死後に届いた怪談。

 現役最高齢だったポルトガルの映画監督マノエル・ド・オリヴェイラが亡くなって数ヶ月。当然ながらもう新作が撮られることはないのですが、作品自体が死ぬわけではない。また、幸か不幸か、オリヴェイラ監督には日本未公開作品、映画祭ではかかったけど一般向けの上映はしていない作品もある。そんな中の1本が本日、封切られます。私としては足を運ばない訳にはいかない。

 本日の劇場は渋谷のBunkamuraル・シネマ。最近、観る作品が大作やエンタテインメントに偏りがちなのでちょっと足が遠のいてましたが、文芸作品のチョイスに優れた劇場です。オリヴェイラ作品にはちょうどいい。

 作品は、監督が1952年に雛型となる脚本を書きながらも映画化はならず、2010年にようやく製作されたという1本、写真家の青年が美女の遺体を撮影したことで、その幻影に苛まれる怪談めいたドラマアンジェリカの微笑み』(Crest International配給)

 ……きょう敢えて観ることにしたのは、そのくらい好きな監督だったから、というのはもちろん、体調的にもいけそうだ、と判断したからで、その上で電車での移動にして体力を温存したんですが……それでも駄目でした。眠かった……好きな監督ではあるけれど、心身に余裕がないと途中で意識が飛びます。何とか保ちましたが。

 発想は上で触れた部分だけ、あとはひたすら淡々とした描写を積み重ねているだけなので、イベントには乏しい。ただ、どこか風変わりな会話が醸し出すムードと、そんな中でいつの間にか異界に手招きされている主人公の表現は、実に怪談らしい。恐らく監督があまりこだわっていなかったからなのでしょう、安易な合成が気になるといえばなりますし、けっきょく“何故こんなことが起きたのか”を仄めかす描写に乏しいので、却ってうまい匙加減の不条理感を演出しています。他の作品よりも更にローカル感が強いため、ヴィジュアルが圧倒的に美しい、というわけではないんですけど、構図が決まっているので端正な佇まいを感じさせる。傑作とは言えませんけれど、オリヴェイラ監督らしい1本でした。

 鑑賞後は蕎麦屋で昼食を摂り、自転車での移動をやめた分の運動不足を取り戻すべく、原宿まで歩いてから電車に乗って帰宅。

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