英題:“Isle of Dogs” / 監督&脚本:ウェス・アンダーソン / 原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマン、野村訓市 / 製作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、スティーヴン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン / 撮影監督:トリスタン・オリヴァー / アニメーション監督:マーク・ウェアリング / プロダクション・デザイナー:ポール・ハーロッド、アダム・ストックハウゼン / 編集:エドワード・バーシュ、ラルフ・フォスター / 編集監修:アンドリュー・ワイスブラム / キャスティング:ダグラス・エイベル、野村訓市 / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 声の出演:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、高山明、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、伊藤晃、スカーレット・ヨハンソン、ハーヴェイ・カイテル、F・マーレイ・エイブラハム、オノ・ヨーコ、ティルダ・スウィントン、渡辺謙、夏木マリ、フィッシャー・スティーヴンス、村上虹郎、リーヴ・シュレイバー、コートニー・B・ヴァンス、ロマン・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、野田洋次郎(RADWIMPS)、山田孝之、秋元梢、松田龍平、松田翔太 / アメリカン・エンピリカル・ピクチャーズ製作 / 配給:20世紀フォックス
2018年アメリカ&ドイツ合作 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:石田泰子
2018年5月25日日本公開
公式サイト : http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/
[粗筋]
いまから20年先の未来。
日本の雲丹県メガ崎市では、繁殖しすぎた犬が飽和状態になったうえ、“ドッグ病”が蔓延、人間への感染も危惧される事態に発展していた。渡辺ベン教授(伊藤晃)が筆頭となって血清の開発を進めていたが、現在のメガ崎市を治める小林市長(野村訓市は先祖代々の反犬派であり、結成の完成を待たず、犬たちを放棄されたゴミ島に隔離する法案を成立させてしまった。
そして犬の島となったゴミ島には、隔離された犬が溢れかえった。かつては愛された飼い犬たちも、野良犬たちと一緒になって、僅かな残飯を巡って争いを繰り返している。
そんなある日、ゴミ島に1機の飛行機が墜落する。操縦していた少年・小林アタリ(コーユー・ランキン)は小林市長の養子だが、かつて大きな事故に遭って両親を亡くしており、その際にボディガードとしてスポット(リーブ・シュレイバー)という犬をあてがわれていた。飼い犬ではなくボディガードという名目ながら、アタリにとっては大切な友達だったが、小林市長が法案を可決した際、手本を示すため、と称して最初に島送りにされてしまう。アタリ少年はスポットを救うべく、飛行機を強奪して島にやって来たのだ。
墜落の際に怪我を負ったアタリ少年は、5匹の犬たちに救われる。アタリはスポッツを救うとともに、犬をないがしろにする義理の父親に反旗を翻すつもりだった。もともと飼い犬だったレックス(エドワード・ノートン)、キング(ボブ・バラバン)、ボス(ビル・マーレイ)、デューク(ジェフ・ゴールドブラム)はすぐにアタリに恭順の姿勢を示すが、野良犬暮らしの長いチーフ(ブライアン・クランストン)だけは距離を保ち続けた。
一方、メガ崎市では、アタリ少年の失踪を巡って、騒動が持ち上がりつつあった――
[感想]
他国のひとびとが描いた日本像は往々にして、日本人の目から見るとシュールな代物になりがちだ。それは当然で、よほど生活や習慣に精通していなければ、どこかしらに齟齬を生みがちだし、翻って、知識や愛情が溢れすぎていても、現実にはあり得ない極端な世界が出来てしまう。定番のサムライ、ニンジャ、ゲイシャ、或いは背景に富士山あたりを過剰に強調してしまったり、最近だと渋谷・原宿あたりのポップカルチャーをやたらと蔓延させすぎるパターンもあり得る。
かなりの日本贔屓であったらしいウェス・アンダーソン監督による本篇にも、そうした極端さは窺える――が、ほかの作品に見える“ニッポン愛”と一線を画しているのは、実のところ、“ニッポン”という要素をべつにすれば、アンダーソン監督の作風の枠内に収まっているからだ。
アンダーソン監督の作品は常にどこか箱庭じみている。実在の地名を出し、ロケで撮影していても、まるで監督がいちから想像した空間のように映る。劇中に登場する小道具や衣裳、場合によっては建物に至るまで、作品のために独自に作りあげるので、そこに監督の嗜好が色濃く反映されるからだろう。
ゆえに、ストップモーションアニメーションというスタイルで、画面に映るすべてのものを手作りで生み出している本篇は、実写以上にウェス・アンダーソン監督の世界そのものになるわけだ。しかも中途半端に“ニッポン”風にするのではなく、アンダーソンのイメージする“ニッポン”が大量に織り込まれているから、もはやこれはアンダーソン・ワールドとニッポンのハイブリッドみたいな世界観を構築している。
舞台が奇妙な“ニッポン”なら、キャラクターや物語も同様に風変わりだ。同士のあいだでは英語で会話し、まるで人間みたいな価値観を持ちながら、“人間への忠誠心”が行動理念において重要な役割を果たしている犬たち。それが隔離された島の中で、多彩なコミュニティを築いている面白さ。他方、描かれる人間側の振る舞いも様々で、極端ではあるけれど、観客の興味を惹き、しばしば共感まで促したりする。犬だけ隔離する、という政策が不自然だ、とか、子供が飛行機の操縦ばかりか修理まで出来るか? といった突飛な描写もあるが、この世界観、この物語の中においては不自然にならないよう考慮が行き届いている。
かなり特殊で極端、とは言い条、ニッポンの要素が無数にちりばめられていることは、日本人にとって素直に嬉しい。なにせ、冒頭からテロップに日本語が混ざり、オープニングはモチーフとなった和太鼓の演奏を、ストップモーションアニメで再現する。どこかで見たような建物や風景があり得ないタイミングで登場したり、大事なところで登場する俳句が思いっきり字余りだったりするのもいっそ微笑ましい。一見突飛なストーリーの中にも、ニッポンの文化にある特徴についての柔らかな諷刺が紛れ込ませてあるのが絶妙だ。
この世界でのみ通用する物語は、その世界観がいまいちピンと来ないままだと、いまいいち納得できない可能性がある。しばしばグロテスクにもなりがちな造形は、生理的に受け付けない、というひとがいても不思議ではない。しかしそれでも、アンダーソン監督らしいスタイルで構築した世界に溢れるニッポン文化への愛着は隅々まで微笑ましい。いったん惹きこまれたら最後まで楽しくて、愛おしくて仕方のない作品である――なんなら、映画が終わってしまうのがもったいないくらいに。
関連作品:
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』/『ライフ・アクアティック』/『ダージリン急行』/『ムーンライズ・キングダム』/『グランド・ブダペスト・ホテル』
『GODZILLA ゴジラ(2014)』/『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』/『ジゴロ・イン・ニューヨーク』/『ロスト・イン・トランスレーション』/『ライトスタッフ』/『プロミスト・ランド』/『LUCY/ルーシー』/『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』/『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』/『バーン・アフター・リーディング』/『千と千尋の神隠し』/『ディヴァイド』/『50/50 フィフティ・フィフティ』/『君の名は。』/『十三人の刺客』/『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』/『陽気なギャングが地球を回すす』
『オテサーネク』/『ティム・バートンのコープスブライド』/『こまねこのクリスマス 〜迷子になったプレゼント〜』/『フランケンウィニー』/『パラノーマン ブライス・ホローの謎』
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