原題:“The Conjuring” / 監督:ジェームズ・ワン / 脚本:チャド・ヘイズ、ケイリー・W・ヘイズ / 製作:トニー・デローザ=グランド、ピーター・サフラン、ロブ・コーワン / 製作総指揮:ウォルター・ハマダ、デイヴ・ノイスタッター / 撮影監督:ジョン・R・レオネッティ,ASC / プロダクション・デザイナー:ジュリー・バーゴフ / 編集:カーク・モッリ / 衣装:クリスティン・M・バーク / 音楽:ジョセフ・ビシャラ / 出演:ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、ロン・リヴィングストン、リリ・テイラー、シャンリー・キャズウェル、ヘイリー・マクファーランド、ジョーイ・キング、マッケンジー・フォイ、カイラ・ディーヴァー、シャノン・クック、ジョン・ブラザートン、スターリング・ジェリンズ / サフラン・カンパニー/エヴァーグリーン・メディア・グループ製作 / 配給:Warner Bros.
2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:佐藤真紀 / PG12
2013年10月11日日本公開
公式サイト : http://www.shiryoukan-movie.jp/
[粗筋]
1971年、ペロン一家が引っ越したその日から、不吉な出来事は始まっていた。
ロジャー(ロン・リヴィングストン)が無理をして購入した郊外の一軒家に、長女はともかく、ほかの4人の娘たちは大喜びだったが、飼い犬のセイディが何故か、家に入りたがらなかった。やむなく一家はセイディを屋外に置いて最初の夜を過ごしたが、翌朝、セイディは謎の死を遂げていた。
それから毎日のように、ペロン家では奇妙な出来事が続いた。目隠し鬼をすると、誰もいないはずの場所から拍手の音がする。封鎖された地下室に、人の気配がする。さらには、子供が寝室のドアに何者かの人影がある、といい、怯えるようになった。
陸続と繰り返す怪事に、とうとうまともな日常生活が送れないほどになったペロン一家は、専門家を頼ることにした。
ペロン家の災厄の3年前、アナベルという少女の霊が取り憑いた、といわれる人形にまつわる事件に関わり、一躍その名を知られることになった怪奇現象の研究家エド(パトリック・ウィルソン)とロレイン(ヴェラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻は、突然持ち込まれた話に驚きながらも、ロジャーの妻キャロリン(リリ・テイラー)の切羽詰まった様子に、調査要請を受け入れる。
後日、ペロン家に赴いたウォーレン夫妻は、屋敷に踏み込むなり、事態が深刻であることを悟る。そして、彼らの来訪を機に、怪奇現象は激しさを増すのだった……
[感想]
ホラー映画史にその名を刻む名作『悪魔の棲む家』が、実話に基づいていた、という話はご存知だろうか。実在した心霊現象の研究家が取材した出来事に基づいていた、といい、関連した資料が実際に残されている。本篇は、その研究家が『悪魔の棲む家』の出来事よりも先に遭遇しながら、あまりの忌まわしさに大きく採り上げることがなかった、と言われるケースを、事実を出来るだけ忠実に描いた作品だ。
そもそもその実在の研究家の言動を疑う――という立場のひともあるだろう。そういうひとはここで“リアリティ”という表現を用いること自体が空々しい、と感じるだろうが、それでも本篇について語るとき、“リアリティ”という言葉はなかなか避けにくい。強いて言い換えるなら、“もっともらしさ”と言うべきか。
本篇の“もっともらしさ”を支えるのは、さり気ないながらも随所から滲む、時代描写の的確さだ。いまの眼で見ると野暮ったく映る大振りな眼鏡や妙にぞろりとした女性達の服装、電話や乗用車、音楽といった小道具の古めかしさが、事件の起きた時代の空気を印象づける。
そして何よりも、発生する怪奇現象の内容や、登場人物たちの反応に、この“もっともらしさ”が徹底されている。当初、ペロン一家のひとびとは引っ越した新しい家の異様さに気づかないが、一方で確実に異変が起きている。その異変を、当初はこの世ならざるものの所業、などと捉えずに怯え、追い込まれた挙句にようやく専門家を頼る。そして対する専門家の振る舞いも、確かにこういう境遇にいればそんな態度を取るだろう、と頷けるものばかりだ。それらが現実にあったのか、という点を疑うにしても、その“もっともらしさ”は否定できないはずである。製作者たちが、証言者たちに敬意を表し、その“体験”を出来る限り真摯に再現しようとしたが故のクオリティと言えよう。
そしてそのうえで本篇は、決して“もっともらしさ”を壊すことなく、しかし観る者に恐怖を抱かせるよう、実に丁寧に怪奇現象を描き出している。
オープニングに掲げられた“アナベル事件”の詳細ですらかなりのクオリティだが、ペロン一家の体験する出来事の描写はことごとくハイレベルだ。序盤から予兆めいたものが巧みにちりばめられ、それがたとえば子供たちの目隠し鬼遊びや寝室での体験に繋がっていく。安易な猫騙しや虚仮威しでは成立しない、蓄積されたものがあるからこそ醸成する異様な気配が、観る者までも不安にさせ、恐怖を膨らませていく。
基本的に、ペロン一家のひとびとの体験したシチュエーションを丁寧に再現する一方で、あえて映画の観客だからこそ感じうる予兆をうまく活かしているのもポイントだ。登場人物はまだ気づいていないが、観客の眼から見ると明らかにそこが異変の焦点である、と解るところへ、登場人物が近づいていく緊張感。じわじわと醸成する恐怖に、こういうところだけあえて爆発的なショックを用意することで全体にメリハリをつけ、ドラマとしての面白さをもしっかり演出している。
メガフォンを取ったジェームズ・ワン監督は、『SAW』『デッド・サイレンス』など、サプライズを得手としている作家のような印象がまだ色濃いが、もともとホラー映画全般に対する造詣、愛着が強いことが窺える監督である。初期作品では高いレーティングを施されるものが中心だったが、本篇に先行する『インシディアス』では、若年層が観られるよう、残酷描写をほぼ撤廃して恐怖を表現する、という趣向に挑み、作品的にも興収的にも成功させている。本篇はその路線を踏襲し――というより、実際に血を見るような場面があまり多くなかったからそういう内容になったのだろうし、更に踏み込めば、それ故にワン監督が適任として認められた経緯がある、とも想像出来るが、いずれにせよ、簡単に怖がらせることの出来そうなガジェットを用いない志の高さは健在であると共に、そのうえでPG12というレーティングを課せられた、という事実から、ホラー映画としての質の高さは証明されている、と言えよう。
如何せん、その後の多くのホラー映画の雛型ともいえる体験談に基づいているので、個々の要素には既視感があり、目新しくない、と評するひとがいても不思議ではない。ただ、定番を押さえているからこそ、その質の高さがよく解る、という代物でもある。今後、ホラー映画の歴史を語るうえで、決して無視できない作品のひとつになるのではなかろうか。
関連作品:
『インシディアス』
『SAW』
『狼の死刑宣告』
『たたり』
『フッテージ』
『エスター』
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