原題:“Edge of Tomorrow” / 原作:桜坂洋(集英社スーパーダッシュ文庫・刊) / 監督:ダグ・リーマン / 脚本:クリストファー・マックァリー、ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース / 製作:アーウィン・ストフ、トム・ラサリー、ジェフリー・シルヴァー、グレゴリー・ジェイコブス、ジェイソン・ホッジス / 製作総指揮:ダグ・リーマン、デヴィッド・バーティス、福原秀己、ブルース・バーマン / 撮影監督:ディオン・ビーブ / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・ショール / 視覚効果監修:ニック・デイヴィス / 編集:ジェームズ・ハーバート / 衣装:ケイト・ホーリー / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン、ジョナス・アームストロング、トニー・ウェイ、キック・ガリー、フランツ・ドラメー、ドラゴミール・ムルジッチ、シャーロット・ライリー、ノア・テイラー、羽田昌義、テレンス・メイナード、ララ・パルヴァー / 配給:Warner Bros.
2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2014年7月4日日本公開
公式サイト : http://www.allyouneediskill.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/07/14)
[粗筋]
侵略は突如として始まった。隕石のように襲来した、“ギタイ”と呼ばれる生命体は世界の各都市を襲撃、瞬く間に人類は駆逐されていった。もはや滅亡を待つだけかと思いきや、リタ(エミリー・ブラント)という女性兵士の目覚ましい活躍により、人類は初めて“ギタイ”を退ける。この好機に乗じて更に“ギタイ”を退けようと、各国の軍隊が合流して結成された統合防衛軍は大規模な殲滅作戦に打って出た。
リタの存在を宣伝で有効活用し、新たな兵士を大量に集めることに成功した広報担当のケイジ少佐(トム・クルーズ)は、ロンドンに設けられた統合防衛軍本部に赴き、ブリガム将軍(ブレンダン・グリーソン)と面会する。将軍はケイジの功績を高く評価し、彼にある依頼を行う。それは翌日に始まる殲滅作戦の最前線に赴き、撮影班と共に戦闘の様子を記録する、というものだった。もともと民間の広報マンだったケイジには戦闘の経験どころか兵士としての訓練も受けていない。当然のように拒絶したが、退出しようとしたケイジを、将軍は逮捕するように命じ――気がついたとき、ケイジはヒースロー空港の基地に放り出されていた。
現場の責任者ファレル軍曹(ビル・パクストン)にはケイジは二等兵、しかも自分が実際には将校であるかのように振る舞う脱走兵として伝えられており、有無を言わさずにケイジを最前線に投入される部隊へと組み入れた。機動スーツの安全装置の外し方さえ知らないケイジは隊員たちから嘲笑を浴びる。
そして出撃の日、やはり隊員たちはケイジに対して嘲りの態度を隠さなかったが、目的地上空で事態は急転する。統合防衛軍は“ギタイ”の待ち伏せに遭い、ケイジたちを乗せた戦闘機は墜落する。どうにか着地には成功したが、周りでは同胞たちが次々に命を落としていく。ケイジは何とか意地で、青い“ギタイ”に一矢報いるが、致命傷を受けてしまった。
――次の瞬間、ケイジはヒースロー空港にいた。将軍の騙し討ちに遭い、訳も解らぬまま基地に連れこまれた際のひと幕を自然に演じるファレル軍曹たちの振る舞いに戸惑うが、間もなく自分が同じ時間を辿っていることに気づく。あれよあれよ、と言う間にふたたび戦場へと送りこまれ、そしてふたたび絶命した。
――またしても次の瞬間、ケイジはヒースロー空港にいた。どうしてこんな能力を身に付けたのか理解は出来ないが、しかしケイジは死ぬたびに過去に戻り、戦況を熟知し、そして戦い方を学んでいく――このループから脱出するために。
[感想]
