『21ブリッジ』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『21ブリッジ』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『21ブリッジ』チラシ。

原題:“21 bridges” / 監督:ブライアン・カーク / 脚本:アダム・マーヴィス、マシュー・マイケル・カーナハン / 製作:チャドウィック・ボーズマン、ローガン・コールズ、マイク・ラロッカ、ジジ・プリッツカー、アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ、ロバート・シモンズ / 撮影監督:ポール・キャメロン / プロダクション・デザイナー:グレッグ・ベリー / 編集:ティム・マレル / 衣装:デヴィッド・ロビンソン / キャスティング:アヴィ・カウフマン / 音楽:アレックス・ベルチャー、ヘンリー・ジャックマン / 出演:チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、J・K・シモンズ、ステファン・ジェームズ、テイラー・キッチュ、キース・デヴィッド、アレクサンダー・シディグ、ルイス・キャンセルミ、ヴィクトリア・カルタヘナ / 配給:Showgate
2019年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:種市譲二
2021年4月9日日本公開
公式サイト : http://www.21bridges.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/4/13)


[粗筋]
 マイケル(ステファン・ジェームズ)とレイ(テイラー・キッチュは、)ブルックリンにあるレストラン《モスト》を襲撃した。薬物密売に関わっているこのレストランのワインセラーに隠された、30キロのコカインが彼らの狙いだった。
 しかし、積み上げられていた量は300キロに近かった。情報のミスに、マイケルは計画を中断しようと提案するが、レイは耳を貸さず、50キロ分をバッグに詰めこむ。
 逃亡しようとしたとき、ふたりは警察官のグループとはち合わせてしまう。容易に脱出することは叶わず、ふたりは増員も含め、7人の警察官を殺害してしまった。
 通報を受けて現場に駆けつけた刑事アンドレ・デイヴィス(チャドウィック・ボーズマン)は、現場の状況や交通違反の記録をもとに、早々と襲撃犯の正体を割り出す。犯行に使われた乗用車は火をつけられた状態で発見されたが、恐らくすぐに遠くへは逃げられない。マイケルたちがマンハッタン島にいることを確信したアンドレは、マンハッタン島と周囲の陸地を繋ぐ21の橋の封鎖を要請した。
 その頃、マイケルとレイは、情報をもたらした組織にコカインを売り、100万ドルを手にしていた。あらゆる組織のあいだで中立を保ち資金洗浄を行うアディ(アレクサンダー・シディグ)という男を頼るが、そこへ突如としてニューヨーク市警の一団が踏み込んでくる。命からがらアディのもとから逃げ出したふたりだったが、マイケルは去り際、重傷を負ったアディが口にした言葉が気にかかっていた。
 銃撃戦が繰り広げられたアディの部屋を調査したアンドレも、奇妙なタイミングで警官隊が襲撃犯と遭遇した事実を訝る。平素は凶悪犯を殺害することを躊躇わないが、今回の事件については、ふたりの身柄を確保する必要性を感じはじめる。
 経済の拠点であるマンハッタンを封鎖しておけるのは、夜が明ける午前5時まで。果たしてアンドレはそのあいだに犯人を捕らえられるのか、或いはマイケルたちは無事に逃げおおせられるのか……?


[感想]
 最初にまず不満を掲げてしまおう。
 どうしても引っかかったのは、タイトルにあまり重みがない、という点だ。
 重罪犯がマンハッタン島に逃げこんだことが確認出来たため、島と周辺の土地とを繋ぐ橋を封鎖して追いつめる、という主旨は明瞭だ。ただ、封鎖する手続の煩雑さや、それによる時間制限の緊張感、或いは犯人側の、マンハッタン島から脱出する難しさに頭を悩ませるくだりなど、そのシチュエーションから想定される魅力を引き出していない。せっかくタイトルに掲げるほどなのだから、もう少し意味を持たせる工夫があっても良かったように思う。
 しかし、そこにこだわらなければ、一夜のうちに繰り広げられるサスペンスとして、かなり優秀だ。
 強盗犯が最初、立て続けに見舞われるトラブルから、犯人の性格故に起こる警察官の大量殺人、それがかつて父親を殺された経験を持ち、犯罪者に対して容赦なく対峙する刑事を駆り立てる。刑事の整然として、しかし躊躇のない捜査が一気に強盗犯に肉迫していく一方で、強盗犯もまた思わぬタイミングで警察とニアミスし、随所で死闘が繰り広げる羽目になる。テンポがよく、細かに挿入される激しいアクションと謎の提示で、ダレることなく観客を惹きつけ続ける。
 展開のスピードが速くキャラクターも多いのだが、それぞれのキャラクターが確立されているので、把握も容易い。警察側の視点人物であるアンドレの組織内における微妙な立ち位置や、それでも崩せない信念、襲撃犯ふたりの微妙な関係性のバランスなど、この正統派のようでいてどこか歪な事件の構図が、本篇を観ていると自然に入ってくる。強いて言うなら、終盤で判明するある事実が、固有名詞やそれにまつわる情報をしっかり把握していないとしばらく飲み込めない畏れはあるが、そこまでの語り口は完璧と言っていい。
 実のところ、本篇の背後にある秘密は、決して特異な趣向ではない――作品としての規模や、描かれる状況の量から考えるといささか話が大きすぎる、とも言えるのだが、この類の秘密は(フィクションでも、現実でも)さほど珍しいものでもない。
 だが、クライマックスの手前で語られる、当事者たちの心情には頷ける点もあるのも確かだ。間違いなく、この物語において正義を貫いているのは視点人物たるアンドレなのだが、彼が最期に対決する人物の事情には、一部共感する部分もある。それがも西部劇めいたこのクライマックスの余韻を苦く重いものにしている。
 スピード感と緩急の効いた銃撃戦のインパクトが魅力だが、芯には社会派の重厚感がある。撮影規模の面も作品としての尺もコンパクトだが、重みは侮りがたい。

 脚本の出来に惚れ込み、主演と製作を兼任して本篇に臨んだチャドウィック・ボーズマンは、本篇の公開前に43歳の若さで他界した。
 実在の人物を豊かな説得力で演じて頭角を顕し、『ブラックパンサー』でヒーロー映画に革新的な一歩を刻んだ彼が、結果的に、とはいえ最期に選んだのがこんな社会派の題材をエンタテインメントとして巧みに処理した好篇であったのが嬉しく、そして非常に惜しまれる。きっとまだまだ存在感を発揮出来たひとだった。


関連作品:
キングダム―見えざる敵―』/『大いなる陰謀』/『消されたヘッドライン』/『ワールド・ウォーZ
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『アメリカン・スナイパー』/『ジャスティス・リーグ』/『セッション』/『ローン・サバイバー』/『クラウド アトラス』/『タイタンの戦い』/『アイリッシュマン
夜の大捜査線』/『トレーニング・デイ』/『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』/『フェイク シティ ある男のルール

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