『パシフィック・リム(3D・吹替)』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

原題:“Pacific Rim” / 監督:ギレルモ・デル・トロ / 原案:トラヴィス・ビーチャム / 脚本:トラヴィス・ビーチャムギレルモ・デル・トロ / 製作:トーマス・タル、ジャン・ジャシュニ、ギレルモ・デル・トロ、メアリー・ペアレント / 製作総指揮:カラム・グリーン / 撮影監督:ギレルモ・ナヴァロ / プロダクション・デザイナー:アンドリュー・ネスコロムニー、キャロル・スピア / 編集:ピーター・アムンドソン、ジョン・ギルロイ / 衣装:ケイト・ホーリー / 視覚効果監修:ジョン・ノール、ジェームズ・E・プライス / アニメーション監修:ハル・ヒッケル / 音楽:ラミン・ジャヴァディ / 出演:チャーリー・ハナムイドリス・エルバ菊地凛子チャーリー・デイ、ロブ・カジンスキー、マックス・マーティーニ芦田愛菜ロン・パールマンバーン・ゴーマン、クリフトン・コリンズJr.、ディエゴ・クラテンホフ / 日本語吹替版声の出演:杉田智和林原めぐみ玄田哲章古谷徹三ツ矢雄二池田秀一千葉繁土田大浪川大輔ケンドーコバヤシ / 配給:Warner Bros.

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間11分 / 翻訳:松崎広

2013年8月9日日本公開

公式サイト : http://www.pacificrim.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/08/14)



[粗筋]

 最初は、サンフランシスコだった。海から突如現れた巨大生物によって襲撃された都市は、多数の犠牲を出すも、戦闘機による徹底的な抵抗により辛うじて事態を収束させる。一度きりの奇禍かと思われたが、海中から繰り返し巨大生物が出現するようになり、世界各国はそれまでの諍いを忘れて協力体制を取り、一丸となってこの巨大生物――“KAIJU”への対策を講じる。

 そうして誕生したのが、巨大なロボット型兵器“イェーガー”である。試行錯誤を経て完成した“イェーガー”は“KAIJU”への対抗手段として見事な成果を上げた。“KAIJU”出没の兆候をいち早く感知し、打倒する“イェーガー”とふたりひと組で構成されるそのパイロットは人類のヒーローとなり、“KAIJU”との戦いは見世物として人類の娯楽に変貌していく。

 しかしその力関係は、ある段階から徐々に崩れていった。ベケット兄弟が登場する“ジプシー・デンジャー”のアラスカ沖での敗北をはじめ、“KAIJU”に後れを取る場面が増え、世界各地がふたたび“KAIJU”の脅威に晒される。やがて“イェーガー”での対抗には限界がある、と判断した各国首脳は“イェーガー”の開発に対する支援を打ち切り、沿岸に設けた巨大な防護壁・通称“命の壁”を用いた防衛策へとシフトしていく。

“怪獣戦争”と呼ばれる災厄が始まって12年を経た2025年。惨たらしい敗北によってパートナーである兄ヤンシー(ディエゴ・クラテンホフ)を失って以来組織を離れ、“命の壁”建造の作業員として各地を放浪していたローリー・ベケット(チャーリー・ハナム杉田智和)のもとを、かつての上官スタッカー・ペンテコスト(イドリス・エルバ玄田哲章)が訪れる。各国政府からの支援を打ち切られた組織だが、いまはペンテコストを指揮官とするレジスタンスとして活動しており、いまなお各地を脅かす“KAIJU”の出没を根絶するための計画を準備していた。その実現のために、経験のあるパイロットが必要なのだ、という。壁の建設に命を捧げるか、イェーガーの搭乗員として死ぬか、どちらがいいか、と問われ、ローリーはペンテコストに従った。

 現在、組織は香港に拠点を構えている。擁するイェーガーはわずかに5体。だがそのなかには、改修された“ジプシー・デンジャー”も含まれていた。問題は、ローリーのパートナーである――にわかに浮上してきたパートナー候補は、ローリーの到着早々から、彼の適性に不安を唱えていた補佐官、森マコ(菊地凛子林原めぐみ)であった……

[感想]

 日本でいわゆる“怪獣映画”が作られなくなって久しい。海外でこそ、『トランスフォーマー』シリーズや『クローバーフィールド/HAKAISHA』、『バトルシップ』のように巨大なクリーチャーの戦いを採り上げた作品が生まれているが、『ゴジラ』や『ガメラ』などでこのジャンルを創造・牽引した日本ではあまり積極的に製作されることがなくなってしまった。映像技術の発展がこうしたジャンルで追求するべきリアリティの幅を拡げすぎ、従来の手法のみで観客を納得させられるクオリティに仕上げるのが難しくなった、とか、そもそも怪獣映画が一般的でなくなり収益が見込めなくなった、など、様々な事情が推測されるが、いずれにせよ日本ではご無沙汰となってしまった。