現在と過去を行き来して、事態の打開に臨む――という題材はフィクションにおいては定番といっていい。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に『バタフライ・エフェクト』、『LOOPER/ルーパー』という佳作も最近になって登場している。下手な作り手が挑むと辻褄が合わなくなったり収拾がつかなくなったりしがちだが、翻って、丁寧に事実関係を結びつけ、構成することが出来れば、充分に牽引力のある物語が生まれる――この“構成する”というのが簡単でないので、言うほど手をつけやすいわけでもないのだが。
そんななかにあって、本篇のプロットは極めて優秀だ。宇宙人に仕掛けられた侵略戦争に関わった軍人が、そのさなかに時間の円環に閉じ込められてしまう。もともとは戦闘と無縁な広報担当だった男が、その繰り返しの中で戦い方のコツを学び、侵略者の特殊な生態と自らのタイムループの因果を知っていく。
本篇の巧いところは、ループのすべてをそのまま描くのではなく、既に繰り返しを経験したうえでの主人公の振る舞いを描くことで、その壮絶な“反復”を窺わせていることだ。序盤はビーチでの戦闘において、ちょっとした行動、判断の迅速さで事態を切り抜けていくだけだが、そんな中にあっても、観客に見せていない出来事をもとに、主人公が神憑りな反応を示すひと幕を織りこむ。この描写の繰り返しが、シチュエーションの持つ面白さと過酷さをしっかりと感じさせると共に、のちの出来事の伏線としても機能している。理知的で、痺れるくらいに巧い。
既に充分に完成されたアイディアとプロットを活かすための役者、舞台にもまるで抜かりはない。
主演のトム・クルーズは、本篇の主人公の印象からすると、実年齢は少々トウが立ちすぎている感があるのだが、あまり違和感を与えない。スターとしての貫禄もものを言っているのだろうが、序盤の如何にも実戦経験を感じさせない、頼りない男が、同じ出来事を繰り返し、幾度も戦場を経験していくにつれて精悍さを増していく姿の説得力が、年齢面の違和感をほとんど意識させないためだろう。自身が製作も兼ねて、娯楽大作主体に出演しているせいで、そのあたりは軽視されている傾向にあるが、実は確かな演技力の持ち主であり、本篇のように発想が多彩な表情を求める作品では非常に活きるのだ。
そして、そのトム演じるケイジが活きるために、延々同じような状況で、同じような表情、微妙に異なる演技を代わる代わる要求される周囲のひとびとに扮した俳優たちにも頭が下がる。中盤以降、ケイジが陥るタイムループの状況を理解する協力者が現れるが、その人物とて、ループでケイジが得られる経験や記憶をすべて共有できるわけではなく、毎回違う態度、表情を要求されるのだ。それを管理するスタッフ共々、払わねばならない配慮の細やかさを思うと頭が下がる――観ていてそういうことを咄嗟に意識させないことがまた凄いのだ。
アイディアとプロットが充分によく出来ているから意識する間もないが、アクション・シーンのクオリティも秀逸だ。繰り返されるビーチでの戦闘の圧倒的なヴィジュアルに、次第に高い戦闘能力を身に付けていくケイジの目覚ましい活躍ぶり。やがて物語は戦場以外にも波及していくが、そこでの機動スーツと乗用車とのクラッシュや、崩壊したパリを舞台にしたクライマックスは、本篇をアクション映画と捉えて鑑賞しても満足のいくインパクトを備えている。
ちょっと前に『LOOPER』が公開された際には好事家のあいだでかなり話題となったが、あの作品に感激したような向きは間違いなく観逃すべきではない。そして、複雑なアイディアに興味がなくとも、現実を超えたシチュエーションで繰り広げられる冒険がお望みなら、抵抗を捨てて観てみるべきだ。久々に文句のつけがたい、優れたエンタテインメント大作である。
関連作品:
『ボーン・アイデンティティー』/『Mr.&Mrs.スミス』/『ジャンパー』/『アウトロー』
『マイノリティ・リポート』/『宇宙戦争』/『オブリビオン』/『アジャストメント』/『砂漠でサーモン・フィッシング』/『2ガンズ』/『デンジャラス・ラン』
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』/『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』/『リターナー』/『バタフライ・エフェクト』/『時をかける少女』/『LOOPER/ルーパー』
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