『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』

池袋HUMAXシネマズ、シネマ5入口に掲示された時間割。

監督&編集:佐久間宣行 / 脚本:森ハヤシ、佐久間宣行 / アドリブ:劇団ひとり / 製作:南雅史 / プロデューサー:五箇公貴、石井成臣、前田茂司 / ラインプロデューサー:小松俊喜、山村淳史 / 技術統括:野瀬一成 / 撮影監督:風間誠 / 映像:北村宏一 / 照明:宮尾淳一 / 美術:柴田博英 / 衣装:杉本京加 / スタントコーディネーター:雲雀大輔 / 音楽:岩崎太整 / 主題歌:森山直太朗『五線譜を飛行機にして』 / 出演:劇団ひとりおぎやはぎ小木博明矢作兼)、バナナマン(設楽統、日村勇紀)、松丸友紀テレビ東京アナウンサー)、上原亜衣小島みなみ、白石茉莉奈福士誠治中尾明慶柄本時生安井順平入江雅人、戸次重幸、近藤芳正伊藤英明東京03飯塚悟志豊本明長角田晃広) / 企画&制作:テレビ東京 / 配給:東宝映像事業部

2014年日本作品 / 上映時間:1時間59分 / PG12

2014年10月17日日本公開

2015年2月27日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:HMVローソンBlu-ray DiscHMVローソン]

公式サイト : http://www.god-tongue.com/

池袋HUMAXシネマズにて初見(2014/11/04)



[粗筋]

 劇団ひとりこと川島省吾はふたたび、何の事情も知らないまま、ある校舎に連れ込まれた。2013年に発表され好評を博した『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』続篇の撮影なのは解っている(が、いちおうすっとぼけてみる)が、相変わらずシチュエーションは何も知らされていない。

 アイマスクを外されて放たれたのは屋上手前の階段、目の前に現れたのは、省吾もプライヴェートでお世話になっているセクシー女優の上原亜衣。息も絶え絶えに彼女が呟くのは、「あなたとキスできたら、こんな未来じゃなかったのに……」そう言って飛び出していった亜衣を追って屋上に出ると、そこには血を流し倒れる多数の高校生と特殊部隊の姿があった。そして、ふたたび現れた亜衣は、奇妙な力で生き残った学生たちと省吾を翻弄する。そして、亜衣の力は、省吾の命を奪うのだった。

 たぶんその次の瞬間、省吾は保健室で目醒めた。美貌の保健教師白石茉莉奈中尾明慶ら同級生たちにちやほやされる優等生、という自分の設定を悟る省吾だが、そんな彼の前に、ふたたび亜衣が現れた――上半身裸で。

 MCのおぎやはぎバナナマンらが校舎に横付けされたバスで見守る中、物語は予測の出来ない展開を繰り返す。果たして川島省吾は、度重なるキスの誘惑をかわし、無事に物語を大団円に導けるのか――?

[感想]

 スタッフが仕掛けたシチュエーションのなかで、美女たちによるキスの誘惑に耐え続ける、という深夜バラエティ番組ならではの企画のまさかの映画化、これもまさかの第2弾である。

 この企画が映画として成立したのは、劇団ひとりという芸人の才能によるところが大きい。一般のバラエティ番組でも妄想に根ざしたアドリブ芝居を仕掛けて場を掻き回す芸風を備えている彼が、単純にキスの誘惑に抗う、というこの企画を壮大なアドリブ合戦の場に変質させた。起用される女優は、アダルトビデオに出演するいわゆるセクシー女優が中心だが、彼女らもこれを受け止めることで、この一連の企画は『ゴッドタン』の人気を支えることとなったのである。その流れを受け、とうとう映画化まで果たしてしまった。

 前作の想定を超えたヒットを受けて制作された第2作が本篇であるが、そのクオリティは未体験の領域にまで突入した感がある。

“キスを我慢する”というミッションを仕掛けられる主人公は、本篇でも当然のように劇団ひとりが担当しているわけだが、彼のアドリブ対応力は本篇でも遺憾なく発揮されている、どころか前作を超える弾けっぷりだ。序盤では、あまりに突拍子もないシチュエーションに戸惑う場面もしばしば見受けられるが、しかしいったん状況を受け入れたあとのハマりっぷりはアドリブということをほとんど意識させない。予めシチュエーションについてしっかり叩きこまれたであろう他の役者たちがしっかり受け止めているのももちろん重要だが、時としてそういう役者たちをも翻弄してしまうのには凄味さえ感じる。

 特に本篇、この趣向においては白眉と言えるひと幕がある。休息を挟んで事態が一変した後半のはじめ、マキタスポーツを加えてのくだりである。状況設定だけが決まっているアドリブ芝居だというのに、劇団ひとりは明らかに自らが演じる主人公と友人たちの過去をその場で捏造し、当時愛唱した歌、というのを一緒に歌うよう仕向けるのである。一発勝負の収録でこれをやる胆力にも恐れ入るが、探り探りながら受けて立ったマキタスポーツら俳優陣にも頭の下がる想いだ。このくだりを観るだけでも、本篇の企画の無茶苦茶さと面白さを味わえるはずである。

 如何せん、この作品はすべてが確固たる構造に支えられた“物語”があるわけではない。製作者側は予めおおまかなシチュエーションと展開を準備している、と言っても、劇団ひとりのリアクションは操れないのだ。空気を読む、という理屈で予定調和に持ち込むことが是とされがちなテレビのバラエティ番組でのし上がってきただけあって、相手の意を汲み乗っかっていく技術を備えてはいるが、それでも常にスタッフの意図を完全に読み取れる訳ではない。その想定を超えた変化を笑いに結びつける、という一面もあるが、本篇の方法で、筋の通った物語を構築するのはまず不可能だ。事実、本篇においても、劇団ひとりが調子こいて話を膨らませたり、衝動的に話を引っ掻き回したりするので、スタッフが用意していた設定と矛盾を来してしまう場面が少なからず見受けられる。

 しかし、本篇のように、主人公ひとりが全篇アドリブ、という大前提が共有されていると、その物語的な破綻でさえ面白さ、唯一無二のドライヴ感に吸収される。あり得ない方向に転がり、作り手でさえ予測出来ない状況がサスペンスさえ生み出しているのだ。

 そして、この趣向ゆえの破綻が結実したクライマックスは、ちょっと凄い。口から出任せが思いがけず的を捉え、あれだけ脱線を続けた“映画”を、予想もしないところで発端に連れ戻した。このカタルシスは、間違いなく他の映画では味わえない。

 この作品、基本的にはテレビのバラエティ番組を踏襲しているのだ。異様なほど手間をかけて準備しているが、成り行きは劇団ひとりのアドリブと、それを受けて立つ俳優勢次第。たとえば劇団ひとりがどこかで誘惑に乗ってキスしてしまえばルール上は終了だ――そんときゃそんときでこじつけて先に進めることも出来ようが、しかし“キスしそうで、しない”から面白い。何せ『ゴッドタン』を観ていれば解るが、登場するセクシー女優は人気が高く、劇団ひとりもお世話になっているわけだから、油断すると本当にしかねない。何なら一部、キスよりヤバいことしてる気もするが、これもまた一興だ。

 そのお約束に翻弄され、時として演者の側から翻弄し、がっぷり四つに組み合うからこそ生まれる興奮とカタルシス。およそ一般的な映画とはかけ離れているが、バラエティ番組というスタイルが映画という舞台に立ち向かったからこそ生まれるスリルと興奮は、その異種格闘技戦のような組み合わせ故だろう。ならば本篇は、充分に野心的な“映画”だ、とも言える。

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