原題:“七剣” / 原作:リャン・ユーシェン『七剣下天山』 / 監督:ツイ・ハーク / アクション監督:ラウ・カーリョン / 脚本:ツイ・ハーク、チェン・チーシン、チュン・ティンナム / 製作:リー・ジョーイック、マ・ジョンジュン、パン・ジージョン、ツイ・ハーク / 製作総指揮:レイモンド・ウォン、ホン・ボンチュル、チャン・ヨン / 撮影監督:キョン・クォッマン / 美術:エディ・ウォン / 編集:アンジー・ラム / 衣装:プーン・ウィンヤン / 武術指導:トン・ワイ、ホン・ヤンヤン / 音楽:川井憲次 / 出演:レオン・ライ、ドニー・イェン、チャーリー・ヤン、スン・ホンレイ、ルー・イー、キム・ソヨン、ラウ・カーリョン、チャン・チンチュー、ダンカン・チョウ、タイ・リーウー、パイ・ピョウ、チー・クァンチュン、ホアン・ペン、マイケル・ウォン、マー・ジンウー / 配給:Warner Bros. / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
2005年香港作品 / 上映時間:2時間34分 / 日本語字幕:?
2005年10月1日日本公開
2006年2月3日映像ソフト日本盤発売/2011年12月21日同最新盤発売 [DVD Video初回限定盤:amazon|DVD Video最新廉価版:amazon]
公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/sevenswords/
DVD Videoにて初見(2013/02/11)
[粗筋]
1660年代の中国。明朝を倒し、立てられた清王朝は、叛乱分子制圧のために、“禁武令”を発する。武術を学ぶ者をすべて処刑することで、抵抗を抑えようという目論見である。
これに乗じたのが、旧明朝の軍人であった風火連城(スン・ホンレイ)である。手練れの部下を引き連れて各地に散った明朝の残党を襲撃、掠奪を行い、朝廷から討伐の報酬を受け取って私腹を肥やした。やがて充分に力を蓄えた風火連城は、武術に秀でた集落・武荘への襲撃を計画する。
明朝時代に処刑人として数多くの武人を討ってきた傳青主(ラウ・カーリョン)は風火連城の動きを知ると、かつての蛮行の罪滅ぼしにと、武荘へと赴き、警告を発する。だが、かつて傳によって苦しめられた村民たちは彼の言葉を信じず、馬小屋に縛りつけた。
風火連城から逃げる途中の傳によって命を救われた元英(チャーリー・ヤン)は、傳を救うべく、頭領の娘・郁芳(チャン・チンチュー)の手引により、志邦(ルー・イー)とともに村を抜け出す。しかし傳は、村を救うために、天山に住まう晦明大師(マー・ジンウー)を訪ねて協力を仰ぐように言い、反発する志邦をよそに、元英は馬首を凍てつく山嶺へと向けさせた。
吹雪に見舞われ息も絶え絶えになりながらようやく辿り着いた傳たちを迎えた大師は、懇願を聞き入れ、自らの指導する弟子のうち四名――楚昭南(ドニー・イェン)、ヤン・ユンツォン(レオン・ライ)、穆郎(ダンカン・チョウ)、辛龍子(タイ・リーウー)と、自らが鍛えた七振りの名剣を託す。
その頃武荘では、傳を放ったかどで郁芳が裁かれようとしていたが、その矢先に風火連城の襲撃を受け、窮地に追い込まれていた。しかしそこへ、自らも剣を与えられた傳たちを合わせた“七剣士”が到着、辛うじて撃退に成功する。
いったんは退却した風火連城だが、あの男がこのまま引き下がることはあり得ない。改めて武荘に迎え入れられた傳は、他の剣士たちと共に、対策を講じる――
[感想]
本篇が製作されたのはちょうど、美しい映像と文芸的な企みのあるプロット、そして現実離れしたワイヤー・アクションで世界中を魅せた『HERO 英雄』や『LOVERS』がヒットしていた頃だった。80年代後半に登場し、“ワンチャイ”シリーズのヒットで“香港のスピルバーグ”とまで呼ばれたツイ・ハーク監督が、こうした作品群に触発されて撮った、かのような売り方をされていたが、しかし内容的には“ワンチャイ”シリーズとスタイルはさほど変わっていないように思える。圧倒的な敵に立ち向かう人々、その中で繰り広げられる愛憎と裏切り、そして極めて曲芸的なアクション描写。
だから、往年のツイ・ハーク作品に馴染んでいればさほど違和感は抱かないかも知れないが、しかしなまじ並べて鑑賞されてしまうと、かつての香港映画が備えていた、“娯楽としては優れているが雑然としていて整合性に乏しい”という欠点がどうしても鮮明になってしまう。本篇の場合、題名に掲げるほど重要な“七剣士”が、うち4名までは刀匠の弟子という位置づけであるものの、残り3名が助けを求めに来た面々である、という点や、中盤以降に繰り広げられる複雑な恋愛関係、そして裏切り者の存在が招く疑心暗鬼の構図にどうしても不自然さがつきまとい、せっかくの華麗なアクションにあまり目が行かなくなってしまっている。
もっとまずいのが、タイトルにまで掲げた“七剣”の個性が作中、ほとんど活かされていない、という点だ。元英に与えられる天瀑剣の異常なまでの扱いづらさが彼女のドラマと呼応していることが唯一の例外で、他のキャラクターはドラマと絡まないばかりか、アクション・シーンでも大して存在感を発揮できていない。アクション描写のキーマンはやはりドニー・イェンだが、さしもの彼も、自らに託された由龍剣の特性を充分にお披露目できているとは言い難い――いちおう最後の最後でその個性が示されるが、どうしてああなるのか、という根拠が話運びの中できちんと明示されていないので、カタルシスに結びついていないのだ。別に存在しているという原作ではこの辺りもきっちり描かれているのかも知れないが、この尺で映画にするならば、もっと整頓が必要だっただろう。
宣伝で比較される『HERO 英雄』や『LOVERS』が、武侠もののスタイルに則りつつもテーマを掘り下げているのに比べ、あまりにあちこちに色気を出しすぎたが故に雑然としてしまっているのが本篇のいちばんの問題と言える。旧作や、これ以降に発表されたツイ・ハーク作品にも窺えるサーヴィス精神が、芸術志向とも言える作品群に寄り添おうとした結果、マイナスに働いてしまった、という印象を受けた。
七つの剣の個性や、絵画的な美しさ、という点を評価基準にしなければ、アクション自体のクオリティはさすがに高い。風火連城の配下たちもそれぞれにユニークな武器を携えているが故に、戦いのスタイルは非常に変わっているし、ドニー・イェン自身が出演した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』のひと幕をも彷彿とさせる終盤の狭所での剣戟は、チャン・イーモウ監督による前述2作とは異なる激しさ、スピード感に溢れ、見応えがある。充分に活きているとは言い難いが、中心のキャラクターはうまく確立されているので、それぞれの芝居には味わいがあり、結末の情感も悪くない。
技術的には新しくなっているが、本篇の魅力はそうした快い古臭さにあったのではなかろうか。まだ低迷期から抜け出せずにいたツイ・ハーク監督や製作陣の迷いが、本来の魅力を損なう方向に働いてしまった、不運な作品、という印象を受ける。
関連作品:
『捜査官X』
『酔拳2』
『ラッシュアワー3』
『HERO 英雄』
『LOVERS』
コメント