『リズと青い鳥』

TOHOシネマズ上野、スクリーン6入口に掲示されたチラシ。

原作:武田綾乃響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』(宝島社文庫・刊) / 監督&絵コンテ:山田尚子 / 脚本:吉田玲子 / 監修:石原立也 / キャラクターデザイン&総作画監督西屋太志 / キャラクターデザイン原案:池田晶子 / 撮影監督:高尾一也 / 美術監督:篠原睦雄 / 楽器設定&楽器作監高橋博行 / 色彩設計:石田奈央美、竹田明代 / 3D監督:梅津哲郎 / 編集:重村建吾 / 音楽:牛尾憲輔 / 童話“リズと青い鳥”パート音楽:杉田彬人 / メインテーマソング:Homecoming『Songbirds』 / エンドクレジッツソング:小野豊『girls, dance, staircase』 / 出演:種崎敦美東山奈央本田望結黒沢ともよ朝井彩加豊田萌絵安済知佳、野瀬育二、金子由之、桑島法子中村悠一櫻井孝宏 / アニメーション制作:京都アニメーション / 配給:松竹

2018年日本作品 / 上映時間:1時間30分

2018年4月21日日本公開

公式サイト : http://liz-bluebird.com/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/04/23)



[粗筋]

 北宇治高校吹奏楽部は来たるコンクールに向けて動き始めている。自由課題に選んだのは、童話をモチーフにした“リズと青い鳥”。

 フルート担当の傘木希美(東山奈央)は、お気に入りの作品が選ばれたことに浮かれているが、オーボエ担当の鎧塚みぞれ(種崎敦美)はあまり乗り気ではない――コンクールの日が来ないことをさえ望んでいた。

 予想通り“リズと青い鳥”のハイライトであるフルートとオーボエのソロはそれぞれ希美とみぞれが担当することになった。だが、いざ練習を始めてみると、何故かしっくり来ない。

リズと青い鳥”は、孤独に暮らす少女リズを慰めるために、人の姿となった青い鳥が現れ、一緒に暮らす、という物語だ。だが、最後にリズは青い鳥を解き放つ。みぞれにはそれが理解できなかった。きっと自分なら、青い鳥をずっと籠に閉じこめておきたい、と考えてしまう。

 そんな矢先、外部から招かれている指導者である新山聡実がみぞれに、音大への進学を勧めてきた。手渡されたパンフレットを見た希美は、「音大を目指そうかな」と口走り、そのひと言でみぞれも、進学を本気で考えはじめたが……

[感想]

 この作品は、2期に亘ってテレビシリーズが放映された『響け!ユーフォニアム』の続篇である。が、恐らくシリーズに接していなくても充分に楽しめるはずである――かくいう私自身が原作、ひいてはテレビシリーズやそれを再構成した劇場版に一切接することなく鑑賞して、充分に楽しめたので、この点は自信を持って断言できる。もともとのシリーズと関連付けることでより深く味わえる、という性質もあるかも知れないが、単独でも充分に優れた青春物語となっている。

 プロット自体はとてもシンプルだし、テーマも極めて解りやすいものだ。恐らく、本篇で描かれるみぞれや希美の心情は、多くのひとに共感できるものだろう。吹奏楽に限らず芸術、或いは運動の分野でも、似たような経験をしたひとは多いはずである。

 本篇はそうした、誰しも青春期に経験する可能性のある出来事、感じる想いを、“リズと青い鳥”という童話と、それをモチーフにした吹奏楽に仮託して巧みにすくい取っている。

 あまり詳しく書いてしまうと終盤で味わえるはずの興趣を損なってしまうので暈かして記すが、この童話の内容自体が、青春期にありがちな体験と、みぞれと希美というふたりの関係性を実に巧みに象徴するとともに、終盤でちょっとした驚きさえも演出する。モチーフとした楽曲はこの映画のために新たに書き下ろされたものだそうだが、ベースとなった童話は実在している。よくこれほど最適な題材を見つけ出した、と感心するほど本篇に合っているのだ。

 そして、童話の再現やこれを題材とした吹奏楽曲を、本篇は徹底して活用している。それらがみぞれと希美それぞれの心境を巧みに象徴し、ドラマを盛り上げていく。脆く壊れやすい思春期の少女たちの心情を、こうした繊細な素材を何層にも折り重ねて作り出した光景はあまりに切なく、可憐、とさえ呼びたくなる。

 特筆すべきは、音楽の扱いの巧みさである。この点、実はプロローグにあたる部分が既に驚くべき仕上がりを示している。通学路の途中で希美がやって来るのを待ち、やがて現れた彼女の少し後ろを歩いて行くみぞれの心情と呼応するような音の組み立てに、観ている側はみぞれと一体化するような感覚さえ味わえるほどだ。みぞれの心のざわめき、昂揚を、説明台詞もほとんど挿入せずに描ききったこのひと幕だけでも十二分に本篇の高いクオリティが窺える。

 音楽の使い方、という意味では、クライマックスに置かれた、演奏シーンもまた圧巻だ。その後、物語に着地となる会話に充分すぎる説得力をもたらすこのひと幕は、こうした音楽を題材とした映画のなかでもトップクラスと言っていい。

 尺は昨今のオリジナルアニメとしても短めの90分。しかし、この中に青春の苦しさも優しさも美しさも凝縮されている。わざわざシリーズから切り離したタイトルにした意味のある、これ1本で充分すぎる価値のある傑作だ。

関連作品:

映画 けいおん!』/『聲の形

ポッピンQ』/『きんいろモザイク Pretty Days』/『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』/『ベクシル 2007 日本鎖国

スウィングガールズ』/『幕が上がる』/『心が叫びたがってるんだ。

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