『野蛮なやつら/SAVAGES』

TOHOシネマズみゆき座、スクリーン前に立てかけられたポスター。

原題:“Savages” / 原作:ドン・ウィンズロウ(角川文庫・刊) / 監督:オリヴァー・ストーン / 脚本:シェーン・サレルノドン・ウィンズロウオリヴァー・ストーン / 製作:モリッツ・ボーマン、エリック・コペロフ / 製作総指揮:フェルナンド・サリシン、シェーン・サレルノ、トッド・アーノウ / 撮影監督:ダン・ミンデル,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:トーマス・ヴォス / 編集:ジョー・ハッシング,ACE、スチュアート・レヴィ,ACE、アレックス・マルケス / 衣装:シンディ・エヴァンス / キャスティング:サラ・ハリー・フィン,CSA / 音楽:アダム・ピータース / 音楽監修:バド・カー / 出演:テイラー・キッチュアーロン・ジョンソンブレイク・ライヴリージョン・トラヴォルタベニチオ・デル・トロサルマ・ハエックデミアン・ビチルエミール・ハーシュ、サンドラ・エチェベリアシェー・ウィガム、ゲイリー・ストレッチ、ホアキン・コシオ、レナード・ロバーツ、ジョエル・デヴィッド・ムーア、ショーン・ストーン / 配給:東宝東和

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R-15+

2013年3月8日日本公開

公式サイト : http://yabanna-yatsura.jp/

TOHOシネマズみゆき座にて初見(2013/03/14)



[粗筋]

 私が、この物語の語り手だ。けれど、最後まで生きているかは解らない。

 カリフォルニア州ラグナ・ビーチで、軍隊上がりのチョン(テイラー・キッチュ)と、経済学・植物学に優れたベン(アーロン・ジョンソン)という、ふたりの最愛のひとと、私――O(ブレイク・ライヴリー)は暮らしている。

 幼馴染みで親友のふたりは、チョンがアフガニスタンで収穫してきた種をもとに、ベンが最上級の大麻を栽培して商売をしていた。難病に苦しむひとに供給し、大きな問題が起きない限り血を流さないクリーンな商売で、大金を稼いでいたが、あるとき、メキシコのバハ・カルテルの使者から不吉なメールが届く。そこには、組織の副官であり、庭師にして“首狩り族”の異名を取るラド(ベニチオ・デル・トロ)による、処刑の様子を撮影した動画が添付されていた。

 バハ・カルテルの使者は、チョンとベンに“業務提携”を申し出てきた。栽培はふたりに委ね、販路の確保、拡大はカルテルが担う。ふたりの取り分は80%――話は一見魅力的だったが、いずれ組織の影響が大きくなることは目に見えている。チョンは使者を殺すように提案し、ベンはいっそ商売を明け渡してもいい、と考えていたけれど、ふたりと内通する麻薬捜査官のデニス(ジョン・トラヴォルタ)は大人しく話に乗るべきだ、と諭す。

 結局ふたりは私に、1年ほどこの土地を離れる、と告げた。考える時間を求めるふりをしてアメリカを発ち、インドネシアでしばらく身を潜めよう、というのだ。頻繁に夫を替える母親との関係が冷え込んでいた私に、束縛するものはなかった。留守宅に置き手紙だけ残すと、私は出発の準備を始める。

 だけど、敵はそんな私たちの青臭い計画などお見通しだった。チョンとベンの弱点が私である、と悟ったラドは、買い出しの最中、ボディガード代わりに着いてくれていた仲間を殺害し、私を拉致したのだ……

[感想]

 ベニチオ・デル・トロは、私がその名を絶対的に信用している俳優のひとりである。いい俳優、巧い俳優はたくさんいるが、恐らくこれほど“役者のオーラ”をムンムンと放っている俳優はそう多くはない。どんな作品のどんな役柄でも、強い個性と存在感を発揮し、芝居の味わいを堪能させてくれる。ちょうど彼がオスカーに輝いた『トラフィック』出演の前後から一気に惹かれ、出演作を追い続けているが、近年は点数を絞り込んでいるのか、なかなか実現に結びつく計画がないのか、新作が疎らなのが残念だが、数少ない出演作においても、少なくとも彼の演技で不満を抱かされることはまずない。

 それは本篇も同様だ。近年注目度の高い若手俳優を中心に据えつつ、ジョン・トラヴォルタサルマ・ハエックといった豪華キャストが連なる中で、間違いなく飛び抜けて力強い演技を示している。展開上そうなっている、というのも事実ながら、ここまで作品世界を支配してしまうのは、デル・トロだからこそだろう。初登場時点から、一種地に足の着いたクレイジーさを示し、裏切り者や背信を犯した者を容赦なく処刑する一方で、組織のボスであるエレナ(サルマ・ハエック)とのやり取りではしばしば困った顔を見せたり、ユーモアを交えて奇妙に人情的な部分を覗かせたりする。中盤以降は変化する状況に臨機応変で対し、それと同時に目まぐるしく変化する表情も魅力的だ。

 無論、彼ひとりが突出していても、本篇の多彩極まる変化は成り立たない。麻薬の密売で稼ぐ若者たちに、接触し利益を巻き上げようとする組織、そこに麻薬捜査官も絡み、それぞれの思惑が複雑に入り乱れて、どんどん収拾困難な事態に陥っていく。それぞれのパーツは映画では有り体だし、決して突飛な行動をしているわけでもないのに、全員がはっきりと己の目的に忠実である、というだけでここまでもつれ、定番を逸脱していく感を与えていくのだから見事だ。

 有り体とは言い条、個々の要素に細かなひねりがあるのがポイントだろう。ひとりの女をふたりの男が共有する、という奇妙だが強固な絆で結ばれた若者たちに対し、いずれも何らかの、どこか凡庸なしがらみを抱えた悪党たち。ヴェールの奥に隠れ、知らない者に対しては男のように振る舞い、組織に反抗する者には冷酷に対しながらも、しかし家族を失った哀しみや、ひとり娘に敬遠されることに悩む女ボスのエレナ。チョンとベンに与しているように見せかけて実に柔軟に立ち回る一方で、やはり妙に平凡な家庭人としての側面も見せる麻薬捜査官のデニス。チョンとベンと一緒に働く男達や、ラドの同僚、部下にも人間像がはっきりと感じられ、それが細かにドラマを作りだしていくから、ますます混沌としていく。カリフォルニアの熱く乾いた風土が醸しだす空気ともあいまって、狂騒的な雰囲気にヒリヒリとした痺れさえ覚える。

 しかし、何といっても本篇を特徴付けるのは、あのクライマックスだ。原作でもかなり変わった趣向を用いているようだが、人を食ったような結末にしばし呆気に取られる。フィクションであるが故の自由さに甘えている、という捉え方もありそうだが、しかしこの跳躍は本篇のように、混乱を極めた物語の締め括りにはむしろ相応しい。趣向の備えるシニカルさもさることながら、この構造が、最終的な決着に、どこか夢を見ているかのような遊離したイメージと、独特の苦みを添えている。

 プロローグとして示される映像の猟奇性に、随所で飛び散る鮮血、そして常識的な倫理観に囚われない展開と結末は、誰しもが受け入れられるものではないし、反感を覚えるひとも少なくないだろう。それ故、人を選ぶ可能性が高く、安易にお薦めするのは難しいが、犯罪もの、という枠の中で徹底して弾けた、一種の快作であることは間違いない。

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