『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

TOHOシネマズ西新井、通路に展示された大型スタンディ。

原題:“The Wolf of Wall Street” / 原作:ジョーダン・ベルフォート(早川書房・刊) / 監督:マーティン・スコセッシ / 脚本:テレンス・ウィンター / 製作:マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオ、リザ・アジズ,p.g.a.、ジョーイ・マクファーランド,p.g.a.、エマ・ティリンジャー・コスコフ,p.g.a. / 製作総指揮:アレクサンドラ・ミルチャン、リック・ヨーン、アーウィン・ウィンクラー、ジョエル・コトラージョージア・カカンデス / 撮影監督:ロドリゴ・プリエト,ASC,AMC / プロダクション・デザイナー:ボブ・ショウ / 視覚効果監修:ロブ・レガト / 編集:セルマ・スクーンメイカー,A.C.E. / 衣装:サンディ・パウエル / キャスティング:エレン・ルイス / 出演:レオナルド・ディカプリオジョナ・ヒルマーゴット・ロビーマシュー・マコノヒージョン・ファヴローカイル・チャンドラーロブ・ライナージャン・デュジャルダンジョン・バーンサルジョアンナ・ラムレイ、クリスティン・ミリオティ、クリスティーン・エバーソール、シェー・ウィガム、カタリーナ・キャス、P・J・バーン、ケネス・チョイ、ブライアン・サッカ / 配給:Paramount Pictures Japan

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間59分 / 日本語字幕:菊地浩司 / R-18+

第86回アカデミー賞作品・監督・脚色・主演男優・助演男優部門候補作品

2014年1月31日日本公開

公式サイト : http://www.wolfofwallstreet.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/01/31)



[粗筋]

 会計士夫婦の息子であるジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は念願叶って、アメリカでも特に歴史の古い証券会社に、電話係として就職する。一攫千金を夢見るジョーダンは、最初は生真面目な若者だったが、食事に強い酒を要求し、1日2度のオナニーとコカインの吸引をひけらかすバイタリティに満ちた上司マーク・ハンナ(マシュー・マコノヒー)に魅せられ、そのスタイルを吸収していく。

 薄給ながらも世の中の享楽を学び、そしてトレーダーとしての資格試験にも意欲的に臨んで、遂にトレーダーとしてジョーダンがデビューしたその日――しかし、悪夢が起きた。のちに“ブラック・マンデー”と呼ばれる株価の大暴落である。長い歴史を誇る証券会社も呆気なく倒産し、仕事が軌道に乗ってさえいなかったジョーダンは食うにも困る経済状態に陥った。この際、倉庫番でも何でもして家計を支えなければ、と考えていた彼に、しかし妻のテレサ(クリスティン・ミリオティ)は「株屋は株の仕事をするべきだ」と、求人案内にひとつだけ載っていた、“証券会社”の記事を指し示す。

 ロングアイランドにあるその会社はジョーダンの知っていた証券会社とはまるで別物だった。扱うのは大手企業ではなく、“ペニー株”と呼ばれる、価値の定かではない店頭扱いの小口の物件――つまりはクズの銘柄ばかりだった。それを、一攫千金を夢見る労働者たちに細かに売り捌く。今まで自分では想像したこともない商売の仕方に驚愕するジョーダンだったが、そんな彼に天啓を齎したのは、この取引の手数料だった。なんと、取引額の50%が、トレーダーの懐に入る、というのである。

 やり手揃いのウォール街で鍛えた話術により、就業当日のうちに電話1本で2000ドルを稼ぎ出してしまったジョーダンは、瞬く間にトップセールスマンに上り詰める。一転、生活に余裕の出たジョーダンは、新たな野望に乗り出した。

 同じアパートの階下に暮らしているトニー・エイゾフ(ジョナ・ヒル)と知己を得ると、彼をパートナーに、空き倉庫を借りて、ジョーダンは自分の会社を興した。雇い入れたのは地元の麻薬の売人たち。低学歴の人間でも、ジョーダンがこれまでに身につけてきたスキルを叩きこめば、充分に彼らを大金持ちにしてやれる、と考えたのだ。つまり、巧みなセールストークで相手の懐に潜りこみ、最初は大口の取引で信頼を得ると、すぐさまトレーダーの取り分の大きいペニー株を売りつける。

 ジョーダンの目論見は見事に的中し、彼らの会社は瞬く間に規模を拡大する。遂には大手経済誌の誌面を飾るに至るが、そこでジョーダンに与えられたふたつ名は、“ウォール街の狼”であった……

[感想]

 レオナルド・ディカプリオ渾身の1本、と言っていいだろう。彼が製作に携わるようになって結構経つが、実は自身で出演している作品はあまりない。このところ繰り返しコンビを組んでいるマーティン・スコセッシ監督にふたたびメガフォンを託し、およそ3時間近くに亘って“クソ野郎”を演じ続けた熱意にまず圧倒される。

