『クローバーフィールド/HAKAISHA』

原題:“Cloverfield” / 監督:マット・リーヴス / 脚本:ドリュー・ゴダード / 製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク / 製作総指揮:ガイ・リーデルシェリル・クラーク / 撮影監督:マイケル・ボンヴィレイン,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:マーティン・ホイスト / 編集:ケヴィン・スティット,A.C.E. / 衣装:エレン・ミロジュニック / 出演:マイケル・スタール=デヴィッド、マイク・ヴォーゲルオデット・ユーストマン、リジーキャプランジェシカ・ルーカス、T・J・ミラー / バッド・ロボット製作 / 配給:Paramount Pictures Japan

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間25分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2008年04月05日日本公開

公式サイト : http://www.04-05.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/04/05)



[粗筋]

 5月22日18時43分から翌朝にかけて、マンハッタンを中心に発生した事件――暗号名“クローバーフィールド”ののち、かつてセントラル・パークと呼ばれていた地域にて回収されたビデオカメラ。一民間人ロブ・ホーキンス(マイケル・スタール=デヴィッド)が所有していたと見られるこのビデオカメラに収められた85分間の映像は、人類史上例のない出来事の一部始終を、民間人の立場から克明に捉えていた……

[感想]

 そもそも、公表された段階から衝撃的な作品であった。日本で初めて本篇の予告が流されたのは『トランスフォーマー』本篇の直前、映画館ごとに組み込む予告編部分ではなく、配給会社あるいは製作会社の段階で組み込まれる部分に、違和感のあるホームビデオ風の映像が流れ、それが突如、阿鼻叫喚の地獄絵図にすり替わっていく。何かの映画の予告であることは察しがつくのだが、製作がJ・J・エイブラムスであること以外に題名など具体的な情報が示されず、あまりに思わせぶりな作りに、映画愛好家のあいだですぐさま話題となった。その後も情報を小出しにする手法により、ギリギリまで好事家の歓心を引き続けたその広告の方法論自体も注目を集めた、異例の作品なのである。

 かくいう私もそうした広告手法に惹きつけられて公開を心待ちにしていたのだが、いざ公開された作品は、率直に言えば直前の情報から類推された通りの作品であった。単刀直入に言えば、怪獣版『ブレアウイッチ・プロジェクト』である。

 が、予想がついたから拍子抜けした、というわけではない。むしろその枠の範囲で完璧な仕上がりを志し、見事に成し遂げた優秀な作品である。

『ブレアウイッチ・プロジェクト』は着眼こそ優れていたが、恐怖を客観視するあまり怖さをあまり感じないこと、またドキュメンタリー・タッチに固執するあまり、序盤の表現が後半のリアリティと齟齬を来すといった欠点があったが、本編の製作者達はそれを念頭に置いていたのだろう、発見されたビデオテープをほぼそのままの状態でアーカイヴに残している、という設定に対して矛盾した表現がない。

 その一方で、実験的な手法が陥りがちな独善的な話運びに偏らず、きちんと物語として、シンプルながら流れが組み立てられている点も評価に値する。詳述は避けるが、冒頭から用いられているこの趣向のお陰で、ただ逃げまどっている人々を描くのではなく、カメラを中心とする人々の行動にきちんと動機付けを齎し、成り行きに不自然さを感じさせない工夫をしている。

 映像のリアリティも出色である。現実にこういう異様な出来事に遭遇すれば、どういう手順で現象を撮影するかをきちんと考慮しており、事態の原因である“怪物”の実像は直接撮さず、その脅威を画面の片隅で捉えたり、地響きや軍による応戦の様子などによって間接的に描くことで、圧倒的な臨場感を表現している。ビルの倒壊による影響の表現など、911での事実を踏まえている点でもインパクトが強烈なのだ。

“怪物”についても、決して語りすぎていないことが威圧感と恐怖とを充分に盛り上げているのだが、しかし日本人からしてみると、この“怪物”の造型には少々苦笑いせざるを得ない。もともと製作のJ・J・エイブラムスがキャンペーンで日本を訪れた際に、未だに愛されているアレの存在からインスピレーションを得たという話だったが、そこからするともう少しストイックな造型であることを望んでいたものの、実際に登場したのは、日本人にとって悪い意味での既視感を齎すものだった。確かに、単純に巨大な化物が現れる、というだけでは登場人物たちに細かな危機が訪れることもなく、手法ゆえに中弛みに陥る危険があったことを考えると致し方のないところなのだが。基本デザインが如何にもハリウッド的なクリーチャーであったことも少々残念に思う。

 だがその点を踏まえても、ああした常軌を逸した危難に遭遇した人々の姿を生々しく描き出す、という本来の意図からすれば、驚異的な完成度を誇っている。期待を存分に募らせて観に行っても、決して裏切られることのない1本と言えよう。もしあの衝撃の予告編を目にしたうえで期待を寄せていたのであれば、その仕掛けを万全の形で堪能するためにも、是非とも劇場で鑑賞していただきたい。

 ……ただ、これは本国での公開直後から取り沙汰されていたことだが、やはりハンディ・カメラによる撮影という手法ゆえにやたらと動き回る映像は、体調が悪いと確実に酔う。その辺は考慮する必要があるだろう。実際、映画が始まったあたりから胃の調子が悪くなりはじめた私には非常にきつかった……

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