『プリデスティネーション』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン4入口横に掲示されたポスター。 プリデスティネーション ブルーレイ&DVD セット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]

原題:“Predestination” / 原作:ロバート・A・ハインライン『輪廻の蛇』 / 監督&脚本:ピーター・スピエリッグマイケル・スピエリッグ / 製作:パディ・マクドナルド、ティム・マクガハン、ピーター・スピエリッグマイケル・スピエリッグ / 製作総指揮:マイケル・バートン、ゲイリー・ハミルトン、マット・ケネディ、ジェームズ・M・ヴァーノン / 撮影監督:ベン・ノット,ACS / プロダクション・デザイナー:マシュー・プットランド / 編集:マット・ヴィラ,ASE / 衣装:ウェンディ・コーク / 特殊メイク:スティーヴ・ボイル / ヘア&メイク:テス・ナトリ / キャスティング:マクラ・フェイ・キャスティング、ゲイリー・ハミルトン / 音楽:ピーター・スピエリッグ / 出演:イーサン・ホークサラ・スヌークノア・テイラー / ブラックラボ・エンタテインメント/ウルフハウンド・ピクチャーズ製作 / 配給:Presidio / 映像ソフト発売元:Warner Bros. Home Entertainment

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:長澤達也 / R15+

2015年2月28日日本公開

2015年7月15日映像ソフト日本盤発売 [ブルーレイ&DVDセット:amazon]

公式サイト : http://www.predestination.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2015/03/27)



[粗筋]

 時空を超え、世界に著しい被害を及ぼす犯罪を未然に阻止することを使命とする航時局。その局員のひとりは長いこと、“不完全な爆弾魔”と呼ばれるテロリストを追っている。未だ正体は不明、細かな犯行は阻止できたが、1975年3月にニューヨークで発生し1万を超える人命を犠牲にした事件は未だに回避出来ていない。

 すんでのところまで追い込みながらも逆襲に遭い、全身に大火傷を負った局員は、新しい顔を手に入れた。タイムトラベルは過剰に繰り返すと精神病や認知症を負うリスクがあり、姿を変えた男(イーサン・ホーク)は既に限界が近い。自らもこれが最後と悟り、男は任務に就いた。

 局員が潜入した時代は、1970年11月。バーでバーテンダーとして働きはじめてしばらく、店に一人の客が訪れる。その男(サラ・スヌーク)は、“未婚の母”というペンネームで、女性誌に掲載される不幸話を執筆する物書きだった。バーテンダーは“未婚の母”の読者であることを打ち明け、彼が女の思考を理解して書いていることを賞賛する。何故か、と問われた物書きは、賭けにかこつけて、語りはじめた。「私が少女だった頃」という出だしで。

 その言葉に嘘はなかった。物書きはジェーンという名の女性として生を受けたのだ。孤児院で育ち、周囲と溶け込むことの出来ない変わり者に育ったジェーンの運命が変わったのは、女子高時代に、ひとりの男と出逢ったことがきっかけであった――

[感想]

アンデッド』『デイブレイカー』と、ジャンル映画の基本を押さえつつも豪快なツイストで新鮮な面白さを演出する、というスタイルで評価を得てきたスピエリッグ兄弟が、私の知る限り初めて挑んだ原作つきの映画である。

 とはいえ、やはり一筋縄では行かない内容だ。冒頭こそタイムトラヴェルを軸とし、“不完全な爆弾魔”という得体の知れない人物の犯行を阻止する、という目的が描かれるが、そのためと思しい潜入捜査でいきなり焦点が当てられるのは、奇妙な“男”の告白話だ。あまりに数奇なその運命に魅せられる一方で、「いったいどういう物語に接しているのか」と戸惑う観客もあるだろう。

 だがもちろん、物語は最終的に収束していく。この監督兄弟の作品群の例に漏れず、そのアイディアはSFの定石に則りながらも強烈なインパクトだ――如何せん、初見の驚きを味わっていただくにはこれ以上語りようがないのが歯痒いが、きちんと緻密な伏線に基づいて構築されていることは保証したい。私はこの感想を書くためにブルーレイで再鑑賞しているが、序盤の会話、細かな描写に神経が張り巡らされていることに改めて唸らされた。

 同時に感嘆せずにいられないのが、俳優の熱演である。これもあまり詳しく語ることが出来ないが、こんなに振り幅が大きく、そのくせ制約も強いキャラクターにきっちりと説得力を与えているのが実に見事だ。特殊メイクの力も大きいが、場面によって大きくトーンが変わりつつも、1本芯を通さねば成立しないのだから、やはり本篇の面白さはイーサン・ホーク、そしてサラ・スヌークに負うところが極めて大きい。

 ボンヤリと眺めていると意味が把握出来なくなりそうなほど入り組んだ物語だが、しっかりと向き合っていれば、恐らくほとんどの人は何が起きたのか飲み込めるはずである。そういうふうに出来ているのは、物語の肝を充分に理解し、巧みに整頓、構成した監督兄弟の功績である。100分足らず、という映画として理想的な尺に収めながら、本篇には過不足がない。テンポよく描いているからこそ、一見脱線しているかのような“未婚の母”の昔語りのあいだも関心を惹き続けることに成功しているし、そのあとの衝撃が観客の心に深く突き刺さる。

 率直に言って、物語としてはあまり後味のいいものではない。だが、SF映画が実現する想像の面白さと、それが醸しだす、現実では決して体感出来ない余韻を与えてくれる。ジャンル映画の魅力、ポテンシャルを存分に活かすスピエリッグ兄弟の面目躍如たる傑作と言えよう。

 これを書いている2017年、そんなスピエリッグ兄弟待望の最新作が日本でも劇場公開されることが決まっている。そのタイトルは、『ジグソウ:ソウ・レガシー』――そう、7年前に第7作をもって完結が宣言された『SAW』シリーズの復活編である。

 シリーズが続くほど展開上の制約が厳しくなるなかで、それでも頑張っていたとは言い条、最終的には尻すぼみの感は否めなかった。第7作で決着させたのは賢明、と捉えていただけに、数年前から噂されていた続篇について、個人的にはあまり期待が持てずにいた。

 だが、スピエリッグ兄弟が手懸けたのなら話は違う。これまで、ジャンル映画に対する造詣と愛着とを感じさせる作品ばかり発表してきた彼らなら、隘路に嵌まっていた『SAW』シリーズに新たな光を当ててくれそうだ。

関連作品:

アンデッド』/『デイブレイカー

フッテージ』/『ゲッタウェイ スーパースネーク』/『ビフォア・ミッドナイト』/『6才のボクが、大人になるまで。』/『バニラ・スカイ』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』/『記憶探偵と鍵のかかった少女

バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』/『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』/『リターナー』/『バタフライ・エフェクト』/『時をかける少女』/『LOOPER/ルーパー』/『X−MEN:フューチャー&パスト』/『君の名は。

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