 3時間、と聞くといささか尻込みをする長尺だが、観ているあいだ、その長さを意識することはあまりない。ウォール街の熱気に――というより、物語に関わるひとびとのクレイジーさに魅せられ、或いは腰が引けているうちに時間が過ぎてしまう。

 ジョーダン自身は最初、決して特異な人物には映らない。野心は抱いているが、上司にランチに誘われても、酒は口にしないし、ドラッグを勧められても拒む程度のモラルは備えている。冒頭、既に充分すぎるほどの成功を収め、会社でバカ騒ぎを繰り広げ、日々ドラッグとセックスに明け暮れるジョーダンの姿を仄めかしているので、“いったい何が彼をこんなに変えてしまったのか?”という点に興味を惹かれる。

 しかし、これも実は最初に答を出してしまっている。要は“金”という、最強のドラッグの中毒状態に陥っているわけだ。証券会社が潰れるような大規模の金融ショックに見舞われながらも、辿り着いた小さな証券会社で商機を見出すと、取り憑かれたかのようにビジネスの拡大を繰り返していく。顧客を満足させることよりも自分の収入を増やすことを優先しろ、という、最初に就職した証券会社の上司がもたらした薫陶を、さながら自らの中で熟成させていくかのように、ジョーダンは利潤を追求していくわけだ。利益のためなら合法違法も厭わないその様は、マネーゲームという過激な薬物の虜になっていることが如実に窺える。

 当初のうっすら滲ませていた生真面目さは物語早々で消え失せ、気づけばジョーダンはすっかり鼻持ちならない成金に成り下がっている。掻き集めた仲間たちの品性の乏しさも手伝って、言動はもはや悪党そのものだ。

 観ていて苛立ちを覚えるが、しかし同時に奇妙に爽快に思えるのは、彼のキャラクターがいわば、金融業界が生み出す可能性をはなから孕んでいるモンスターそのものだからだろう。大口の顧客によるマネーゲームを演出し、手数料というかたちで私腹を肥やすトレーダー。そんな彼らが普段は見向きもしない小口銘柄の、それ故の破格な手数料が、顧客の信用や銘柄の育成になど関心のないジョーダンたちの野心に火を点ける。金融制度そのものが生んだモンスターに、業界がいいように弄ばれている様には、ちょっとした清々しさを感じてしまう。

 何より、自ら製作にも携わったディカプリオが演じるジョーダンの、振り切れた“クソ野郎”っぷりが素晴らしい。ろくに素性も知らない小さな会社の株を舌先三寸で売りつけ、電話口で舌を出し中指を突き立てて、儲けた金をあり得ないような遊びに蕩尽する。会議室ではまともな打ち合わせをしているように見せかけて、実際には宴会のどうしようもない余興の相談をしている。会社の中でセックスやドラッグに耽溺し、糟糠の妻を捨てて、美しい女と贅沢極まりない家庭を築く一方、依然として様々なタイプの売春婦にも手を出している。自らが育てた社員を前に振るうハイテンションの演説も見物だが、特に凄まじいのは、窮地に見せる壮絶な醜態だ。ここまでキャリアを築いてきて、いまさら演じる必要のないような最低の男を、全力で体現したディカプリオには敬意さえ表したくなる。

 3時間に及ぶ全篇、このクレイジーな魅力に満ちあふれた男と、その周囲のひとびととの日々を描くだけに終始しているが、その様が常軌を逸しすぎて退屈することがない。決してワンパターンで連ねているわけではない、というのもさることながら、随所にちらつく善人の横顔と、その狂気に仄かな哀愁が滲んでいるからだろう。

 印象的なのが、最初の妻に対する態度だ。女遊びに耽りながらも、当初のジョーダンは妻の立場を尊重しようとしている。2番目の妻ナオミ(マーゴット・ロビー)に一目惚れし、彼女と寝たい、と切望しながらも、しばし一線を超えることをためらうのは、妻に対する気遣い故だ。結局欲望に屈してしまうのは、そのバイタリティが生き馬の眼を抜くかの如き金融業界で勝者になるため、という名目で酒色に耽溺してきたせいに他ならない。そうして信じてきた道を歩んだ挙句のあの顛末は、自業自得ではあるが、やはりどこか哀れなのだ。

 ある男の成功と破滅とを追体験するかのような3時間。観ていてどっと疲労を覚えるが、何もかもやり遂げたかのような結末には、清々しさと虚しさとが混在する。現実の裏にあった非現実的な世界を味わえると同時に――あぶく銭に溺れることなく生きていることの幸せもちょっとは実感できるはずだ。

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