『ジュラシック・ワールド(字幕・3D・MX4D)』

TOHOシネマズ新宿、入口エレベーター横に設置された電光掲示板に表示されたキーヴィジュアル。

原題:“Jurassic World” / 原案:マイクル・クライトン / 監督:コリン・トレヴォロウ / ストーリー:リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー / 脚本:コリン・トレヴォロウ、デレク・コノリー、リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー / 製作:フランク・マーシャル、パトリック・クロウリー / 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、トーマス・タル / 撮影監督:ジョン・シュワルツマン,ASC / プロダクション・デザイナー:エドワード・ヴァリュー / 編集:ケヴィン・スティット,ACE / 衣装:ダニエル・オーランディ / 視覚効果&アニメーション:ILM / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:クリス・プラットブライス・ダラス・ハワードヴィンセント・ドノフリオ、タイ・シンプキンズ、ニック・ロビンソン、イルファン・カーン、ジェイク・ジョンソン、オマール・シー、B・D・ウォン、ジュディ・グリア / 配給:東宝東和

2015年アメリカ作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2015年8月5日日本公開

公式サイト : http://www.jurassicworld.jp/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2015/08/27)



[粗筋]

 蘇らせた恐竜を巡って起きた事件もいまや昔、その技術は新たに、“ジュラシック・ワールド”というテーマパークを誕生させた。島ひとつをまるまる敷地とし、跋扈する遺伝子工学によって蘇らせた恐竜たちを間近に観察できる、夢の世界である。

 グレイ(タイ・シンプキンズ)とザック(ニック・ロビンソン)は、両親の都合により兄弟だけでこのテーマパークを訪れた。母カレン(ジュディ・グリア)の妹クレア(ブライス・ダラス・ハワード)が現地でふたりの保護者代わりを務めるはずだったが、クレアは現場でこのテーマパークを束ねる重職に就いており、多忙を理由にふたりにフリーパスを渡し、秘書のザラ(ケイティ・マクグラス)に委ねてしまう。釈然としないものを感じるふたりだったが、とにかくお目付役とともにパーク内に赴く。

 甥ふたりのことも気懸かりだったものの、クレアにとっては目下、テーマパーク運営で頭がいっぱいだった。とりわけ現在ジュラシック・ワールドでは、新たな目玉として、新種の恐竜を投入を間近に控えている。従来の、当時の遺伝子から複製した恐竜ではなく、それらの遺伝子をミックスして創造した、ハイブリッド種“インドミナス・レックス”である。出資者たちへのプレゼンや、お披露目のための準備で、クレアには休む暇もなかった。

 しかし、インドミナス・レックスには不安がつきまとっている。様々な種の特性を融合した結果、個体は大きくなり、その凶暴さ故に、一緒に誕生した兄弟を既に食い殺していた。安全性を確保するために、いまの隔離施設で事足りるのか、不安の声も上がっている。“ジュラシック・ワールド”の所有者であるマスラニ(イルファン・カーン)は、安全性の確認のために、オーウェン(クリス・プラット)の助言を仰ぐようクレアに指示した。

 元軍人であり、恐竜行動学のエキスパートとしてヴェロキラプトルの飼育を担当するオーウェンは、隔離施設を視察するなり、異変に気づいた。隔壁扉の付近に、無数の爪痕が残されていたのである。しかも赤外線システムは、施設内に個体反応を検出していない。オーウォンは警備担当とともに施設の内部に向かうが、しかしそれは、遺伝子操作の結果、極めて高い知能を備えたインドミナス・レックスが仕掛けた罠だったのだ。

ジュラシック・ワールド”内部にはグレイとザックを筆頭に数万の客が詰めかけている。間近に見る恐竜たちに上げる歓声が、悲鳴に変わるときが迫りつつあった――

[感想]

 シリーズ旧作についてはしっかり観た覚えがない。第3作あたりまでは、映画そのものにあまり興味がなかった時期に入っていたからだろう。以降も、私にとっては無理してまで観る類の作品ではないかな、とあえてテレビ放映や映像ソフトで鑑賞することまではしなかった。

 にも拘らず今回、最新作を鑑賞したのは、前よりも観たい作品の幅が広がったから、というのもあるが、一番大きいのは、“MX4D”にもっとも相応しいタイプの作品ではないか、と思ったからだ。

 近年、“MX4D”や”4DX”といった、映画に体感型の演出を加える設備が増えつつある。劇中の出来事に合わせて座席が振動したり、背中や足許で何かが蠢いたり、風や水滴が吹き付けられる。こうしたギミックにより、観客に映画の中に入ったかのような感覚を与え、物語を疑似体験させる、というものである。DVDやネット配信の普及により、遠のいていた客足を映画館へと呼び寄せるために行われた工夫のひとつだ。

