『ワン・ミス・コール』

原題:“One Missed Call” / 原作:秋元康着信アリ』(角川ホラー文庫・刊) / 監督:エリック・ヴァレット / 脚本:アンドリュー・クラヴァン / 製作:ブロデリック・ジョンソン、アンドリュー・A・コソーヴ、スコット・クルーフ、ジェニー・ルー・トゥジェンド、ローレン・C・ワイズマン / 製作総指揮:江川信也、ティモシー・M・バーン、マーティン・シャーマン、ジョゼフ・ローテンシュレイガー、アンドレアス・ティースマイヤー / 撮影監督:グレン・マクファーソン / 美術:ローレンス・ベネット / 編集:スティーヴン・ミルコピッチ,A.C.E. / 衣装:サンドラ・ハーネンデス / 音楽監修:ディーヴァ・アンダーソン / 音楽:ラインホルト・ハイル、ジョニー・クリメック / 出演:シャニン・ソサモン、エドワード・バーンズ、アナ・クラウディア・タランコン、レイ・ワイズ、アズーラ・スカイ、デーブ・スペクター / 配給:角川映画

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:岡田壯平

2008年07月19日日本公開

公式サイト : http://www.one-missed-call.jp/

シネカノン有楽町2丁目にて初見(2008/08/22)



[粗筋]

 大学で心理学を専攻するベス・レイモンド(シャニン・ソサモン)の友人シェリーが、自宅にある池で溺死する、という惨劇が発生した。悲しみに暮れるベスの間近で、奇怪な出来事が発生する。共通の友人レアン(アズーラ・スカイ)の携帯電話に、未来の日時からの着信があったのだ。留守録に残されていたのは、レアン自身の謎の叫び。

 そのときにベスが感じた漠然とした不安は、最悪の形で現実となる。着信履歴に残っていたその時刻、レアンはベスの目の前で鉄橋から転落、走ってきた列車に撥ねられて絶命する。そしてベスは見た――千切れたレアンの左手が動き、握りしめていた携帯電話のキーを押していたのを。

 2日後、葬儀が行われたレアンの家で、ベスのルームメイトであるテイラー(アナ・クラウディア・タランコン)たちが奇妙な着信と突然の死との因果関係について不謹慎な話をしていると、レアンの元彼であるブライアンが激昂し、飛び出していった。追って事情を訊ねたベスに、ブライアンは自分の携帯電話を差し出す。そこには、2日前にレアンの携帯電話からかかってきた電話の留守録データが残っていた。着信日時は――いまから数分後。ただの偶然だ、と自棄気味に呟いたブライアンは、だがベスの目の前で、工事現場の爆破事故で降ってきた鉄骨に刺し貫かれて命を落とす……

 ベスは警察でその成り行きについて偽りのない事実を話すが、当然だがまともに聞き入れられなかった。苛立って警察署を飛び出したベスを、ひとりの刑事が追ってきた。彼、ジャック・アンドリュース刑事(エドワード・バーンズ)もまた最近、奇怪な成り行きで妹を喪ったばかりであり、常軌を逸した事態が起きていることを察していたのである。ジャックの妹は病院に勤めており、病院での研修を経験していたシェリーと接点があった。

 ジャックから連絡先を手渡され、帰宅したベスを待ち受けていたのは、またしても“死の予告電話”であった――それも、怯えるテイラーを落ち着かせるために、バッテリーを抜いた携帯電話が鳴動したのである。鳴ったのは、テイラーの電話。

 携帯電話を経由した死のリレーはいったい何処から始まっているのか。ベスは友人を助けるために、ジャックと共にその源泉を手繰ろうとするが……

[感想]

 本篇は、日本で製作され、都合3作+連続テレビドラマと大幅に拡大していった人気シリーズの原点となった映画『着信アリ』をリメイクしたものである。

 だが、日本特有の都市伝説や霊魂観に根ざすところの多いこの作品をそのままアメリカを舞台に造り替えるのは不可能だ、と判断した脚本家は、あらゆる部分でのアメリカナイズを図ったらしい。またその意図を理解した監督は、出演者らに意図的に原作を観ないよう指示したという。

 そのあたりの判断が、本篇ではよく奏功している。物語の展開を支える基本要素はきちんと抽出しながら、怪奇現象の流れや実際に死を齎す要因を全般にアメリカ映画らしいものに置き換え、見事にハリウッド映画としてアレンジしている。そもそも脚本を担当しているのは、評価の高いサスペンス小説を幾つも著しており、『トゥルー・クライム』や『サウンド・オブ・サイレンス』として映画化され好評を博している作品も多いアンドリュー・クラヴァンという人物である。映画的でない物語作りを知ったうえで、きちんと整理整頓を施しているのだから、完成度が高いのも当然なのだ。

 実際、そうして意識して良さを抽出しストーリーを整えていった結果、原作にあった、ホラー映画たらんとするあまりに行きすぎた描写や、如何にも日本人好みの、解釈を観る側に委ねるような部分が減っており、むしろ主題を研ぎ澄ませたような仕上がりとなっている。モチーフもほとんど無駄になっておらず、全体に職人芸の印象が色濃い。

 だがそれでも首を傾げてしまうのは、あまりに丹念に作りあげた結果、どこか突出した部分がなく、出来が平坦に感じられてしまうが故であろう。本国でのレーティングを意識したのか、直接死体を撮す場面が少ないどころか、登場人物を死に至らしめる出来事を、その瞬間に見せることは避けているし、そうして定番を踏まえていった結果、人物の肉付けには説得力があるものの、強いインパクトを残すキャラクターはいなくなってしまった。

 どうも物足りなさは禁じ得ないものの、だが原作をよく研究した脚本に基づき、アメリカらしく作り込んでいった本篇は、安易なウケ狙いのホラー映画よりずっと誠実で、丁寧な手触りが記憶に残る。傑作とはどうしても呼べないが、しかしいつまでも色々な人に観られて、よりディープなホラー映画の世界へと導いていく入門編としての役割を果たしてくれそうな、そんな丹念な職人芸の結実と言えよう。

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