 だが、前述したように、ハリウッドでは“異星人の襲来”という状況設定に基づき、巨大生物や巨大な兵器による襲撃を題材とした映画を作り続けている。この技術を活かせば、現代の怪獣映画が生み出せるのでは――と夢想する愛好家は、常に存在し続けた。そしてとうとう、日本の怪獣映画に対する造詣の深い監督の手によって、この夢はかたちを得る。

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督はモンスター、異形の者への愛情や敬意を感じさせる作品ばかりを撮ってきた人物である。アメコミを原作とする『ヘルボーイ』シリーズや、スペインの内戦を背景としたオリジナル作品『パンズ・ラビリンス』、いずれも異形のキャラクターたちへの愛着が色濃く感じられるが、その造詣や愛着は本邦で製作された怪獣映画のみならず、ロボットアニメに対しても寄せられていたらしい。それ故に本篇は、従来になく日本人に親しみやすい怪獣映画となっているばかりか、いつか触れてみたい、と願っていた実写によるロボット・アクションにもなっているのだ。

 ストーリーとしてはさほど工夫はされていない。悲しい過去を背負うパイロットとそのパートナー候補の味わう挫折と奮闘、上官や意見を違える同僚との確執、その背後で“KAIJU”出没の原因を独自に探ろうとする裏方たちの奮闘、など物語を構築するための要素は抜かりなく積み上げているが、ドラマが著しい圧力をもって迫ってくる、という類のものではない。

 本篇の見所は、巨大生物の襲撃と、それに拮抗する巨大兵器との死闘を、圧倒的な臨場感で描き出しているということにこそある。現実に体験したことのある人間など存在しないが、もし現実に遭遇したとすればこんなふうに事態は展開し、こんなヴィジュアルになるはずだ、というものを徹底して再現する。もちろん誰だってこんな破滅的な世界に生きていたくはないだろうが、フィクションの世界におけるこうしたモチーフに親しんだひとであれば観てみたかった、触れてみたかった空間が、先進のVFX、3D映像によって、ほぼ完璧と言っていいレベルで創造されているのだ。工夫はないとは言い条、本篇に登場するひとびとが紡ぎ出すドラマは、その構築美にしっかりと奉仕している。

 神経とリンクしてのコントロールが単独では負担になるため、同調率の高いふたりひと組になって登場する、という操作機構に、肘の部分にロケットエンジンを搭載して破壊力を発揮する攻撃など、往年のロボットアニメを彷彿とさせるディテールもいちいちニヤリとさせる。主な舞台となる香港の市街の風景が相変わらず『ブレードランナー』の影響下にあるとか、これほど日本の特撮・アニメへの造詣を窺わせるわりに途中で現れる日本語のテロップや破壊される日本の都市の看板などが明らかに変だったり、ヘリコプターのローターが回るそばで平然と傘を差しているといった細かな不自然さ、ツッコミどころもふんだんにあるが、それを圧倒するくらいに、過去作へのオマージュ、怪獣・ロボットものへの敬意を感じさせるアイディアが数多く詰めこまれている。たとえこうした作品群にさほど愛着がなくとも、まるで子供の頃の想像力をそのまま成長させ羽ばたかせたかのような本篇の発想の数々は活き活きとして、快く映るはずだ。

 悲しいかな、いまの本邦映画界にこうした本格派、かつこだわりに満ちた怪獣映画、ロボット・アクション映画を作る力はない、と言わざるを得ない。しかし、円谷英二をはじめとする過去の名匠たちが生み出した特撮映画、昨今でもアニメーションの分野で試行錯誤を続けているロボット・アクションの魂は、それに共鳴したひとびとの手によって着実に受け継がれていることを、本篇は実感させる。かつてそうした作品群に惹かれ、胸を熱くさせた大人達はむろん、常識を大幅に逸脱したヴィジュアルと、稚気に溢れたモチーフはきっと、過去の怪獣映画に触れたことのない子供さえもきっとワクワクさせずにおかない。本篇に漲っているのは、想像力というものが本来備える熱さそのものなのだから。

関連作品:

デビルズ・バックボーン

ヘルボーイ

ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

パンズ・ラビリンス

ダーク・フェアリー

タイタンの戦い

トゥモロー・ワールド

シャンハイ

バベル

ゴーストライダー2

PARKER/パーカー

キング・コング

クローバーフィールド/HAKAISHA

トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン

トロール・ハンター

バトルシップ

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