『GODZILLA ゴジラ(2014)(3D・字幕・TCX・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター。

英題:“Godzilla” / 監督:ギャレス・エドワース / 脚本:マックス・ボレンスタイン / 原案:デヴィッド・キャラハム / 製作:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、メアリー・ペアレント、ブライアン・ロジャース / 製作総指揮:パトリシア・ウイッチャー、アレックス・ガルシア、坂野義光、奥平謙二 / 撮影監督:シーマス・マッガーヴェイ,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:オーウェン・パターソン / 編集:ボブ・ダクセイ / 衣装:シャレン・デイヴィス / VFXスーパーヴァイザー:ジム・ライジール / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:アーロン・テイラー=ジョンソン渡辺謙エリザベス・オルセンジュリエット・ビノシュサリー・ホーキンスデヴィッド・ストラザーンブライアン・クランストン / レジェンダリー・ピクチャーズ製作 / 配給:東宝

2014年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:川又勝利

2014年7月25日日本公開

公式サイト : http://www.godzilla-movie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/07/25)



[粗筋]

 1999年、フィリピンの鉱山で、大規模な落盤事故が発生する。大穴が開いたその下には、放射線を放つ謎の化石と、巨大な卵殻めいたものがふたつ存在し、ひとつは割れていた。そして、山腹に開いた風穴から、海に向かって何かが這い進んでいった痕跡が残されていた……。

 それから数日後の日本。ジャンジラ原子力発電所で勤務するジョー・ブロディ(ブライアン・クランストン)は、フィリピンでの地震以来繰り返されている謎の振動と電磁波障害の関連性について憂慮していた。非常時のことを考え原子炉を停止するべきだとジョーは提言するも、なかなか同意が得られないうちに、突如として最悪の事態が彼らを襲った。大きな揺れと共に、警報が鳴り響き、原子炉でトラブルが発生した。調査のために赴いていた妻サンドラ(ジュリエット・ビノシュ)たちがまだ残っていたが、ジョーは隔壁を閉じざるを得なかった。

 15年の時が過ぎた。ジョーとサンドラの息子フォード(アーロン・テイラー=ジョンソン)は成長してアメリカ海軍の爆発物処理班に所属していた。長い任務を終え、久々に帰ったサンフランシスコの我が家で、妻エル(エリザベス・オルセン)と息子サムとの暖かなひとときを楽しむ間もなく、領事館からの電話で、日本に発つ羽目になった。ジャンジラ原子力発電所での“事故”以来、陰謀論に取り憑かれ、執念的に調査を続けていたジョーが隔離区域に潜入して勾留されたのである。ジョーは、最近になって15年前と同様の振動を受信した、と言い、当時のデータと照合するために、“事故”以来戻ることを許されない我が家に入る、と主張してきかなかった。伝手を頼り、再度潜入を試みようとする父を見捨てられず、フォードも同行する。

 隔離地域の様相は、フォードの予測とは異なっていた。廃墟同然となっていたが、メルトダウンによる事故の影響で汚染されている、と聞かされていた内部は思いのほか清浄だった。脱出しようとしたところ、にわかに現れた部隊によって、父もろとも拘束されてしまう。

 ふたりが連行されたのは奇妙な場所だった。大地に穿たれた穴に、巨大な爪のようなものがそそり立っている。それを取り囲むように施設が築かれ、絶えず監視を繰り返している。取調室に閉じ込められながら、繰り返される異変が15年前と同質だ、と主張するジョーを、マジックミラー越しにひとりの男が凝視していた……

[感想]

 多くの日本人にとって『ゴジラ』の名前は特別な感慨を呼び起こすものだ。日本が生み、世界中に浸透していった元祖“怪獣”映画であり、第1作に籠められた反戦のメッセージから、いつしか一種のヒーローものに変化していったその特異な性格、そして思い入れを背負うあまりに袋小路に嵌まっていったことなど、その変化のどの断面に接してきたか、で異なる評価を持っているはずだ。そのくらいの歴史と、思い入れの籠もったシリーズであり、キャラクターである。

 この作品がハリウッドでふたたびリメイクされる、と聞いたときに抱いた感想も様々だろう。かつて『インデペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督によってリメイクされたが、そこで描かれたのは日本のゴジラとはあからさまに別物だった――もし“ゴジラ”以外のタイトルがついていなければ、クリーチャーものとしてそれなりに受け入れられたであろうが、『ゴジラ』を愛する日本人の多くはあれを黒歴史として認識し、或いは笑いに転化してどうにか許容しているようだ。故に、再度のリメイク、と聞いても期待しなかった向きも少なくなかっただろう。

 しかし、もしろくに情報を仕入れず、未だにさほど興味を抱いていないのだとしたら、間違いなく損をしている、と断言したい。これは、“ゴジラ”以外の何かだったエメリッヒ版とはまったく趣を異にした、完璧な“ゴジラ”映画である。

 もし観ていて不満を抱くとすれば、なかなか“ゴジラ”が登場しないことだろう――この項の粗筋においても、いちども“ゴジラ”という単語を用いていないが、実際その姿はおろか、言及する機会も序盤はないのである。また、その序盤でのドラマの凡庸さや、相変わらず珍妙な日本の描写も引っかかるところだ。

