原題:“千機變” / 監督:ダンテ・ラム / 脚本:チャン・ヒンカイ、ジャック・ン / アクション監督:ドニー・イェン / 製作:カール・チャン / 製作総指揮:アルバート・ヤン / 撮影監督:チュン・マンポー / 美術:ビル・ルイ / 編集:チャン・キーホップ / 衣装:ジェシー・ダイ、コニー・オー・ユン / 視覚効果スーパーヴァイザー:エディ・ウォン / 音楽:チャン・クォンウィン / 主題歌:ジャッキー・チェン&ツインズ『變變變』 / 出演:ジリアン・チョン、シャーリーン・チョイ、イーキン・チェン、ジョシー・ホー、アンソニー・ウォン、ミッキー・ハート、エディソン・チャン、マギー・ラウ、マンディ・チャン、ジャッキー・チェン、カレン・モク / 配給:Comstock / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
2003年香港作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:?
2004年2月28日日本公開
2004年8月25日映像ソフト日本盤発売/2010年5月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
公式サイト : http://sui-pun.com/twinseffect/ ※閉鎖済
DVD Videoにて初見(2013/05/14)
[粗筋]
反吸血鬼同盟に所属するハンター、リーヴ(イーキン・チェン)は、宿敵デューク(ミッキー・ハート)との戦いのさなかに、相棒であるリラ(ジョシー・ホー)を失ってしまった。代わりに派遣されたのは、ジプシー(ジリアン・チョン)という、どこか頼りない見習いのハンター。
リーヴにはいささか風変わりな、ヘレン(シャーリーン・チョイ)という妹がいる。もともと奇妙な感情表現をするタイプだった彼女は、長年付き合っていた恋人を奪われ、余計に情緒不安定になっており、出逢うなりジプシーと衝突した。
そんなヘレンに新しい恋が訪れる。ちょうどヘレンと彼氏との修羅場に偶然居合わせ、彼女を慰めたカザフ(エディソン・チャン)という青年が、ヘレンに連絡してきたのである。
だが、カザフには厄介な秘密があった。実は彼は、吸血鬼の王家の、正統的な後継者だったのだ。王族の人間は、郷里から送り届けられるボトル入りの血を嗜んでおり、戯れに人間を襲うことはなかったが、やはり人間相手の恋愛は道理から外れている。側近プラダ(アンソニー・ウォン)に諭されながらも、カザフはヘレンに強く心惹かれていくが、その矢先に事件は起こった……
[感想]
近年、サスペンス・スリラーの分野で注目されるダンテ・ラムが監督し、現在の香港アクション映画の頂点にいると言っても過言ではないドニー・イェンがアクション部分を担当した作品である――が、このふたりが組んだにしては、率直に言って残念な出来だ。
吸血鬼、という題材は有り体であるが、それだけに特殊な設定を膨らませやすい、現実的な設定に固執しているとあり得ない見せ場を作り出せる、といったメリットがあるのだが、本篇はその両者に挑みながら、どちらにおいても失敗している。
吸血鬼ハンターが吸血鬼の血を飲むことで一時的に強い身体能力を身に付けることが出来る、しかしその代わりに90分以内に解毒剤を飲まなければ吸血鬼に変貌してしまう――という設定は面白いし、それを活かした展開はあるが、だからこそ当然するべき予防策を取っていなかったり、起きてしまった事態に対する反応がいちいち不自然で、面白さを殺してしまっている。これはこれで楽しめる、という見方もあるだろうが、それはどちらかと言えば“ツッコむ愉しさ”だ。
見せ場にしても、設定を充分に考慮していなかったり、かと思うと逆に説明不足ゆえに効果を上げていない。吸血鬼の血を飲むことで超人的な力を身につけ戦う、というのが本篇のハンターたちの設定だが、そのわりには血を飲んだときとそうでないときとのパワーに差が感じにくい。序盤で、ジプシーとヘレンが何故か喧嘩になるくだりがあるのだが、ここで披露する技巧は、クライマックスとそれほど大きな差がない。いっそ、人間同士の戦いではワイヤーを一切使わない、くらいの徹底をしていれば差別化が出来ただろうが、その辺の考慮が甘い。
かと思うと、作中の設定では吸血鬼とまったく無縁のはずのジャッキー・チェンが、見事に吸血鬼と渡り合ってしまっているのは笑っていいのかいけないのか――とはいえ、ワイヤーとCGの印象が強く、ストーリーの不自然さもあっていまひとつ気が乗らないまま話が続く本篇において、ジャッキーの登場するシークエンスは、私がかなり彼に心酔していることを割り引いても、確実に救いとなっている。走行する救急車にぶら下がって地面を蹴ったり、噛みつこうとする吸血鬼との必死だがコミカルな、つまりはいつも通りのジャッキー・アクションは、現実離れした見せ場が多い本編のなかで浮くことなく、ちゃんと見所になっている。
設定とのバランスの取り方に失敗しているとは言い条、アクション監督としてドニー・イェンが着任しているだけあって、アクション自体の派手さ、鋭さはさすがだ。とりわけクライマックスでは、タイトルにもなっている“ツインズ”というユニットで活動していたジリアン・チョンとシャーリーン・チョイが、ワイヤーとCGを駆使しつつも目覚ましい活躍を見せ、ここだけは終始惹きつけられた。
思うに本篇は、製作者や出演者、それぞれの思惑で採り入れようとした様々な要素をうまくまとめられなかったことが敗因だろう。前述した通り、タイトルにも引用されたユニット“ツインズ”をヒロインとして活躍させることが第一条件、それを香港の娯楽映画として成立させるためにアクションを導入し、この頃にはかなり流行となっていた伝奇的要素を加えた。作品としての箔をつけるために、演技の面でアンソニー・ウォン、アクションの部分でジャッキー・チェンを組み込み……そうして贅沢に積み重ねていった結果、設定やストーリー面でまとめるのに失敗して、説得力を失ってしまった。
アクションの切れ味や、その後のサスペンス作品で見せる演出のテンポの良さ、『ブレイド』あたりと比較しても決して見劣りしないレベルにはあるVFXなど、評価できる点も少なくない。ある意味で楽しみようはある作品ではあるのだが、いい出来映え、と言うのはさすがに無理がある。
関連作品:
『捜査官X』
『コンテイジョン』
『ダークナイト』
『80デイズ』
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