amazon)|Blu-ray Disc:赤い人編(amazon)、和人形編(amazon)、BOX SET(amazon)]
公式サイト : http://shinmimi-igyou.jp/
シアターN渋谷にて初見(2012/09/06)
[粗筋]
「おさよ」
アイドルとしてのデビューが決まったシオリ(和田彩花)にとって、初めての写真集の撮影。だが、緊張しすぎていまひとつうまく行かない。マネージャー(小山田サユリ)は彼女の優しすぎる性格が災いしている、ときつく叱る。落ちこみながらも、宿で勉強をしていたシオリを、奇妙な出来事が襲う……
「赤いひと」
ハルカ(勝田里奈)が引っ越したばかりの新居に男友達(井上翔)を連れてくるという。姉のアイリ(竹内朱莉)はケーキを作って待っていたが、そこへチャイムの音が鳴り響く。玄関に赴くと、相手はハルカだと名乗るが、さっき駅前にいたばかりの彼女が着くはずもない。ドアスコープを覗きこんでも、誰もいなかった。怪訝に思いながら踵を返すと、ふたたびチャイムが鳴りはじめた……
「部屋替え」
受験を控えたモモカ(福田花音)に、母(いしのようこ)が部屋替えを提案した。いまの部屋では手狭だろうし、集中して勉強するためにもそのほうがいいのではないか。部屋が広くなったうえ、親戚からもらった三面鏡まで譲られ、モモカは小躍りする。だが、部屋を移ったその晩、三面鏡から奇妙な音が聞こえてきた……
「和人形」
シオリのアイドルデビューを、仲のいい女の子たちで祝うことになった。ミサキ(田村芽美)の手引で、マナ(中村夏菜)、ハルカ、アイリ、モモカたちとともに赴いたのは、かつて遊び半分で侵入した廃アパート。久々の探険気分にはしゃぐ6人たちだったが、焼け焦げた箪笥の中に和人形を見つけたときから、彼女たちの恐怖が始まった……
[感想]
井口昇は、日本よりも先に海外で評価された映画監督と言われている。初期からその作風に注目するひとはいたが、実際『片腕マシンガール』や最近の『デッド寿司』はほとんど逆輸入のような感覚で、海外で評価されてから日本での公開が決まったりしている。
しかしそれと同時に、井口監督は清水崇や豊島圭介といった面々と同様、『怪談新耳袋』に携わってきた“新耳監督”でもある。故に、その名を高めてから、このシリーズに復帰したことは決して不自然ではないし、そのタッチも馴染んでいる。
……とは言い条、TVのショート・ムービーであった頃の『怪談新耳袋』シリーズにおいても、間違いなく異彩を放っていた井口監督のこと、その作風を完成させたのちに手懸けた本篇でも、風変わりな味わいは健在だ。
基本的な“怪談”の雰囲気はきっちりとまつわらせつつも、いざ怪奇が露わになってからの展開、表現はかなりユニークなものになっている。この趣向は如何にもカルト的に支持される井口監督らしい、と感じる。やろうとしても、ここまで振り切れるのはなかなか楽ではない。
そして、そのうえで“アイドル映画である”という焦点を見誤っていないのが見事だ。ヒロインとなったスマイレージの売りである健康的な脚線美をこれでもか、とばかりに見せつけ、キュートさを強調はしても、決して汚しすぎない。振る舞いに負の部分が窺えるキャラクターもいるが、見た目を汚すことまではしていない。アイドルたちを愛でる映画、としても役割をはたしている。
はっきり言って、芝居は上手くない。如何にもアイドル的と言おうか、華やかだが作っているのがありありで、ホラーに求められる切迫感には乏しい。しかし、面白いことに、本篇のちょっと頭のおかしい、マッドな雰囲気のなかでは、多少大袈裟で不自然なほうが馴染んでいるようだ。
従来の『怪談新耳袋』シリーズで井口監督が示した作風を乱すことなく、しかしヒロインである少女たちの愛らしさ、瑞々しい魅力を盛り込む。もっとシリアスで、地味だがじんわりと染み通るような、怪談らしい怪談映画を、などと欲しているとだいぶんイメージから遠いのだが、この枠組みのなかに女の子たちの魅力を嵌め込む“アイドルによる怪談映画”としてはほぼ正解と言っていいのではなかろうか。たぶん、井口昇以外の監督がやったら、こうは決まらない。
……念のために言い添えておくと、本篇の原作は、著者ふたりが収集した、様々な人々の体験談に基づいている。だが、本篇に限らず、この『怪談新耳袋』のシリーズは、原作の描写を土台としつつ大胆なアレンジを施し、フィクションならでは、映像ならではの恐怖や、奇妙なシチュエーションを仕立てている。
つまり、原作自体は、本篇で語られているような、一歩間違うと笑いに繋がるような内容でないものがほとんどである。間違っても、こんな変な話ばかりなのか、と誤解されぬように願いたい。
……まあ、もっとも、『部屋替え』のなかで語られている家族の行動は、原作からそんなに逸脱していなかったりするのだが。
関連作品:
『怪談新耳袋 怪奇』
『もうひとりいる』
『伝染歌』
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