『真昼の死闘』

真昼の死闘 【ベスト・ライブラリー 1500円:戦争映画&西部劇特集】 [DVD]

原題:“Two Mules for Sister Sara” / 監督:ドン・シーゲル / 原案:バッド・ベティカー / 脚本:アルバート・マルツ / 製作:マーティン・ラッキン、キャロル・ケイス / 撮影監督:ガブリエル・フィゲロア / 美術:ホセ・ロドリゲス・グラナダ / 大道具:パブロ・ガルヴァン / スタント・コーディネーター:バディ・ヴァン・ホーン / 編集:ロバート・E・シュグルー / 衣装:ヘレン・コルヴィグ、カルロス・シェヴス / 音楽監修:スタンリー・ウィルソン / 音楽:エンニオ・モリコーネ / 出演:クリント・イーストウッドシャーリー・マクレーン、マノロ・ファブレガス、アルベルト・モリン、アルマンド・シルヴェストレ、ジョン・ケリー、デヴィッド・エスチュアルド / 配給:Uni×CIC / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

1970年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:?

1971年2月6日日本公開

2010年8月4日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVDにて初見(2010/11/09)



[粗筋]

 メキシコの荒野を旅していたホーガン(クリント・イーストウッド)は道中、裸の女性がゴロツキどもに取り囲まれているところを目撃する。機転を利かせてゴロツキどもを倒したホーガンは、女性に服を着るように告げるが、戻ってきた女性を見て驚愕した――彼女が着ていたのは、尼僧服だった。

 サラ(シャーリー・マクレーン)と名乗ったその女性は、メキシコ独立運動に携わるゲリラ支援のために資金の調達を手伝ったという理由から、フランス軍に追われる身となっていた。実はホーガンは、別のゲリラの一派であるベルトラン大佐(マノロ・ファブレガス)から情報収集と計画の立案を依頼されており、サラの持っている情報が極めて有益であることを察知すると、彼女としばらく行動を共にすることを決める。

 途中、フランス軍の駐屯地を発見したふたりは偵察を行い、間もなくチワワの拠点に物資が運び込まれることを嗅ぎつける。資金は寄付に依存し、兵糧もおぼつかないゲリラにとって、これ以上の兵力差が生じれば致命的な事態だった。ホーガンはゲリラのもとを訪ねる前に、列車の先回りをして足止めしようと目論むが――

[感想]

 のちに傑作『ダーティハリー』を生み出すドン・シーゲル監督とクリント・イーストウッド、2度目のコラボレーション作品である。少しずつ現代劇へシフトする意向を窺わせていたところへ、再び西部劇に舞い戻った格好だが、自身の出演作をある程度吟味した上で決めていた節のある彼のこと、やはり本篇も決してストレートな西部劇ではない。

 舞台が国境を越えたメキシコであること、独立運動に絡むエピソードであることなどはむしろ些細な問題、というよりまだ西部劇の枠内に収まっているが、ポイントはシャーリー・マクレーン演じる“シスター・サラ”だ。原題ではタイトル・ロールであり、テロップの上でもイーストウッドに先んじてシャーリーの名前が掲げられていることからも窺えるが、本篇は徹頭徹尾、彼女の存在が鍵となっている。

 イーストウッド自身はいつもと同じ、イデオロギーよりも金を稼ぐことを優先する名無しの風来坊といったキャラクターを貫いているが、そんな彼が女性に振り回され、終始ペースを乱される様はいつもとは異なる洒脱さとユーモアに彩られている。この前の作品である『荒鷲の要塞』といい、この2作品でイーストウッドは、彼の持つ個性が他の俳優との組み合わせでどう活きるのか、試行錯誤を繰り返しているような趣がある。前作は初めての戦争映画、初顔合わせの監督を前にややお飾りのような位置づけであったが、本篇は自分が親しんでいた人物像と舞台に戻すことで、本来の味わいを発揮しつつもどう変われるかを試していたかのようだ。

 その結果、なかなか面白い効果が上がっているのだが――如何せん、ひとつのひねりのために、人によってはあまりいい印象を抱かない危険のある構成になっていることも事実だ。序盤こそ、シャーリー・マクレーンの役柄と彼女の振る舞いの愛らしさ、不思議な高潔さが、寡黙なアウトローながら芯の通った物言いの際立つイーストウッドと絶妙のハーモニーを奏でていて、西部劇でありながらまったく異なる雰囲気を醸しだしているのだが、少しずつサラのある部分が顕わになるにつれ違和感が生じ、気づくとまったく違ったところに着地している。

 伏線は張ってあるし、不自然さはないのだが、序盤の雰囲気を貫いていればまた別の面白さがあったのでは、と惜しまれてしまう。本篇の展開もまた非常に個性的であることは確かだが、何となく、裏切りが過ぎるように思えてしまうのが弱みだろう。ユーモラスなラストシーンも、それまでの描写を踏まえてはいるものの、過剰すぎて滑稽さばかりが際立っていて、好みが分かれそうなところだ。

 ところどころ大雑把な部分も目立つものの、観客に与えるインパクトを考慮したシナリオと、中心人物であるイーストウッドシャーリー・マクレーンの表情をきちんと押さえた演出が見事に噛み合っていて、完成度は高いのだが、そのクライマックスがもたらす衝撃を巧く和らげることが出来ず、かなり人を選ぶ仕上がりになってしまった印象だ。この作品を“好き”と言いきれる人は、なかなかひねくれ者かも知れない。

関連作品:

荒野の用心棒

夕陽のガンマン

続・夕陽のガンマン

奴らを高く吊るせ!

マンハッタン無宿

荒鷲の要塞

許されざる者

コメント

タイトルとURLをコピーしました