 だが、観ていればそれらはすべてほとんど、確信があっての構成か、ファンに対する目配せである、と解るはずである。確かに“ゴジラ”はなかなか出て来ない。しかし、その気配は静かに、緻密に織りこまれている。オープニング、過去の映像として織りこまれるその姿に、1999年に発見される放射能を持つ生物の痕跡、そして日本の一都市を襲う災厄。現代に移り、過去の出来事を背負うひとびとのやり取りにもその匂いは漂い、やがてまさに満を持して、ゴジラはその姿を現す。確かに登場は遅い、しかしその瞬間に向かってじわじわと期待を膨らませ、炸裂させる手管は素晴らしい。耳馴染みのあるあの咆哮が劇場に轟いたとき、きっと肌が粟立つような感覚を味わうことだろう――未知の恐怖に慄然とするが故、とも言えるが、多くのひとは恐らく、興奮と快感に痺れるはずである。

 中盤以降の畳みかけるようなカタストロフィ、並行して描かれるドラマに慄然とし、痺れていられるのは、この少々ゆったりとした序盤に雰囲気を醸成し、伏線を無数にちりばめているからに他ならない。ハリウッドの定番をなぞったかのような、ブロディ一家を中心とする物語はやがて“ゴジラ”を中心とする事件に絡みあい、収集困難に陥りそうな物語のクライマックスを作りだす。また、序盤において、誰よりも事情を知悉する語り部として動く芹沢猪四郎博士(渡辺謙)の口を借りて語られる未知の生物についての推測される性質、特徴が、いざ本物の活動に接することによって変化していき、関係者に迷いを与えていくその様も圧巻である――そして、これこそ本篇が紛う方なき“怪獣映画”である所以なのだ。

 また本篇における“ゴジラ”というモチーフの扱い、ドラマの組み立てには、随所に日本が生み出したオリジナルに対する目配せが窺える。あまりくどくどと記してしまうと、初見で味わえるかも知れない驚きや興奮を損ねてしまう可能性があるので避けたいが、本篇での“ゴジラ”というものの立ち位置、その評価の仕方には、間違いなく日本で育ってきた“ゴジラ”というキャラクターの歴史が影響している。作中で登場する日本のジャンジラなる都市の描写は日本人からすると不自然さが無数にあるのだが、敢えてああした架空の都市にしたことも、オリジナルが提示した核兵器に対する反発や、東日本大震災を経て複雑になった原子力というものに対する感情を慎重に考慮した結果と見える。如何にもありがちな誤解をそのまま用いて、他所の国からすれば日本っぽく見えるが実在しないとひと目で解るような都市を舞台としたことで、本篇の出来事を可能な限りフィクションとして受け止められるように工夫したのではなかろうか――と、これはいささか過大評価かも知れないが。

 オリジナルの『ゴジラ』は、人智を超えた脅威を扱うことが、同時に多くの災害描写を作品に盛り込むことにも繋がる、と示した点でも優れていたが、本篇もやはり、様々な災害を、現代の技術を尽くし、近年の研究に基づいたディテールによって再現している。津波の描写や建物の崩壊は、記憶に新しい幾つかの事件を踏まえているからこそ、それこそオリジナルの『ゴジラ』以上のリアリティを生み出していると言えよう。現実の、同様の出来事に比べると過剰な印象だが、原因が異なるのだからあのくらい強烈であっても構わないのだ。

 そして何より、クライマックスにおける巨大生物の描写が凄い。着ぐるみの形では難しかった、仰角の視点による映像を多用し、人間の手には負えない出来事の恐ろしさ、迫力を実感させる。繰り返される破壊に慄然とするが、同時に爽快感さえ味わうはずである――往年の“ゴジラ”シリーズに胸を膨らませた世代は言わずもがな、未知の存在に憧れる子供たちや、少年の心を持つひとびとの琴線をもきっと震わせるに違いない。

 本篇は疑うことなく、“ゴジラ”の後継者である。大雑把に設定を利用しただけの別物などでは決してなく、単純な1作目のリメイクでもない。一連の作品群を踏まえ、その意志に敬意を表し、援用しながらも新たに組み立てた、本物かつリニューアルされた“ゴジラ”だ。1998年のハリウッド・リメイクに失望したひとは、むしろ積極的に劇場に足を運ぶべきである――きっと、あなたたちが求めていたものがここにある。

 全世界的にヒットを成し遂げているので恐らく、とは思っていたが、日本公開から間もない現時点で、早くも続篇の製作が決定したらしい。それも、ギャレス・エドワース監督続投に加え、ラドンモスラキングギドラの登場の可能性が示唆されている――本篇を踏まえた上でなら、非常に楽しみな話である。エドワース監督は新しい『スター・ウォーズ』シリーズの1篇を手懸けることが決定しており、続篇に携わるのはそれ以降になるという話だが、首を長くして待ちたい。

関連作品:

ゴジラ(1954)

モンスターズ/地球外生命体』/『ホースメン』/『エクスペンダブルズ

キック・アス ジャスティス・フォーエバー』/『許されざる者』/『レッド・ライト』/『トスカーナの贋作』/『17歳の肖像』/『リンカーン』/『アルゴ

クローバーフィールド/HAKAISHA』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『トロール・ハンター』/『パシフィック・リム

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