気になって仕方なかったのですぐに手をつけて、だらだらと読み進めて、ようやく片づいたんですけどね。
この書籍、版元ではこんな風に紹介してます。
数年後には1億円アーティストと噂される現代アート界の巨匠が贈る、傑作ミステリー小説。純粋に論理のみを追求した100%ミステリー小説の、犯人をあなたは当てることができるか?
http://www.toyokeizai.co.jp/CGI/kensaku/syousai.cgi?isbn=06149-5
……この小説のどの辺が純粋に論理のみを追求しているのか、教えてください。
メインの謎は殺害に用いた凶器と、被害者の握らされていた木の枝と、それに彫られた文字なんですが、その辺が明瞭にも拘わらずろくに踏み込もうとせず周縁ばっかりうろうろしていて、推理についても恣意的すぎて論理性は乏しい。読み終わってみたら、謎とも言えない、いちばん最初に想像するような理由でしたし、そもそも放り出している要素があまりにも多い。謎だけ設定して、考えるふりをしていればミステリーになる、と思いこんでいるような感じです。
だいたいこの小説、基本的に犯人は当てられません。いちおうネタばらしとならないよう詳述は避けますが、この内容で“犯人をあなたは当てることができるか?”なんて書いても反感を買うだけだ、と言い切ります。これから読まれる方はそこを割り引くべきでしょう。
しかしその点を割り引いたところで、刑事による事件捜査の過程を描いた作品として読んでも物足りない。人物像が随所でぶれているし、唐突な情景描写があちこちで浮いています。読んでいて途中でこれが1980年代に設定された物語だと気づいたのですが、その必然性もほとんどない。慣用表現にも妙な箇所が見受けられ、特に“ゆうゆうせまらない”というのを目にしたとき、思わず突っ伏してしまいました。
論理的なミステリーとは到底呼びがたいし、警察の捜査を描いた作品としても食い足りないし、旅情ミステリーとしても情緒不足。版元の挑発的なアオリに惹かれて買ってみましたが、正直なところ、著者も編集者もあんまりミステリーを知らないんだろーな、という印象しか受けませんでした。文章だけは比較的平易で読みやすいのは事実なのですが、表現にいちいち不思議な部分があるので、どうも読み心地は良くない。最後のほうはもう付き合いきれない、という思いで読み急いだくらいでした。
そもそも冒険覚悟で買ったものですが、予想よりも酷くてがっくり。
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