 作品によってはこの疑似体験させるための演出が視聴の妨げになる危険を冒すことにも繋がり、決してあらゆる作品に向いている、というわけではない。だが個人的には、本篇はこうした体感型演出が特に相応しいのでは、という予感があり、前々から期待していた。或いは同様の期待を抱いていた観客は多かったのかも知れない、私が観に行くつもりだったTOHOシネマズ新宿における本篇のMX4Dによる上映は、チケットの発売開始からすぐに売り切れる、という事態が続いていた。早めに観に行くつもりだったが、こうした事情により、封切りから実に3週間も経ってからようやく鑑賞が叶った、というわけである。

 実のところ、本篇が始まってからしばらくは、体感型に固執する必要はなかった、と感じる程度だ。海竜が吊された餌に食いつくアトラクションで水しぶきが舞ったり、乗り物に乗っているときの振動を心持ち再現してくれはするが、それほどインパクトはない。むしろ、他の作品でもしばしば感じた、劇場側の演出が理解を妨げる弊害が出てしまっている。

 だが、導入が終わり、いよいよパニックが発生すると、状況が一変した。どんどんと悪化していく事態に、演出を意識する隙がない。あまりに熱中しすぎて、わざわざ体感型で観る必要はやはりなかったか、という気分にも一瞬なるのだが、鑑賞後に振り返ってみると、作中遭遇したパニックを非常に生々しく感じていることに気づくはずである。演出に気をとられて本篇に集中出来ない場合とは対極の結果なのだ。

 それは本篇のパニック描写が、観客側の意識を上手くコントロールしている証左だろう。本篇でのパニックは、ほとんどが想像は可能なのだが、あるときは想像通りに運ぶことで興奮を募らせ、あるときは意表を突くことで関心を惹きつける。この変化の付け方が巧みなので、夢中にさせられるのである。

 本篇はここに、随所に息抜きのようなユーモアを採り入れ、緩急をつけていることも巧い。思いがけないものがピンチから身を救ってくれるおかしさや、あれほどの危機の中にも拘わらず、間の抜けた会話を混ぜて脱力させる。だが、この緊張のさなかにふと気の緩む瞬間があることが、程よい癒やしをもたらし、肝心のパニックに対する集中力を維持させてくれる。ハードな作りを志向していたり、気の利かない作り手だと無視しがちなポイントだが、ここを疎かにすると、観終わって興奮よりも疲労のほうが募り、印象を悪くしてしまう。シリーズの基礎を作ったスピルバーグが変わらず製作総指揮に就いて助言を行ったことも奏功しているのだろうが、エンタテインメントとして作りにそつが無い。

 製作中には、作中登場する恐竜についての考証が現代の学説に沿っていないことを批判する声もあったが、いざ鑑賞してみると、それはあまり重要ではないことも理解できる。基本的にこの物語は、シリーズ第1作から地続きになっているのである。第1作で思い描かれた、恐竜を現代に蘇らせた公園を作る、という発想を、作中の研究ごと引き継ぐ、という大前提があって本篇は構築されている。当時の解釈が生き残っているのは、むしろ当然の成り行きなのである。他方で、遺伝子工学の発達により可能となった、人間の手の入った新種を登場させる、という発想などによって新しさを付与することも忘れない。携帯電話やコンピューターの発展により、作中登場する展示やアトラクションの趣向に幅が生まれていることにも注目すべきだろう。

 本篇は、シリーズが辿ってきた歴史と、実在する文化や科学知識をきっちり馴染ませ、オリジナル発表以降により洗練されたエンタテインメントの文法として語ることに成功している。観終わったあとに残る教訓などなく、どこか大味な印象も随所にあるが、それさえも娯楽映画としての姿勢にブレがないことの証だろう。体感型上映に適した内容であることも間違いないが、それは本篇がエンタテインメントとして腰が据わっているからだ。

 そろそろ封切りから1ヶ月になんなんとしているが、未だにMX4Dや4DXといった体感型上映に関しては発売間もなく満席になる、という状態が続いているようだ。この人気ぶりも頷ける、大スクリーンならではの没入感を存分に活かした好篇と言える。次の作品を控えている都合もあるのだろう、そろそろ劇場によっては体感型上映の終了時期を告知しはじめてもいる。

 恐らく、通常の上映でもかなりの臨場感、その場に居合わせているかのような恐怖と興奮を味わえるだろうが、もし近場に体感型上映を行っている劇場があるのであれば、是非とも足を運んでみて欲しい――チケットの確保はなかなか難しいだろうが、それだけの甲斐はあるはずだ。

関連作品:

猿の惑星:創世記(ジェネシス)』/『猿の惑星:新世紀(ライジング)

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』/『大脱出』/『インシディアス 第2章』/『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』/『X−MEN:フューチャー&パスト

キング・コング』/『サウンド・オブ・サンダー』/『ツリー・オブ・ライフ』/『ダイナソー・プロジェクト』/『トランスフォーマー/ロストエイジ

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